チーム編成を刷新、結果を残せるインハウス体制に
カラフルで軽く、快適なフットウェアの提供をグローバルに展開するクロックス。同社の日本支社であるクロックス・ジャパンで、国内のEC並びにデジタルマーケティング全般を統括しているのがイーコマース ディレクターの木村真紀氏だ。
クロックス・ジャパンは、木村氏が入社した2011年以降、ECおよびデジタルマーケティングにおけるチーム編成を全面的に刷新。大胆な改善に取り組み、マーケティングの成功に結びつけている。
木村氏入社直後は、ECを運用するチームしかなく集客施策を打てていない根本的な課題を抱えていた。木村氏はそこにメスを入れ、新たなチームを編成した。
現在のメンバーは合計8名。偶然ながら全員が女性という、ユニークかつ少数精鋭の体制だ。木村氏の統括のもと、2017年1月から3つのチームが設けられている。1つ目が「オンサイトマーチャントチーム」。ECサイト(crocs.co.jp)上での企画とその実施、およびECサイト内のアクティビティの責務を担う。
2つ目が「商品チーム」。クロックスは半期で450以上のスタイルをリリースするが、日本でどういった商品を揃えるかといったマーチャンダイジングを担うチーム。そして、3つ目が「デジタルマーケティングチーム」。先に上げた2チームはいわば店舗内の最適化を担うが、デジタルマーケティングチームはECサイトのトラフィックをドリブンすることを主目的としている。
「3チームの構成は、北米やヨーロッパ、アジアも同様です。商品チーム以外の2チームは、2013年から既に連携して進めてきました。2015年から米国が先んじてECの下に商品チームを入れて運用したところ、良い結果が出たので、日本はじめ他エリアでも導入しチームの盤石化を図っています」(木村氏)
お客様に対する姿勢は変わらない、手法は進化する
木村氏は、クロックス・ジャパン入社前からデジタルマーケティングに携わり、BtoC、ECの分野で約14年の経験を重ねている。
デジタルマーケティングの趨勢を振り返ると、時代の変遷と技術革新が進む中、「変わらないこと」と「変わっていくこと」のそれぞれに最適な対応を心がけてきたという。
「最近カスタマージャーニーという言葉が取り上げられることが多いですが、14年前から当然カスタマージャーニーを描いていました。ビジネスやお客様に最適な形でシナリオを用意して、お客様にステップメールの送信などをしていたわけです。最適なタイミングで最適な情報を。これは、今に始まったわけではなく、いつでも変わりません」(木村氏)
この認識自体は、クロックス・ジャパンのマーケティングの現場でも同様だという。たとえば、サイトに訪問したものの購入せずに離脱した人たちにコンタクトしたいケースなら、特定の行動をとって離脱した顧客を抽出してメールを送付する。昨年商品を購入した顧客に向けて買い替え需要を喚起するメールを送る、といったことは長年にわたり行われてきた。
では変わったことは何か。
「変わった点の一つが、新たなチャネルの台頭。今はLINEがコミュニケーションツールとして欠かせません。それにテクノロジーの進化、とりわけマーケティング施策のオートメーション化が進んでいます。これまで以上に確度の高いOne to Oneのコミュニケーション施策が手がけやすくなりました」(木村氏)
こうした背景のもと、木村氏が統括するチームに欠かせないツールが、「Salesforce Marketing Cloud」(以下、Marketing Cloud)と「Salesforce Commerce Cloud」(以下、Commerce Cloud)だという。
One to Oneの実践で、どれだけ売り上げを上乗せできるか
では現在のクロックス・ジャパンは、どのようなカスタマージャーニーを描きチーム内で共有し、Marketing CloudとCommerce Cloudを活用するのだろうか?
