「個客エンゲージメント」が重要視される背景には何がある?
約20年前、CRMが流行った時期にも叫ばれていたキーワード“パーソナライズ”。しかし今、当時とは比べ物にならないほど重要度が増しているとSAPジャパンの阿部氏は語る。
「その背景には、何よりテクノロジーの進化があります。CRMの時は、個客を捕捉する手段が限られていたため、実際には実現できないことが多かった。ですが、スマートフォンやSNSなどの爆発的普及を経た今なら、その手段は豊富です。しかも、個客対応を実現してエンゲージメントできるか否かが、業界の勝ち組と負け組を一気にひっくり返すようなビジネスインパクトを起こす。そのことに既に多くの企業が気づいています。あとは、実際にやるかどうかという段階ですね」(阿部氏)
じゃあ、なぜやらない? 企業が抱える2つの課題
しかし、アノニマスな顧客(個人を特定でない段階の顧客)を獲得する技術や環境が整ったといえども、現実には実施できていない企業が多い。それはなぜか? 企業を阻んでいる理由として、阿部氏は2つのものを挙げる。意思決定の問題とデータ突合の困難だ。
理由1:意思決定の問題
デジタル化を進め、アノニマスな顧客を個客に変えることは、企業にとって非常にインパクトのある話だ。本当にやるかどうか、どうしてもトップダウンの意思決定が求められる。しかし、海外に比べ日本の会社は、こういった物事の進め方が得意ではない。勝ち負けのルールが全く新しくなり、ビジネスモデルを一気に変えるような破壊的な決定には、気が引けてしまうケースが多いのだという。
理由2:データ突合の困難
アノニマスなユーザーの情報を得たあとは、その中でどのような特性を持つユーザーが顧客になるのか判断するために、既存会員の情報との突合が必要となる。しかし、この2つの情報を管理している部門やテクノロジーは異なる場合が多い。一般的に、アノニマスなユーザーを管理するのは、DMPやECのログ情報などを管理するマーケティングに近い部署だ。一方、既存会員情報やその購買情報などは、基本的に基幹システムに入っており、いわゆるIT部門で管理されていることが多い。
しかも、その基幹システムはオンプレミス型であるのに対し、マーケティング側はクラウド型だったり、外部のパートナーにアウトソースしていたりする場合も多い。つまり、2つの融合は部署的にも責任範囲の面からも、とてもやりづらい状況なのだ。
「そのため、部門を超えた融合をリードする人がいないんですね。これは30年前に起きた、バックオフィスの部署ごとのサイロシステムを融合するERPで起きた話と構造は似ている。今回はフロントオフィスのサイロ化を1つにできるかどうかなんです」(阿部氏)
では、なぜERPの時はサイロシステムを1つにできたのか。それは、まずトップダウンの指示であったことはもちろん、何より現場が導入しやすいソリューションが存在したことだという。「当時、そのソリューションを当社は企業が迷ったり余計な手間をかけたりしないように、パッケージ形式で提供しました。当社では今回も、これさえ導入すれば1つにまとめられるパッケージとして“SAP Hybris Marketing”というソリューションを用意しています」(阿部氏)
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高い網羅性で、サイロ化を阻止するSAP Hybris Marketing
では、その“SAP Hybris Marketing”は、具体的に何ができるのか。阿部氏は大きく3つの領域があると語る。
1)マーケティングオートメーション
マーケティング側が利用する領域だ。例えばキャンペーンを作成して、メールのひな形をつくり、ターゲットに対してメールを一斉配信したり、開封したユーザーには別のキャンペーンを投げたりなど、一連の流れをオートメーション化できる。
2)データマネジメント
マーケティングで重要なのは、“どのユーザーに”どんなキャンペーンを行うか。そしてそのユーザーのポテンシャルは、昔に比べてよくわかる状態になっている。SAP Hybris Marketingでは、アノニマスなユーザーの情報(クリックレベルの情報や、IPアドレスのようなログデータ、システムログに近いもの)と、既存会員のビジネストランザクション情報(購買や支払いなどの情報)を1つに融合できるパッケージとなっているため、データを入れれば欲しいレポートがすぐ出せる。
「基幹システムのデータモデルと、DMPやパブリッククラウドのログデータのようなデータのアーキテクトの考え方はだいぶ異なるため、この2つの情報を融合できるパッケージやプラットフォームは、今までなかなかありませんでした。融合しようとしても、入れるデータの型をデザインできる人が極めて少ないんですね。SAP Hybris Marketingでは、オムニチャネルを考慮したテーブルがすでにデザインされているので、それに合わせていただくだけでデータの統合・管理・活用ができるようになります」(阿部氏)
