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キリンはなぜ今、チャットボット型接客ツールを導入したのか?その狙いとは

 ここ1年で急激に注目度が上昇しているチャットボット型接客ツール。株式会社ALBERTの佐藤氏によると、昨年に比べ近頃では、多種多様な業種でチャットボットの導入相談が増え、需要の高さを感じるのだという。まだ先進的な取り組みであるチャットボットの導入を、いち早く実行したのがキリングループの国内総合飲料事業を統括しているキリン株式会社だ。キリン株式会社がワイン事業でチャットボットを導入した背景と現状の取り組みについて、キリン株式会社 デジタルマーケティング部 主務の寺田氏と、その導入を支援した株式会社ALBERTの佐藤氏に話を聞いてきた。

編集部注:ALBERTのチャットボット「Proactive AI」は2019年2月28日付で「スグレス」に名称変更した。

チャットボットで新しいワインとの出会いを創出!

――はじめに、キリンがワイン事業(事業会社:メルシャン株式会社)のマーケティング施策の一環として運営しているWebサイト「ワインすき!」の概要を教えてください。

寺田:「ワインすき!」は、ワインをもっと自由に気軽に楽しんでもらうことをコンセプトに、ワインに関するコンテンツを提供するWebサイトです。ユーザーとの関係性を構築することを目的に運営しており、ワインに合うレシピをはじめ、ワインに関する知識やイベント情報などを紹介しています。

 ユーザーはワインに広く興味があり生活に取り入れたいとお考えの方ですが、その中でもワインに感度の高い20~30代の女性を意識したサイト作りに取り組んでいます。会員機能もあり、会員になっていただくとレシピへのコメント書き込みや、プレゼントキャンペーンへの応募ができるといった特典も用意しています。

オリジナルキャラクター みのりさん
オリジナルキャラクター みのりさん

――今回、「ワインすき!」にALBERT(アルベルト)の「Proactive AI(プロアクティブエーアイ)」を導入されたとお聞きしました。

寺田:はい。「Proactive AI」を採用し、オリジナルのチャットボット「オフィシャルアシスタント おしえて!みのりさん」を9月14日に導入しました。みのりさんというキャラクターを通じて気軽にワインのことを相談していただき、新しいワインとの出会いを体験していただきたいと考えています。

チャットボット導入の背景にあった2つの課題

――今回のチャットボット導入の背景には、どのような課題があったのでしょうか?

キリン デジタルマーケティング 主務 寺田智伸氏
キリン株式会社 デジタルマーケティング部 主務 寺田智伸氏

寺田:今回、2つの課題がありました。1つは、会員に対する“ユーザーメリットの創出”です。サイトに掲載されているコンテンツの多くが非会員でも楽しめるものになっているので、これまでは会員限定のメリットがいまひとつ見出せていませんでした。そのため、今回「Proactive AI」を会員専用のサービスとして導入しています。

佐藤:会員専用のサービスとすることで、「Proactive AI」の導入から約1週間で1,000人強の新規会員を獲得できたというお声を頂き、大変嬉しく思っています。

寺田:たくさんの会員が、みのりさんに話しかけて下さっています。飲み残したワインの活用方法や、開栓後の保存期間の目安、保存方法、飲みやすいおすすめのワインなどを聞かれることが多いですね。

佐藤:みのりさんがワインを提案した後に「みのりさんのおかげで美味しそうなワインを見つけました!」「みのりさん、ありがとう」というようなお返事をいただくこともあり、嬉しいですね。

寺田:またもう1つの課題は、「ワインすき!」に蓄積されたコンテンツを効果的に活用できていなかったことです。現在サイトには400以上のワインとそれに合う300以上のレシピ、さらにはワインに関する知識などが300記事以上あります。これらのコンテンツはお客様の課題解決につながる資産として活用できるものですが、過去のコンテンツなどは特にユーザーの目に入る機会が少なかった。ユーザーのニーズに合わせて最適なコンテンツをお届けできるよう、チャットボットの導入を決めました。

 みのりさんはワインの紹介だけでなく、ユーザーの相談内容に応じてコンテンツのレコメンドをすることもできます。この機能を通して、サイトに掲載されている多くのコンテンツを有効的に活用できると考えています。

他社に先駆けたアドバンテージを 早い導入が功を奏す

――なぜ今、チャットボットを導入されたのでしょうか?

寺田:今回の「ワインすき!」への導入は、キリンとして初めてのチャットボットの導入事例です。これには、他社に先駆けて知見を得て、アドバンテージを得たいという狙いがありました

佐藤:チャットサービス自体は昔からあるものですが、チャットボットは、ここ2~3年で急激にサービスの数が増え注目されています。チャットボット型接客ツールを弊社が企画しβ版をリリースしたのが昨年の12月頃でしたが、その後ECサイトをはじめ金融機関や自治体など、幅広い業界からのお問合せが増え、需要の高さを感じます。 

 今後は導入して当たり前のツールになっていくはずです。チャットボットは、はじめから完璧なツールという訳ではなく、学習を重ねることで賢くなっていくものです。各Webサイトに適合するように、改善を繰り返して成長させていく必要があります。よって、本格的に活用するためには、なるべく早く導入してより良くしていくことが大切なんです

 来年導入されるWebサイトと「ワインすき!」を比較すると、回答の精度は全く異なってくると思います。

寺田:確かに、導入してみてチャットボットを成長させていくことの重要性を感じました。みのりさんもまだ完璧ではないので、ユーザーとの円滑なコミュニケーションが取れるように、PDCAを繰り返していきたいです。

Web上でもワインソムリエに相談できるようなオリジナル機能を開発

――では、「Proactive AI」とはどのようなツールなのか、教えてください。

佐藤:はい。「Proactive AI」は、リアル店舗でのお客様とのやり取りを、オンライン上で実現するチャットボット型接客ツールです。 

 特徴的な機能として、ユーザーが欲しい商品を検索すると最適な商品を表示する「対話型商品検索」や、ユーザーがサイトを離脱する前に先回りして声掛けをする「プロアクティブサポート」、よくある問い合わせに自動で回答する「問い合わせ自動応答」があります。今回「ワインすき!」ではこの3つの機能をフルでご利用いただいています。さらに“インテント検索”という機能も導入いただきました。

――“インテント検索”は、具体的にどのような機能ですか?

