データを活かしてクリエイティブを改善し続ける
スマートフォンが生活者の日常に浸透したことで、“刈り取り”だけでなく、認知獲得からはじまるフルファネルマーケティングをすべてスマホでできるようになった。これに重なるように、LINEはファネルの各段階に有効なサービスを拡充させている。
電通デジタルの並河進氏を進行役に、同社とサービス開発を進めるKaizen Platformの須藤憲司氏、そしてLINEの田端信太郎氏を迎えた本セッションは、まずクリエイティブに関する電通デジタルの近年の動きの紹介からスタートした。
2016年、電通デジタルは社内にクリエイティブの専門部署「アドバンストクリエーティブセンター」を設立。長くマス広告でクリエイティブを発揮してきた並河進氏をリーダーに、現在51名がマスクリエイティブの世界とデータやアドテクノロジーの世界の融合を目指して模索している。バナー広告やLPなどを高速PDCAで運用するチームと、マス広告や動画広告でブランドリフトを図るチームが連携しながら表現を生み出しているのが特徴だ。
次いで2017年、電通はグループ全体としてのマーケティングメソッド「People Driven Marketing」を発表した。デジタルが当たり前になった時代、一人ひとりの“人”を中心に据えて、「RIGHT PERSON」「RIGHT TIME」「RIGHT PLACE」「RIGHT MESSAGE, CONTENT」「RIGHT FEEDBACK」を実行することを掲げている。「今回のセッションのテーマに挙げたデータドリブンクリエイティブとは、これらをより“RIGHT”にしていくために、データを活かしてクリエイティブを改善し続けることだと考えている」と並河氏は語る。
Kaizen Platformと連携して開発した、6秒動画のクリエイティブ改善ソリューション「P動CA」も、データドリブンクリエイティブの一例だ。同社は世界40ヵ国、7,000名のクリエイターを擁して広告やWebサイトを改善し、同時に活躍するクリエイターには時給5,000円という高水準で還元できる仕組みを確立してきた。CEOの須藤憲司氏は「『P動CA』では、動画広告でクリエイターの創造性をプラットフォームに展開している」と話す。すでに、LINE Ads Platformを通じて配信する動画広告の改善に着手中だ。
フルファネルでPDCAを回せる時代に突入
人が商品やサービスを認知してから最終的に購買などに至るまでのフルファネルを考えると、高速PDCAによる運用でどんどん改善されてきた“刈り取り”と呼ばれるファネル下部と、主にマス広告が担ってきた認知や理解などファネル上部とで、データが連携しないという分断が課題になっていた。
だが、スマホが高機能になり閲覧が日常化して、今は動画の視聴時はまるでテレビのように、Webでニュースを読むときはまるで新聞のようにスマホが使われている。「かつてオフラインでマスメディアが果たしていた役割をスマホが担えるようになったことで、認知からコンバージョンまでフルファネルで恒常的な改善ができる“フルファネルPDCA”の時代がきている」と並河氏。
その際、やみくもにクリエイティブの数を用意するのではなく、複数パターンが必要な理由が各ファネルによって異なることを踏まえて設計することが大事になる。たとえば認知獲得の段階なら、ブランドリフトが最大化する表現を検証するため。興味関心を高める段階なら“自分ごと化”を促すパーソナライズのため、最後のコンバージョンならクリエイティブの摩耗を防ぐため、といった形だ。
併せて、LINEにはフルファネルの上から下までを網羅するサービスがある、と並河氏は説く。LINE LIVEやLINE NEWS、LINE ビジネスコネクト、LINE Payなどを連携して活用することで、認知から購買までの転換率を高めることができる。特に前述のLINE Ads Platformは運用型であることから、PDCAを回すほどクリエイティブの効果を上げていけるサービスだと捉えているという。
必要十分な訴求量で次のステップへ進んでもらう
データドリブンクリエイティブの意義と取り組みの紹介の後、セッションでは3つのディスカッションが繰り広げられた。ひとつ目は、「LINEのサービスをどう組み合わせれば、フルファネルで効果的な訴求できるのか?」という問いだ。
LINE 上級執行役員の田端信太郎氏は、現状ではまだできていないことも多いとしながらも、サービス間の相互送客が大きなポイントだと解説する。たとえばスポンサードスタンプでまず一定数の友だちを獲得し、その中からLINE ビジネスコネクトで継続的にアプローチする、といった活用が有効だ。
ラグジュアリーブランドなど単価が高い商材だと、リーチは狭くても親和性が高いユーザーとつながりたいという要望がある。田端氏によると、これまではスポンサードスタンプで数百万の友だちを得られても、その要望とマッチしないこともあったという。
その場合、LINE Ads Platformである程度ターゲティングした上で、公式アカウントに友だちを送客していく策が考えられる。そこから自社IDと紐付けたり、LINE Payを通して購買と紐付けたりして、獲得した友だちの質をみながらアプローチを改善していける。また、最初にLINE ビジネスコネクトで獲得したがコンバージョンしていない人を、今度はLINE Ads Platformで追いかけることもできる。「次のステップに進んでもらうために、TPOをわきまえて必要十分な訴求量で背中を押していけるようにしていく」(田端氏)。
