学習ビッグデータを活用した「スタディサプリ」のメールマーケとは
月額980円で、小学・中学・高校・大学受験に必要な5教科18科目、1万本以上の授業動画を配信するオンライン学習サービス「スタディサプリ」。
オンラインサービスならではの低価格と、学生に評判の人気講師の授業がスマートフォンやタブレットで場所や時間を問わず視聴できる自由度の高さ、ユーザー一人ひとりに最適化した学習環境を提供することを強みに会員を伸ばし、42万人以上の会員を誇るサービスになっている。また、学校で導入されるケースも増え、朝学習や自習、宿題に利用する高校が1,000校を超えるなど、その活用の幅も広がっている。
そんな「スタディサプリ」を運営しているリクルートマーケティングパートナーズでは、2011年のサービス開始から蓄積してきた学習ビッグデータを活用したパーソナライズなメールマーケティングに数年前より取り組み、効果を上げている。
同社で、ビッグデータエバンジェリストとして「スタディサプリ」のデータ活用を推進する萩原静厳氏は、ユーザーとのコミュニケーション手段としてメールを使う理由を「お客様が望むチャネルに合わせてコミュニケーションしようとすると、メールは重要なチャネル」と説明する。
「我々が主にメールでコミュニケーションを取るのは、利用者であるお子様(ユーザー)と、利用の決定権を持つ親御様。それぞれにサービス利用を促したり、親御様に向けては、お子様の学習履歴を報告したりしている。
その際、高校生ぐらいのユーザーになると、タッチポイントとしてTwitterなどのSNSが増え、サービス利用中にブラウザ上でコミュニケーションを取ったりもしますが、30代後半~40代後半が多い親御様の年代だと、一般的にメールの利用率が高い」(萩原氏)。
CDP×メール配信システムがメール施策を最適化
また、効果的なメールマーケティングのためには“分析”が鍵になると萩原氏は続ける。
現在同社では、トレジャーデータが提供するCDP「TREASURE CDP」と、チーターデジタルが提供するメール配信システム「MailPublisher」とのコネクタを使いシステムを連携。トレジャーデータから得られる詳細な分析結果を基に、ユーザーに適切なタイミングで自動的にメール配信する仕組みを整備している。
「利益を向上していくため、私たちが課題としているのが『会員獲得』です。メールのCVRを上げて新規会員を増やしていくことはもちろん、『スタディサプリ』は月額制サービスのため、ユーザーの継続利用を促すことも非常に重要です。
しかし『使い方がわからない』『成果が上がらない』といった理由で解約につながることもあります。そこで、継続して使っていただく目的で『個々に最適化した学習方法』をユーザーごとに分析し、ユーザーであるお子様自身や親御様にお伝えする仕組みを作っています」(萩原氏)
MarkeZineとチーターデジタルが考えるメールマーケティング最前線
広告、LINE、アプリ、SNSなどデジタルチャネルは大体出そろった今こそメールについて考えよう
顧客理解を深める“フロー情報”を大切に
実際のメール施策として、「スタディサプリ」トライアル会員後のユーザーの行動を分析し、有料会員化の比率を上げるためのメールアプローチを行った事例が紹介された。
トライアル会員登録初日には、「サービスの特長の訴求」「使い方の提案」「ユーザーの課題解決」が書かれたメールを配信。
3日目ぐらいから「期間限定特典の訴求」を付け加えたり、トライアル最終日には、「現状の利用状態の確認」「当日限定特典」を含んだ内容を送る。これが配信システムにより、自動的に配信されるようになっている。
「データをしっかりとると、ユーザーの行動サイクルがわかるので、レコメンド・パーソナライズが容易に実現できます。今までユーザーの会員情報は『氏名』『年齢』『住所』などストックなもので、それをマーケティング活動に使っていたと思うのですが、我々は『訪問回数』『前回訪問日』などのフローな情報こそ重要だと考えている。
それに加えて、『流入集客』『PV・クリック数』などの“行動ログ”を掛け合わせ、運用に手間はかかるが、『タグ情報』や『構造データ』などの“コンテンツ情報”をつければ、よりフロー側の情報がリッチになっていく。
