消費者・メディア軸から読み解く「モバイルシフト」
スマートフォンの浸透を追い風に、年々加速するモバイルシフト。それにあわせてスマートフォン広告の市場規模も広がり、マーケティング上における重要性も高まっている。
講演はモバイルシフトが進んでいる現状の確認から始まった。講師を務めるのは、LINEのマーケティングコミュニケーション室で、自社内のサービスを横断したデジタルマーケティング最適化に従事している松本暁尚氏。松本氏は「一般消費者・メディア側、双方においてモバイルシフトが進行中」と切り出す。
まず、一般消費者軸からモバイルシフトを考えるために提示されたのが、総務省「通信利用動向調査」におけるスマートフォン個人保有率の推移を表したグラフだ。2011年では全体で14.6%の所有率であったのが、2016年には56.8%にまで数値が伸びている。20~30代においては、9割以上の人がスマートフォンを所有している。
また、LINE社が2017年に実施した「インターネットの利用環境調査」では、「インターネットを利用する際にスマートフォン・PCどちらのデバイスを使うか」という質問項目に対し、全体の85%が「スマートフォンを通じてインターネットを利用している」と回答。
その内46%はスマートフォンでのみネットを利用しているという結果となった。さらに利用動向を年代別に見ると、10代では70%がスマートフォンのみでネットを利用していることがわかる。
「こうした調査結果から、スマートフォン端末の普及により、一般消費者にスマートフォンでのネット利用がとても身近になっていることがわかります」(松本氏)
次にメディア軸から見たモバイルシフトだが、大きなトピックは「スマートフォンに合った形の広告商品の登場」「スマートフォン広告費の増加」の2つ。
1つ目に関しては、LINE社を例に挙げると「LINE NEWS」でのインフィード型広告や、「LINE LIVE」のインストリーム型の広告というような広告商品が登場していること。
2つ目については、D2C/CCIが出している「インターネット広告市規模推計」によると、スマートフォン広告費が2012年から2016年の間で8倍以上に成長しており、2017年中には約10倍の市場規模へと成長が予測されていることが挙げられる。
ここで松本氏はモバイルシフトのポイントを以下の3点に整理した。
- スマートフォンの個人保有率は50%以上に、その中でも特に【20~30代】は90%以上と顕著に表れている。
- スマートフォンのみでの利用が最も多く、若年層にいたってはPCを使っていない場合もある。
- スマートフォンへの広告出稿費用が増加しており、スマートフォンに合った形の広告フォーマットも登場している。
「こうしたことから、ユーザーへの広告コミュニケーション手法としてもモバイルシフトが進行しつつあるといえます」(松本氏)
デジタル広告を始める企業が陥りがちな2つのパターン
次に松本氏は、マス広告とデジタル広告の役割の違いについて言及した。
「デジタル広告とは、企業からユーザーへメッセージを伝える際にPCまたはモバイルを用いるものです」と松本氏は定義。マス広告は、広いターゲットのユーザーに対して「認知」を獲得できる一方で、デジタル広告は、絞り込まれたターゲットのユーザーを「獲得」できるというように、それぞれ特徴と役割も違ってくる。
企業がデジタル広告に取り組み始める上での陥りがちなパターンが2つあるという。商材やターゲットにもよるが、「マス広告だけ行っていれば良いと考える“デジタルなし”」パターンと、「既存のマス広告の出稿をなくしてデジタル出稿1本化を行うという“極論”」パターンだ。
「なぜこの2パターンが良くないのか。それは、本来『マス広告』も『デジタル広告』も、全体を通じたマーケティング施策における1つの要素であり、それぞれの部分を相互に補完することで全体の最適化が実現できるからです。テレビCMだけ流しても、認知ばかりが先行し獲得にはつながらない。
逆にデジタル広告だけでは、認知が広がらず獲得が先細る。デジタル広告もマス広告も、適切な予算配分がマーケティング施策全体としての成果につながります」(松本氏)
運用上知っておくべきソーシャルメディア広告の特徴
デジタル広告の手法は、「検索連動型広告」「ディスプレイ広告」「ソーシャルメディア広告」の大きく3つに分けられ、それぞれ対象とするユーザーや広告の出し方などが異なる。中でも松本氏は、「ソーシャルメディア広告」に焦点を当て、この特徴について取り上げた。