「私たちは、“これが弊社のカスタマージャーニーマップです”という一つの図を描き、全体で共有しているわけではありません。ですが、オンサイトマーチャントチームが常に顧客の行動を見て、ジャーニーを描き、施策を打っています。作成したジャーニーや、それに伴う施策の結果は3チーム合同の定期的な会議で共有することで、チーム内でのカスタマージャーニーに対する認識のブレを防いでいます」(木村氏)
具体的にはユーザーを見込み顧客と購買済み顧客に分け、それぞれのカスタマージャーニーを設計し、そのうえでサイト上の行動などをトリガーに、約15のシナリオを用意しているという。この数は他社と比べて決して多くないと木村氏。
「ウェルカムメールを何十種類も用意する企業もありますが、私たちはそこまでのフェーズに至っていませんし、リソースとコストのバランスがあります。一斉配信メールとOne to Oneのコンビネーションを見ながら、頃合いの良いシナリオ数に抑えています」(木村氏)
頃合いの良さとは、たとえば、一斉配信で売り上げの10割を占めていたとしよう。One to Oneマーケティングの実践でさらに2割の売上を上乗せするためにどうするかを考えるイメージだ。
「オンサイトマーチャントチームがCommerce Cloudを、デジタルマーケティングチームがMarketing Cloudを活用しています。オンサイトマーチャントチームがCommerce Cloudを介してクーポン施策を打ち、ECサイトでのクーポン利用の有無を管理します。そのデータをもとにデジタルマーケティングチームがMarketing CloudでOne to Oneのメール施策を行う。この連携で従来なら難しかった2割を獲得できるわけです」(木村氏)
サンダルの会社ではないと伝えるために
先程までは売り上げとシナリオについて触れたが、そもそもクロックスに興味を持ってもらい、ECサイトに足を運んでもらわなければ話は始まらない。
「私たちは各国と互いのジャーニーを紹介し合いますし、キャンペーンについての意見交換も欠かしません。そこでわかってきたことが、国や地域でさほど傾向に差異がないこと。ユーザーの反応のしどころは、案外どこの国も似ているということです」(木村氏)
反応の傾向がわかった時、求められるのはグローバルでの商品コンセプトをいかに日本人が理解しやすく伝えていくかだ。
「グローバルが掲げる2017年のキャッチコピーは“come as you are”。“自分らしく、私らしく”クロックスのウェアを履きこなしてほしい、という気持ちが込められています。
商品を購入したことがない人ほど、クロックス=サンダルカンパニーという印象が強いかと思います。そのため、快適に履けそうだと思っていても利用するシーンが想像できない・限られるなど、購入にハードルを感じている。
しかし、私たちは足元をこれまでになく快適に、楽しく彩ることをミッションとしており、様々なラインアップを用意しています。様々なOccasion(場面)でも快適に楽しめるクロックス、というコミュニケーションができるよう努めています」(木村氏)
欠かせない「LINE」という選択肢
木村氏が現在注力しているコミュニケーションがLINEだ。各地の実店舗、オンラインショップでLINE@のアカウントをそれぞれで運営していた状況から、2017年4月、クロックス・ジャパンとして公式アカウントを開設。
LINEの公式アカウントでは月に最大4件までメッセージを配信できるが、2回をECショップに、残りの2回をそれぞれ新商品情報とブランディングに振り分けて運用している。
ここでも、オンサイトマーチャントチームがカスタマージャーニーに基づき、ECやバナーをはじめとする広告クリエイティブ、コミュニケーションを司り、デジタルマーケティングチームがメール、バナー、LINEを巧みに使いこなす体制が効いてくる。
「たとえば、本日18時から6時間限定のプロモーションを行う場合、LINEなら実効性が高い。メールかLINEか、一斉配信かOne to Oneか、常に見極めながら最適化を図っています」(木村氏)
また、クロックス・ジャパンはユーザーが投稿するコンテンツ(UGC)も重要視している。
「ユーザーが実際に履いているOccasion(場面)こそ、私らしい履きこなし(come as you are)といえます。ハッシュタグ「#crocs」と入れた投稿の中で使用許諾の得られたコンテンツを、バナークリエイティブなどに活用しています」(木村氏)
新規顧客の獲得が最も重要
顧客中心のマーケティングを実践し、さらなる強化を実行するクロックス・ジャパン。今後の展開について聞いたところ、木村氏から2点の言及があった。1点目はLINEへの取り組みだ。
「2017年に実施したLINE施策では、LINE経由の入店者数が非常に多く、手応えを感じています。Marketing Cloudを導入する私たちにとって、2016年にセールスフォースとLINEが機能連係したのは朗報でした。LINEビジネスコネクトを使ったOne to OneマーケティングをMarketing Cloudベースで実施できるよう、現在準備中です。新たなコミュニケーションへのチャレンジで成果を期待したいですね」(木村氏)
もう1点がスマートフォンの最適化だ。
全体のトラフィックに占めるモバイルの割合は、日本だと約7割。にもかかわらず、以前は売り上げが全体の35%しか占めていなかったという。そこで、木村氏がグローバルに掛け合ってCommerce Cloudのベースフォーマットをスマートフォンに最適化し、エリアごとにチューニングをできるようにした。
「システムはグローバルで管理していますが、日本独自の事情に応えられるカスタマイズは、今後さらに継続したいですね。日本のことを一番よく知っているのは私たちだという思いは強いです」(木村氏)
木村氏は「デジタルマーケターにとって新規顧客の獲得は最も重要なミッション」だと強調する。既に今後に向けた打ち手を複数用意していることも伝わってくるクロックス・ジャパンが、木村氏のリーダーシップのもと、どのような新しいOne to Oneマーケティングを展開するか。大いに注目したいところだ。
カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント
加藤:小売業において、売上に占めるモバイル比率の向上は命題です。これに応えるアプローチとして、クロックスさまの取り組みからは、4つのキーワードが見えてきます。ECサイトのモバイル対応、LINE対応、One to One (パーソナリゼーション) で売上を2割上乗せ、CommerceとMarketingテクノロジーの連携。これらはどれも今の時代のカスタマージャーニーに対応するために欠かせない要素だということが、実感できるインタビューとなりました。
押久保:「時代の変遷と技術革新が進む中、『変わらないこと』と『変わっていくこと』のそれぞれに最適な対応を心がけてきた」。さらっと語っていますが、デジタル時代になったからといって全てが変わるわけではありません。最適なコミュニケーションを設計する上で非常に大切な視点だと感じました。また、各国で情報共有できる点は外資系企業の大きな強みといえるでしょう。
カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、押久保率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら。
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