データによって数分単位で訴求を最適化する
ディスカッションの2つ目は、「LINEならではのデータをどのように活かせるか」。LINEは現在、ユーザーの位置情報や、企業の公式アカウントとその友だち間のやり取りからわかる興味関心に関する情報の活用に力を入れている。近い将来、たとえば店頭購買の動線に近い人だけに動画を配信したり、気温に応じてメッセージを出し分けたりといったことに取り組んでいくという。
生活に密着したスマホを通して、購買タイミングの直前数分内に訴求することができるのが、LINEのもっとも強い部分だと田端氏は強調する。その強みと、数百万規模のリーチが掛け合わさると、数分単位という細かな時間軸で施策を打ち分けることが可能になる。これを田端氏は「データで時間軸を最適化していく」と言い表す。
並河氏率いるアドバンストクリエーティブセンターでも、時間や天候に合わせて表現を変えていく、ダイナミッククリエイティブの開発と運用に取り組んでいる。同時に、マスとデジタルを含めた動画広告に含まれるクリエイティブの要素と、その反応との関係性を解析しており、昨年にはそれをシミュレーションできるサービス「BRAND LIFT CHECKER」も発表した。
「これらの取り組みが、LINEを使えば相当な大規模で展開できると感じている」と並河氏。一方で、LINEサービス群のようなファネルの下部へと誘導する仕組みを活かすには、どういう観点でクリエイティブを絞り込むかの知見を貯めることが重要、と須藤氏は指摘する。単純にコンバージョンだけを追うと、生活者に寄り添ったクリエイティブと相反してくることもあるからだ。
LINE上で気の利いたコミュニケーションを実現
その上で、今度はデータによるクリエイティブ最適化が進むと、アウトプットが画一化していくという課題が出てくる。そこを超えるのは、やはりクリエイターの創造性だ。「結果を広告のつくり手にフィードバックし、次の一手をつくり手が想像できるような世界を実現していきたい」と須藤氏。
Kaizen Platformでは、LINEを含めた各プラットフォームにそれぞれ適したクリエイティブを解析しており、アドバンストクリエーティブセンターと協同して各場所での動画広告のテンプレートを準備している。並河氏は、須藤氏と「LINEではどういう表現が最適か」を考える中で、「『気が利くな』と感じるようなコミュニケーションがよいのでは」と話が挙がったことを紹介する。
これに対し田端氏は「LINE上だからこそ、会話を重ねていける」と応じる。動画広告は一方的に見せる手段と思われがちだが、そこからアンケート回答を募ったり商談がはじまったりしてもいい。モニターに動画広告の感想を訊ねるくらいなら、「視聴してもらった流れでそのままチャットウインドウを開いて話しかけるほうが断然速い」と田端氏。
インタラクティブであることは、LINEのサービス群を活用する大きなメリットだ。並河氏は、「P動CA for LINE Ads Platform to LINE ビジネスコネクト、といった形で、全部つなげていければ。そのとき、『どうでしたか?』と話しかけるタイミングや問いかけ方のクリエイティブ設計が、まさに重要になると思う」と語る。
LINEに参加するクリエイターが広告制作に関わる可能性
3つ目のディスカッションは、「LINEサービスに参加しているクリエイターが広告制作に携わる可能性」について。田端氏は、「ベタだが『LINE Creators Market』の人気クリエイターの世界観にあった案件があれば、企業CMなどはすぐにでも実現できる」と力を込める。また、同マーケットの参加クリエイターがKaizen Platformの登録クリエイターになる可能性も多いにある。「実際に重なっている人もいると思う。エンタメ、化粧品などのBtoC商材、あるいはビジネス寄りなど、各クリエイターも強みとする領域が違うので、その持ち味が発揮できる場が広がれば」と須藤氏。
そのクリエイティビティーが特に生きる場として、並河氏が特に注目するのは、興味関心を高めるミドルファネルでの訴求だ。「自分ごと化してもらうことがポイントになるミドルファネルは、身近な人が“横から目線”で呼びかける表現が効くと思っている」(並河氏)。
最後に田端氏は、「LINEを“スマホの中で情報を伝える手段”と狭く捉えるのではなく、サービス間の連携とインタラクティブ性を最大限に活かして、本質的にビジネスを推進する策としてぜひ使っていただきたい。これからが、ビジネスにインパクトを与えていく本編のはじまりだと捉えている」と強調する。人が商品やサービスを認知し、次第に好きになって顧客になる、その流れは昔も今も変わらない。
「今までの考え方でプラットフォームにただ広告を流していけばいい時代ではない。愛されない広告は終わる。仕組みの問題ではなく中身の問題だ。そこに知恵を縛らなければならない。マーケターに求められるハードルが高まり、やりがいがある一方で大変な時代が来た。マーケターの思っていることを実現できる仕組みを作っていけば」と須藤氏は話す。
並河氏は、「データで最適化していくというよりも、データとテクノロジーによって、もっと気持ちに寄り添った最適化ができる時代になっていくだろう。クリエイティブで何を伝えるか。デジマが難しくもおもしろくなる」という言葉を残し、ディスカッションを締めくくった。三氏による議論は、LINEの各サービスとクリエイティブをうまく掛け合わせることで、企業と生活者との関係がより自然に縮まっていく未来がすぐに現実のものになることを感じさせた。