そうすることで、その人に付与できる情報量、文脈などが圧倒的に増え、非常にパーソナライズしやすくなり、コミュニケーションがどんどん進化していく。それを自動化して磨いていくと、メールが有り難い存在になると考えている」(萩原氏)。
分析データを活用した3つの取り組み
メールマーケティング以外でも、解析したデータを活用した色々な取り組みにチャレンジしている。その一つが東京大学の松尾研究室との共同研究だ。
東大松尾研究室との共同研究
高校の数学学習カリキュラムは積み上げ型で、教科書の順番通りに授業が行われるが、その順番でつまずいてしまう生徒も出てくる。
そこで、教科書の単語をデータ化したものと、「スタディサプリ」のユーザー行動データを掛け合わせてカリキュラムをネットワーク化することで、最適な学ぶ順序を作り出し、つまずかないで勉強ができるようになる仕組みを研究開発している。
さらにこのデータ解析をより細かく行い、最近ではディープラーニングを使って次に解く問題の正誤予測ができ始めている。昨年度にはそれを使った実証実験を実施。小・中・高校約50校を対象に「苦手克服レコメンド」を提供して、それを先生から生徒に配布して生徒ごとに克服すべき講義を伝えた。
「その結果、生徒は自分がわかっていないポイント、どこを勉強すればいいのかがわかるようになって、学習の量が増えてくる。『苦手克服レコメンド』を着実に学習した生徒は、学習しなかった生徒に比べて半年間で数学2.8ポイント、英語0.6ポイント偏差値が上昇したという結果も出た」(萩原氏)
JINS MEMEを活用した“集中マネジメント”
今年4月に、リアルな学習の場として開校した「スタディサプリラボ」では、メガネブランド「JINS」との共同研究も開始。ラボの中で生徒に学習時にメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME」を着用してもらい、アプリ「JINS MEME OFFICE」で瞬きや黒目の動きなど、フィジカルなデータを取って集中度の変化を計測。集中の度合いが「成績・合格」にどう影響を及ぼすのかを調査している。
受験用言語データベースの構築
テキストマイニングやディープラーニングを使った動画データ解析技術で、「スタディサプリ」講義動画内の音声データ(先生の声)や文字データ(黒板の文字) をテキスト化することで、動画内にある「ユーザーが見たいシーン」を簡単に検索できるように取り組んでいる。
「こうして分析データを活用することで、効率的な学習の実現、ひいては学習の進化にも貢献すると考えている」と萩原氏は話す。
MarkeZineとチーターデジタルが考えるメールマーケティング最前線
広告、LINE、アプリ、SNSなどデジタルチャネルは大体出そろった今こそメールについて考えよう
現状におけるメールの特性・利点は何かを考えよう
最後に、萩原氏はメールマーケティングの現状に対する自身の考えとして、以下6つの項目を挙げた。
- メールはよりフォーマルな手法になってきている
- 表現力(+情報量)はメールが一番強い
- デバイス横断で閲覧するチャネルはメールが一番
- 他チャネルとのゼロサムではない
- すべては目的と分析(結果)に依存する
- レコメンド等のコンテンツパーソナライズはメールが効く
「こうしたメールの特性や利点を理解した上で、コミュニケーションすることが重要だと考えている。6.のコンテンツパーソナライズについては、パーソナライズすると、『あなたの好きなモノはこれですよね』とレコメンドがホットになってくるが、それを見るのは情報量を担保できるメールが適している。
そして、パーソナライズするとコミュニケーションの量も増える。そうなるとメールは重宝されるだろうし、1.であげたフォーマルさが『私宛に届いたメール』と感じてもらいやすいのではないか」と萩原氏。
「メアドは貴重な資産なので、メールマーケティングは今後も必須だと思って取り組んでいきます」と強調し講演の最後を締めくくった。
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