日産がイスを作った? 話題になった動画の狙いとは
2016年2月に日産が公開した「インテリジェントパーキングチェア(Intelligent Parking Chair)」は、使用後に手を鳴らすと、自動で定位置に戻るという画期的なイスだ。公開されたユニークな動画は大注目を浴び、瞬く間に世界中でシェアされた。
多くの人が「どうして自動車メーカーの日産が、こんなイスを作ったの?」と疑問に思ったのではないだろうか。 そこで今回、同キャンペーンを担当した冨井祐樹氏に詳細を取材した。
車の技術を伝えるために、一旦、車から離れてみる。
冨井氏は現在、マスメディア領域全般と、オウンドメディアやソーシャルメディアなどのデジタル領域の施策をすべて担当するクリエイティブグループに所属しているが、インテリジェントパーキングチェアは昨年まで所属していた販売促進部での施策だ。冨井氏は当時、同部署のソーシャルメディア担当として施策に携わった。
このソーシャルメディアチームでは昨年、100%電気商用車「e-NV200」をベースにしたバーベキューカーを作り、クラウドファウンディングで機能を追加する『究極のスマートBBQカー』の取り組みや、車に乗る前にボンネットを叩いてエンジンルームやタイヤの間に入った猫を追い出し、事故を防ぐ『猫バンバンプロジェクト』など、車と生活者を結びつける企画を展開していた。一方で、“技術の日産”をハブにしたコミュニケーションを目的とした取り組みが、このインテリジェントパーキングチェアだ。
インテリジェントパーキングチェア施策の根底には、日産の非購入検討層や、車にそもそも興味関心がない層へ、いかに日産を知って、好きになってもらうかという課題があった。
「お客様がいざ車を買おうとなった時に、検討のテーブルに日産を上げていただくためには、一体どうすべきかを考えていました。日産というブランドの認知は高いため、従来のコミュニケーションをしたり、webページを制作したりすれば、車に興味のある人は目を向けてくださいます。しかし、車にあまり興味がない人は違います。そのような方々にも“日産って良い技術を持っているんだな”と思ってもらうには、何か別の回路を用意しなければならないと考えました」(冨井氏)
そこで、一度車から離れて、学生も社会人も広くあまねく多くの人々が普段使っているモノにフォーカスを当てることにした。
「“こんなものがあったらいいな”と多くの人が一度は思ったことがあるものをご用意して、そこから、“これも日産の車の技術? おもしろいね”と思ってもらえれば、と考えました。ですから、別にイスでなくても良かったのです。最大公約数となるフックのアイデアを出し合うなかで、イスが自動で片付いてくれたら便利だよね、という話が出て、インテリジェントパーキングチェアを作ることになりました」(冨井氏)
さらに自動車メーカーなのに、なぜイスを? という驚きをフックに、拡散させるために動画を制作。また、リアル感や説得力をもたせるため、実物を展示して実際に動きを見てもらえるようなイベントも開催された。