業界全体の問題にどう対応していくか
押久保:ビューアビリティやブランドセーフティを改善することによってどんな効果が出るのかも気になります。
IAS山口:プレビッド(入札前に問題を排除してビューアビリティの高い面だけに配信する方法)によって、ブランドリスクの問題が削減できた事例があります。不正インプレッションが排除された状況なら、広告が見えている割合が多ければ、クリックされる可能性も必然的に増えます。結果的に、キャンペーンの場合はCPCもかなり改善されました。つまり、いい面に広告を出したら、付随的にCPCも安くなるということ。CPCを追求するために広告を打つのではなくて、きちんといい場所に出せばCPCも改善します。

IBM山口:こういった案件を実施する費用をどこが出すかは、結構議論になっていると思います。広告主は広告費用を出しているのに、知らない間にビューアブルじゃない状態になっていたり、出すつもりもない面に広告が出ていたり。それを防ぐために、アディショナルで本当に広告主がそこにお金を出すべきなのかという議論です。
米国では自己防衛のために、広告主がこういうツールを入れるケースもあります。日本の場合は、広告代理店にお任せしているケースも多いです。その場合の対応をどうするのかは、考えていかなければいけないかと思います。
IAS山口:たとえば、総合的な予算は変えないけれど広告予算内でツールを使っていただいて、たとえばビューアビリティが30%から60%になったとします。プラスのコストを出さず、結果的に改善したのならば、それは一つ意味があるのではないかと思います。
富田:中長期的には、広告主様が負担すべきものではないと思っています。ただ短期的にはやはり、現状を広告主様に知っていただいたうえで、お互いに協力していく時期だと思います。不正が発覚したプラットフォームに対するボイコット問題が起きたあとに、そのプラットフォームにおけるアドフラウド率が減るといった自浄作用が働いたように、そこには広告を出さないという声をあげていただきたいですね。
押久保:IBMの山口さん、今のお話を聞いてどうですか?
IBM山口:デジタルメディア委員会の山口として改めて言いたいのですが、これは業界全体の問題ですよね。全体で正さないといけない問題だと私は思っています。
そのためには富田さんが仰るように、広告主は現状を把握しなければなりません。そして、その考えをパートナーさんなどにも伝えて、一緒に対応していく。そのためには、まずは広告主が声をあげる必要があるでしょう。でないと、なかなか業界は動かないと思います。
デジタル化で広がる新しい世界、健全な成長を目指して
押久保:広告主、代理店、ベンダー、我々メディアがともに変えていくべきところだと思います。お二人はご自分の立場として、どのような取り組みをしていきたいとお考えですか?
富田:代理店としては、クリック以外の指標でお客様に広告評価していただける状況を作っていく必要があると思っています。ビューベースでの接触時間や、ビューアブルな接触回数はもちろん、検索がどれだけ動いたかなどが考えられます。そういった新しいKPIを提供して進めていくと、全然違う広告の打ち方になるかもしれません。我々のソリューションやKPIをお客様にしっかりとサービスとしてご提供していきたいですね。
併せて、そうした効果指標における、あるべき広告クリエイティブフォーマットの形も、PCやモバイルデバイスで既に存在している広告枠の概念とは、異なる次元で開発されていくべきだと考えています。

IAS山口:弊社としてはツールを通して、広告主様が本当に効果のある広告キャンペーンを運用していただける。そういった運用をされている代理店やキャンペーンが正しく評価されるようになる。さらには、メディアの再評価と発掘につながるように、今後ともお役に立てればと思います。
押久保:私たちメディアも健全なコンテンツを作ることで、広告主さんの信頼に足る場所でありたいと思います。ではIBMの山口さん、最後に締めの一言をお願いします。
IBM山口:これからデジタルはどんどん広がっていきます。すると、今までメディアと思われなかったものもメディアになっていくでしょう。空間だってその一つです。たとえば朝起きたときの薄暗い部屋で、ある意味正しくない広告や、悪意のある広告を目にしたらどうでしょう?
そういった事態を防ぐ努力をしなければ、デジタルワールドでのプロモーションやマーケティングが怖くてできなくなる=健全な発展がされなくなります。せっかく新しい・おもしろい世界がどんどん発展しているのですから、業界全体で正しくない動きを除去する活動をムーブメントにしていく必要性を改めて感じました。
押久保:皆さまありがとうございました。