3)アナリティクス
上記の2種類のデータをシステムに入れて突合したあとは、よりターゲットになりそうなユーザーを発掘しなければならない。その実現のためには、ビッグデータを高速で扱うためのパワー、データアーキテクチャー、インメモリテクノロジーやビジネスアプリケーションのインテリジェントエンジンも必要となる。当然この3要素も兼ね備えている。
例えば、パワーの面では同社はインメモリデータベース“SAP HANA”で実現。また、膨大なデータからのターゲット抽出は人力ではやりきれない。そのため、システム自体が機械学習するPredictive Analyticsというエンジンで実現している。「これらは、なかなか1社で持つことができない組み合わせです。だからこそ今までサイロ化していた」と阿部氏。
「サイロ化していた状態では、それぞれに特化した部署で、特化したシステムを使い、その間を伝書鳩でつないでいるイメージです。つまり、様々な不要なインテグレーションをしていた。しかしこれからはそれを根本的に変えてしまって、みんなで楽になろうというのがSAP Hybris Marketingの考え方です」(阿部氏)
さらにSAPの強みとして、ありとあらゆるモデルが想定されていることがある。例えば、顧客情報が分散している場合、国や事業、ブランドなどによってビジネスモデルや言語などが違っていることが多い。しかし、1つの仕組みに融合する場合は、それらの違いを必ず吸収しなければ、結局は各部署が独自に使いやすい仕組みをつくってしまい、サイロに逆戻りしかねない。
グローバルに展開し、25のインダストリアルソリューションを持つSAPには様々な知見が蓄積されている、その幅広さと網羅性から各社の状況に合わせた解決策を提案できる。ビッグデータに必要となるインメモリテクノロジーを備えていることや、前述のERP統合の経験があることも心強い点だろう。
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情報の重要な接合ポイントであるEC、いかにデータを一元管理するか
ECソリューションを提供しているところも、SAPが他社と大きく違う点だ。例えば、アノニマスなユーザーを会員化するためにFacebookから自社サイトにランディングさせることを考えると、エントリーポイントの多くはECサイトとなるだろう。同社はECもマーケティングの要素として考えている。
「ランディングさせた瞬間、沢山の情報が入ってきますし、そのエントリーポイントは基幹システム側との大切な接合ポイントになります。多くのベンダーの場合はマーケティングシステムと言えばほとんどMA側だけの話になりますが、当社はカスタマージャーニーを全てつなげようという考えのもと、ECも含めてご提供できます」(阿部氏)
視界を晴らすことに尽力するか、進み方の検討に注力するか
では、SAP Hybris Marketingの導入で、個客対応においては具体的にどのようなことができるのか。現場レベルでは、まず全てのカスタマージャーニーを管理できるようになる。アノニマスなユーザーに対しても、“全然わからない”状態から特定が可能になるため、多くのユーザーを会員化させることが今までよりも容易になる。会員化させられれば、そのユーザーのことをより深く知ることができる。得たデータをインメモリテクノロジーで高速回転させつつ、インテリジェンスを使ってアプローチできるようになる。すると、よりパーソナライズされたオファーをしながら、リアルタイムにその結果を分析し、業務の最適化や迅速化を図ることができる。
「今までは、見えなかったものを見える状態にするためだけに莫大なエネルギーを使っていたものが、SAP Hybris Marketingによって既に見える状態からスタートできるようになる。視界が良好な状況で“何をするか”という戦略や施策の検討に集中できるわけです。当然、マーケティングの施策の精度は上がりますし、回数が増えるのでビジネスの成長も早くなります」(阿部氏)
さらに、ユーザーをマスで深く分析できるようになるということは、経営レベルでも選択や集中の判断をしたり、ビジネスモデルそのものを見直したりなど、会社全体・業界全体にインパクトを与える取り組みにつながるだろう。現在、ビジネス環境の変化は加速の一途をたどっている。この状況においてSAP Hybris Marketingは、大きなポテンシャルを持つ。阿部氏は強く強調する。
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