人類の普遍的価値を伝える社会的な作品が増えている背景
今回のカンヌで私は、Cannes Lions Film部門のショートリストを中心に、250本ほどの作品を見た。その中には、笑える作品、泣ける作品、感動する作品など素晴らしいフィルムがたくさんある。そして、人類の普遍的価値「自由・平等・友愛」をプロモートする社会的な作品も数多くあったので、いくつか紹介しよう。
たとえば、「#EqualFuture - Pocket Money」というフィルムは、男女の賃金格差解消を訴えている。Gender Equality(男女平等)という価値に立脚したキャンペーンになっている。
同様に、「THE REAL 10 - #TheNew10」も、平等を扱っている。
「HOW TO GET PERFECT RED LIPS」は、あきらかに、反暴力を唱えるものだ。これは、市民の倫理としての友愛(博愛)の価値を反映している。
「I AM YOUR FAN」には、家族愛を感じることだろう。
「SUPER BOWL BABIES CHOIR」も、アメリカ的だが、家族愛を表現している。
「Marriage Market Takeover」は、固定概念に囚われずに自由に生きる権利を訴えている。これは、そのものズバリ「自由」を尊重するものだろう。
そして「SHOPLIFTERS」が今年のFILM部門でグランプリを受賞した。この広告はイギリスの百貨店「Harvey Nichols」がクライアントで、万引き犯を防犯カメラが捉えた映像を素材に使っている。これも、イギリスの社会問題としての万引き(犯罪)、その背景に所得格差や貧困問題が見え隠れしている。
2010年頃から、カンヌではこのような社会的作品が増えてきたと聞いている。この背景にはおそらく、グローバルな企業活動の拡大とコミュニケーションのグローバル化があるだろう。
グローバリゼーションで生まれた地球規模の多国籍企業(グローバル・ブランド)は、自らのアイデンティティを特定の国家や地域の文化、あるいは、特定の価値観に求めるのが難しくなった。日本国内で日本人向けにビジネスをしているときは、日本人にだけ分かるメッセージを発信していても通用する。しかし、多国籍企業は、グローバルにビジネスをしている訳だ。自ずとコミュニケーションもグローバルに通用するもの、普遍的なもの、を好むことになる。
グローバル・ブランドのコミュニケーションは、普遍的価値の持つ磁力に引き寄せられるのだ。その結果、人類の普遍的価値「自由・平等・友愛」など基本的人権を核にしたコミュニケーション戦略を作り、広告やマーケティングを実施するようになってくる。
地球規模に進展するグローバル社会の中で生息するブランドは、引き続き、ある程度の確率で、人類の普遍的価値を拠り所にしてメッセージを発信してくるだろう。逆に言えば、世界経済が順調で、安定した時代には、そのような人類の普遍的価値に依拠したコミュニケーションは減るのかもしれない。そして、比較的ローカルなビジネスをおこなう企業は、そのような世界的に通用するアイデンティティを必要とせず、人類の普遍的価値を拠り所にすることは少ないのかもしれない。時代状況によっては、社会的な作品は減って、広告クリエイティブとして、純粋に面白い作品が増えるのかもしれない。