インテント検索 イメージ画面
インテント検索 イメージ画面

佐藤一問一答ではなく、ユーザーがチャットボットと対話しながら商品を絞り込み、検索できる機能です。たとえば、ユーザーが「ワインを紹介して」と話しかけると、目的・予算・種類の選択肢が表示されます。この中からユーザーがワインを選ぶ条件として重視するものを選択すると、続けてユーザーのニーズを深掘りする質問をいくつか何問か繰り返し、最適な商品を提案することができます。ワインソムリエに相談するようなやり取りをWebサイトでも行えるとイメージするとわかりやすいと思います。

――特にこだわったことはありますか?

寺田:このインテント検索機能を含め、ワインを提案する部分は、導入に際し最もこだわりました。ワインは種類も価格もとにかく豊富なので、選ぶのが難しそうというイメージをお持ちの方も沢山いるはずです。ワインに特別詳しくない方でもわかりやすい質問からニーズを引き出して、ぴったりなワインを提案できるように、提案するまでの最適なプロセスを探りました。

 具体的には、ワインは好きだけど詳しくない社員を集めて座談会を開き、普段どのような条件でワインを選んでいるかについてヒアリングを実施しました。すると彼らがワインを購入する時に条件とする内容や、その優先順位が見えてきたので、そのプロセスをインテント検索に反映させています。今後は実際にユーザーがインテント検索を使用した結果を分析して、精度のブラッシュアップを行っていきます。

――導入の際は、他社のチャットボットとも比較されましたか?

寺田:はい。数社からお話を聞き、こちらの要求事項に応えられているかをベースに、付加機能、コストなどから比較検討を行いました。ALBERTさんは弊社の要求に全て応えて下さったことももちろんですが、インテント検索機能のようにカスタイマイズの自由度が高かった点が決め手となりました。また、こんなこともできますよ、もっとこんなこともやってみたいです!といった感じで、熱量も感じました。

――柔軟なカスタマイズを実現できる理由はなんですか?

佐藤:弊社は、分析力をコアに事業を展開しています。またアナリスト、エンジニアの両方が社内にいることにより、分析した内容を一気通貫でシステム化できることも大きな特長です。自然言語処理のエンジンも自社開発していますので、カスタマイズなどの対応も自社内で柔軟に行うことができます。

――「Proactive AI」導入にあたって、必要なデータや作業にはどのようなものがありましたか?

佐藤:データとして提供いただいたのは、CRMデータのみです。ワインやレシピの商品情報はWeb上でタグを導入いただければ、商品データを自動収集します。

寺田:我々が行ったのは、各ワインに対して、ユーザーにヒアリングする項目のタグを付けていくことです。この作業でレコメンドの精度が変わってくるので、徹底して取り組みましたね。苦心したのはこの点くらいで、その他の部分はメンテナンス画面で簡単に修正できますし、レポーティング機能も充実していて、ダッシュボードで随時分析することも可能です。とても扱いやすいツールですね。

よりパーソナライズ化された接客を目指す

――今後は、どう活用していこうと考えていますか?

寺田:もちろんユーザーとの関係づくりがメインではありますが、利用していく上でユーザーの声、ニーズがわかってくると思うので、ユーザー理解のために活用していきたいです。ワインはお酒の中でも多数のカテゴリーがあり、的確にニーズを捉えることが重要です。みのりさんに沢山話しかけてもらい、そこで蓄積されたデータをワイン事業のマーケティング資産として活用していきたいです。

アルベルト 佐藤氏
株式会社ALBERT システムソリューション部 Proactive AI カスタマーサポートリーダー 佐藤沙矢香氏

佐藤:弊社は、引き続き機能面を向上させていきます。たとえば、今は「ワインを紹介して」という言葉を受けて、みのりさんはワインの提案を始めますが、今後はユーザーが話しかけたメッセージと意図を学習することで、自然な対話形式によるワインの提案も実現したいです。具体的には「パーティーに合う手頃なワインはありますか?」という問いかけに対して、料理名や品種などをヒアリングしながら最適なワインを提案できるようにしていきます。

 また、蓄積したデータをもとに提案の精度を自動で向上していくという「学習機能」にも引き続き注力していきます。

寺田中長期的には、パーソナライズを実現して、それぞれの会員に適切な接客ができたら良いですね。あとは、ALBERTさんの強みでもある“データ分析力”で我々の活動の資産になるような情報をどんどん提供して頂けると良いなあと……(笑)。

佐藤:はい。その部分は連携いただいているCRMデータを活用して強化しています。パーソナライズ化が実現すると、ユーザーの特徴や嗜好性に応じたやり取りやコンテンツの紹介ができるようになります。たとえば、レシピコンテンツの閲覧データから、ユーザーの好きな料理や食材を導き出してそれに合わせたレシピやワインをレコメンドするなど、提供するコンテンツの最適化にも注力していきます。

 弊社の強みでもある分析力とテクノロジーを用いることで、ユーザーに届ける価値を向上し、ユーザーコミュニケーションの活性化を推進していきます。

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/03/19 18:32 https://markezine.jp/article/detail/27261