MAに対する企業の課題意識が変わってきている
2000年設立のシャノンは、マーケティングクラウドやコンサルティング事業を展開しており、今年1月にはマザーズ上場も果たしている。クライアントはBtoBの企業が7割ほどで、マーケティングオートメーション市場では、7年連続でシェアナンバーワンとなっている。
「Marketing is Scienceが弊社のモットーで、テクノロジーとサイエンスで企業のマーケティング課題を解決するのがミッションです。たとえば、MAはあくまでツール。活用はしますが、課題解決でビジネス成長につなげることがより重要です」(中村氏)
シャノンでは、毎年マーケティング課題についてのアンケートを企業の担当者に実施している。そこでの“何を課題に感じているか”という問いに対する回答として、近年ずっと“マーケ活動の成果が見えない”が1位だったが、今年は3位に下がったという。
「MAを導入すると、マーケティング業務やプロセスの見直しが起こり、データをきちんと集めていこうというコンセンサスが広がり、販促・マーケ活動の成果が可視化できます。MAの活用が広がる中で、マーケ活動成果も可視化できるようになってきたのです」(中村氏)
一方、新たな課題として存在感を増しているのが、「成果を挙げるための、コンテンツ企画・制作」だ。データは取れるようになっても、実際のコンテンツを作るリソースが足りないなどの背景が考えられる。
次に、自社のマーケティングをどのように評価しているのかを質問したところ、約半数が“自社の行っているマーケティングのレベルは他社に比べ低い”と回答している。
「しかし、裏を返せば、もっとやれることはあるということ。そして、マーケティング活動がビジネスに対してどれくらい貢献しているのか、把握しづらいと答える方も多くいらっしゃいます。
マーケティングのビジネス全体に対する効果がハッキリ言えないから、予算を取り辛いこともあるでしょう。マーケティングは新しいことをやろうとするとお金がかかりますから、施策を進めながら成果を証明して、新たな投資につなげたい、というのが各企業の課題だといえそうです」(中村氏)
アナログとデジタルを組み合わせるのが、これからの成功の形
BtoBビジネスは、まず情報収集による認知から、興味関心、比較検討、商談という購入意思決定プロセスをたどる。従来は、顧客が自社のことを知っていてくれさえすれば、声がかかり、コンペのテーブルに載り、比較検討の対象となることができた。
しかし、デジタル時代にはPCでクライアントの担当者自身が調べて、比較検討を済ませてしまっている。担当者は依頼したい会社を決めてしまってから、社内的に体裁を整えるためにコンペを行ったうえで、あらかじめ決めておいた会社に発注するというケースが多い。つまり、デジタルでの比較検討プロセスで顧客の心をつかめないと勝負にならない、という話はマーケターならばよく耳にするはずだ。
しかし中村氏は、顧客の姿はさらに変わってきていると話す。
「デジタルに情報があふれかえった結果、今のお客様はデジタルだけでなく、デジタルとアナログにまたがった行動をしているのです。たとえば、ここにいらっしゃる皆さんは、情報収集が目的ならば、わざわざ今日のセッションを聞きに来る必要はなかったかもしれない。ひととおりの情報はネットで探せばありますし、当社もホワイトペーパーなどを出していますから。
ところが、皆さんは今日のセッションに足を運んでくださいました。これこそが顧客の変化を物語っています。
自社の課題がどこにあり、それをどのような手段で解決すればよいか、明確でないことも多いでしょう。ベンダーがWebで自社のプロダクトの優れた点を強調しているのを見ても、自社で採用したときに本当に効果があるのか、判断に迷うこともあるでしょう。そんなときに、顧客はアナログな場で話を聞いてみたい、と考えるのです。
したがって、情報収集のフェーズで、デジタルでの情報発信だけでなく、アナログによるアプローチを組み合わせるのがベストなのです」(中村氏)
コーネル大学の調査によると、まったく見知らぬ相手に、同じセリフでお願い事をする場合、メールよりも面と向かって話を聞いてもらう方が34倍も効果的だという。
こうした背景のもと、シャノンはデジタルとアナログの組み合わせを重視しており、クライアント企業のイベントも支援している。
「3Dなどのデジタルのイベントなども手掛けますが、やはりアナログのイベントに比べると、同じ内容でも見に来る人が少ないんです。やはり長時間にわたって、黙々と画面を見るのは辛いんですよね。アナログの方が間違いなく集客はあるし、しっかり見て体験していただける。考えてみると、伸びている会社や有名な会社ほど、アナログのイベントをやっていませんか」(中村氏)
もちろん、デジタルが非常に重要なのは間違いがない。重要なのは、顧客の体験を中心にマーケティングをすることだ。デジタルがいいとか、アナログがいいとかではなく、顧客がどのような体験をすれば成約に結びつくかを考え、デジタルとアナログを適切に組み合わせてマーケティング設計を行うべきなのだ。
濃いアナログ施策“懇親会”で、契約数アップ
次に中村氏は、「たまごリピート」というサービスでEC支援を行っている、テモナ株式会社の事例を紹介した。テモナは既存顧客を分析してペルソナを設定しており「事業を始めた人」「事業がうまくいかない人」「これから通販を始めたい人」「通販がうまくいっていない人」といった成長フェーズにあわせてコミュニケーションを設計して顧客化を推進している。