まず1つ目の特徴は、「利用率の高さ」。下図の2012年からの代表的なSNSの利用推移を見ると、代表的なSNSをいずれか利用している人の割合が41.4%から71.2%へと上昇しており、SNSの利用率の高さがうかがえる。
2つ目の特徴は、「拡散性の高さ」。ユーザーが自発的に拡散を行うことによるバイラルが生まれやすい。LINE社の事例で、女子高生の中でどういうLINEの使い方がされているかを“LINEあるあるをまとめた動画コンテンツ”として作成し、SNSで投稿したところ、ユーザー間でのシェアや拡散が拡大し、結果として総視聴回数が200万回を超えたという。
このことから、「コンテンツの内容にもよるが、シェアや拡散により多くのユーザーの目に触れる機会を大幅に増やすことが可能なのもソーシャルメディアの特徴だ」と、松本氏は語る。
3つ目の特徴としては、利用する上での「炎上リスク」だ。企業がソーシャルメディアに投稿・広告を出す際は、法律に反する内容はもちろんのこと、マナー・モラルに欠けるような内容にならないよう十分に配慮することが、企業がソーシャルメディア広告を運用する上で重要なポイントとなる。
「見落としがちなこととしては、ソーシャルメディアは広くリーチを獲得できる一方で、何かミスがあるとカスタマーサポートへの対応が増加するということがあります。そうした点も事前にリスクヘッジが必要です。炎上のリスクについて注意しつつ、適切なアクションを行えば想定以上の広告効果を得ることが可能なのが、ソーシャルメディア広告といえるでしょう」(松本氏)
ソーシャルメディア活用でモバイルユーザー行動に寄り添う
最後に、松本氏はソーシャルメディアを活用したモバイルユーザー行動への寄り添い方を、LINE@の例を用いて紹介した。
LINEは国内月間利用ユーザー(MAU)が7,100万人。国内の55.2%が利用していると言われており、毎日利用しているユーザー(DAU)/MAUが84%と、日本国内の生活インフラとして定着していることがうかがえる一大サービスだ。2012年から開始したLINE@など、ビジネスシーンでの活用も広がっている。
LINE@は、会社や店舗などの事業者向けのLINEアカウントで、生活者に向けた情報発信に活用できる。アカウント開設数は現在、30万(11月末時点)を超え多くの事業者が活用するサービスに成長した。
事業者は、アカウントを友だち追加しているユーザーに対して一斉に「メッセージ配信」することや、「1:1トーク」でユーザーと1対1でやり取りを行うことができる。サービスの強みは、メッセージ開封率の高さで、ユーザーにとってメリットのあるメッセージを送ることで高い誘導効果が見込める。
モバイルユーザー行動への寄り添い方として、事業者は「配信時間」「見せ方」「コンテンツ」の3つに注力するべきと松本氏は主張した。
1点目の「配信時間」について、ニールセンの調査である、LINE・Twitter・Facebookの「総利用時間TOP3アプリの時間帯別利用時間シェア」推移を表したグラフを見てみよう。
上図からも、ソーシャルメディアの利用はユーザーの生活に密接していることがわかる。
そのため、ユーザーの利用時間に合わせてお昼休みの時間におすすめランチ情報を配信する、帰宅時間帯に合わせてセールの情報を配信するというように、時間帯に合わせたメッセージ配信が効果的だ。
2点目の「見せ方の工夫」では、スマートフォン上という限られた領域の範囲の中に、企業側が訴求したい内容を詰め込み過ぎると、ユーザーが読みにくいものになってしまうため、「できるだけシンプルな見せ方」を心がけることが重要だ。テキストよりも画像イメージを使うなど、ユーザーが一目見ただけでどのような内容かわかるのが理想的だ。
3点目の、「内容・コンテンツ」の部分では、抽象的なメッセージ内容よりも、自分ごと化されやすいメッセージ内容を心がけて配信することが結果として広告効果の最大化につながる。
たとえば、雨が降る日に来店率を上げようと、単純に無機質にクーポンを配信した場合と、『雨の中で大変ですが・・・』とユーザー文脈に寄り添った形でクーポンを配信した場合との2パターンでメッセージを配信すると、圧倒的に後者の方が効果的でした。自分ごと化されたメッセージはユーザーの好反応につながります」(松本氏)
「ユーザーの利用時間に如実に寄り添うのが、ソーシャルメディアというメディアです。これを踏まえ、時間帯に合わせて広告を配信し、コンテンツの工夫を行うことがソーシャルメディア広告を成功させる秘訣です」と松本氏は述べ、講演を終えた。
※本ページの内容は講演当時のものとなります。