「なかでも、これから通販を始めたい人のためにセミナーを開催していますが、特徴としては、セミナー後に必ず懇親会まで開催していること。テモナさんはECの成長企業なので、どちらかというとデジタルで効率的に一気にコミュニケーションを取って顧客を増やしていそうですが、実はこういったアナログな取り組みもされています。デジタルとアナログを組み合わせたマーケティングで成長を実現しているんですね」(中村氏)
懇親会に参加した企業の受注率は、高いという。ECを始めるかどうかで迷っている人や、不安で踏み切れない人が、懇親会で膝を交えて話すことで不安が解消されて、契約に至るのではないかと中村氏は考えている。
ターゲット・フェーズ・アクションでマーケティングを見直す
テモナがマーケティングの成長のために重視している要素は、「ターゲット」「フェーズ」「アクション」の3つだという。
まず、「ターゲット」について、テモナは「これからECを始める人」、つまり認知はしていて「興味・関心」「比較・検討」段階の人向けにはセミナーを開催し、ニーズを喚起し、アナログな場で自社とのつながりを感じてもらっている。ここでは契約には至らないので、あらためて「比較・検討」段階の会社には電話でフォローする。
また、既存顧客についても業種や従業員数を分析して定義し、見込み顧客とのギャップを調査している。「これをちゃんとしてらっしゃる企業さんは少ない。でもやらないと、たとえば既存顧客には製造業で500人以上の会社が多いのに、マーケティングしてリードを取ってコミュニケーションしている相手は、中小のサービス業だった、などというズレが発生することがあります」(中村氏)
そして、顧客が購買するかどうかを判断する「論理的理由」と「情緒的理由」をまとめておく。その上で、契約をするかしないかのところで、アナログのアプローチを投入すると有効だと中村氏は語る。
「顧客は、導入したら成果が上がるとわかっていても、踏み切れないことがある。そこには、感情の盛り上がりが足りないという、情緒的な理由があるのです。情緒的な理由の克服にデジタルは弱い。一方、アナログはそういった情緒的なところに働きかけやすく、影響が強く出るのです」(中村氏)
「フェーズ」については、「認知」「興味・関心」「比較・検討」「商談」というパーチェスファネルのもと、ROIが高くなるのは受注に近いフェーズだというのがマーケティングの鉄則だ。たとえ営業との調整が面倒だとしても、商談のサポートにマーケターは力を入れるべきだと中村氏は強調する。
最後は「アクション」だ。まずはデジタルとアナログの特性を再確認して、既に行っているデジタル施策とアナログ施策をつなげるべきだとした。
「アナログもセミナー、懇親会、イベントと、いろいろな手段があります。そういったコミュニケーションをデジタルと組み合わせてもっとやっていくべきです」(中村氏)
デジタル施策とアナログ施策の強みを整理する
ここでデジタルとアナログの得意不得意をまとめると、デジタルは広く浅い接点作りに長けており、設定に基づいてシナリオを実行するのが得意な一方、顧客体験にインパクトを与えることは不得意だ。アナログは、狭く深い接点を作ることができ、対話によって説得できるのが長所だが、自動化はできないため、コストは高く、対象を広げることは難しい。両者をうまく組み合わせることが重要なのだ。
「当社も今年2月にイベントを開催したところ、今まで『シャノンってセミナー管理システムの会社だよね』と思ってらっしゃった方へ、『実はマーケティング全般の課題解決も行っているのだ』というメッセージを伝えることができました。今までのデジタル情報の発信だけではなし得なかった、イメージチェンジに成功したのです」(中村氏)
アナログの上手な組み合わせ方とは?
続いて中村氏は、デジタル施策にアナログ施策をプラスした、あるクライアント事例も紹介した。Facebookでリード獲得施策を行い、そのリードに対してMAでシナリオメールを送ってコミュニケーションを取り、興味のある人へアプローチする場合、アナログ施策はどのように活用できるだろうか。
「Facebookは広く浅く接点が取れますが、それだけだと、もともと自社製品のことをあまり知らない方には響かない。なので、たとえばシナリオメールを送ったあとにセミナーを開催すると効果的です」(中村氏)
シナリオメールを送りセミナーへ送客した後で、ウェブサイトへのアクセスがあれば、インサイドセールスによる架電フォローをかける。
デジタルの施策だけでうまくいっているならば、アナログにコストを掛ける必要はないが、成果が挙がっていないようであれば、このようにアナログの施策を追加するのが有効なのだ。
次に、展示会で名刺を集めたり、参加証のバーコードを読んだりしてリード獲得しているけれども案件化が進まない場合をかんがえてみましょう。アナログ中心の状態で、デジタルを追加していくケースですね。
業種業態や規模や課題といったリードの特性に合わせて、MAによるシナリオメールを配信します。ウェブサイトの来訪につながれば、どのページを見ているかによってスコアリングして関心度が高そうなリードは営業に通知し、マーケティング履歴をふまえた営業フォローを行うとよいでしょう。
ちなみに、シャノンのマーケティングプラットフォームは、デジタルとアナログにまたがった施策をシームレスに実行できるように構成されている。一般的なMAによる機能に加え、セミナーやイベントの来場管理、データクレンジングや、主要SFAとの連携、ゴール機能といった独自の機能を多彩に備えているので、シャノンのプライベートイベントにもぜひ足を運び詳細を知ってほしいと中村氏は語り、講演を締めくくった。