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ブランディングは法則さえ覚えれば難しくない――CI・デザイン論ではないブランディングとは

2018/03/27 07:00

 多くの業界でコモディティ化が進み、どんな企業でもブランディングが必要な時代になりました。しかし、実際には何に取り組めばいいのでしょうか。日本企業の多くで課題となる「ブランド戦略」について解説した『デジタル時代の基礎『ブランディング』』を執筆された山口義宏さん(インサイトフォース)に、「CIや広告・デザイン論に留まらない、再現性のあるブランディングの法則」についてうかがいました。

ブランディングはいい商品やサービスの価値をきちんと伝えること

――今回、山口さんの新著『デジタル時代の基礎知識『ブランディング』 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』に関してお話をうかがいします。最初に、簡単な経歴とどんな問題意識が本書の執筆につながったのかを教えてください。

山口:私は一貫してブランド・マーケティング領域で大手企業を支援するコンサルティングの仕事をしてきました。現在はインサイトフォースというコンサルティング会社を立ち上げて8年目となり、多くの大手企業の企業や商品・サービスのブランド戦略を支援しています。

 ブランド戦略は、本来は社内で策定し推進すべきものです。顧客接点を担う施策に関わるすべての人が基本的な法則を知っておくことでブランディングは大きく改善されます。しかし、「ブランド戦略」は言葉としては知っていても、内容をよく知らない人が多い言葉の典型です。

 いまだに昔ブームになったCIロゴや企業理念の刷新だけを想起する人も多いですし、ブランディングを「マス広告によるイメージ作り」と、非常に狭く捉えられる誤解も多い。また、大企業になれば、ブランド戦略の知識は誰かが知っているものの、組織間の壁や、周囲の理解不足によって合意形成できず、顧客からは一貫性のあるブランド体験が実現されないという実態があります。

 そのため、顧客と接点のある企業人、それこそ大手企業に限らず、中小企業・ベンチャー、BtoB事業の方々まで、また職種名こそブランドやマーケティングとついていなくても、営業パーソンとして顧客に接しているような人々までを対象にし、基礎として知っておくべき重要なブランディングの法則を、平易な言葉でわかりやすく書いています。「ブランディングで成果を出すのは簡単」とまでは言いませんが、実はブランディングの法則自体は非常にシンプルなもので、誰でも理解できるものです。

――山口さんが考えるブランディングの役割とは何ですか?

山口:ブランディングの役割は、「商品・サービスの価値を、顧客が頭の中で想起できる“知覚された価値”に転換すること」です。顧客の頭の中にブランドを識別するためのロゴのような記号要素と知覚価値を浸透させるための活動は、すべてブランディングといえます

ブランド識別記号とブランド知覚価値

 書籍でも繰り返し伝えていますが、ブランドを作るには「すべてのマーケティング4P施策で一貫性ある顧客体験を作ること」が重要になります。そこにはブランドのロゴやデザインも含まれますが、全体の構成要素の中の一つに過ぎません。

一貫性のある体験の蓄積

 コカ・コーラのような飲料ビジネスであれば、マス広告、コンビニ店頭展示、商品パッケージなどが重要な顧客接点になりますし、サービス業であればサービスの内容そのものとともに「顧客が接する人の言動や服装」が重要な顧客接点になります。あらゆる顧客体験接点の品質と一貫性をマネジメントするのが、ブランド戦略の本質です。

山口義宏さん
山口義宏さん:インサイトフォース 代表取締役、Minimal 社外役員

競争戦略としてのブランディング=「外科治療」に光をあてたい

――本書で取り上げるブランディングの特色とは何なのでしょうか。

山口: ブランディングやブランド戦略で検索してみると、企業理念やロゴを刷新するCIの話や支援会社が多く出てきます。我々はこうした企業理念を浸透させるブランディングを「漢方薬」と呼んでいるんですが、これはうまくいけば多大な経済的価値を生みます。

 社内の意思決定や方針は分かりやすくなり、採用活動にもプラスになり、顧客からは理念に対して深い尊敬を得ることすらあります。ただ、このアプローチは成果が出るまで非常に時間がかかるのが難点です。

 この「漢方薬」はオーナー経営者の会社など、理念と個人的な価値観が重なり、短期での経済的リターンを求めずに長期間継続的に推進できる強力なカリスマがいないと難しい面があります。極論ですが、ブランドの理念の実現が最上位にあり、実現の手段としてビジネスの売上・利益がある序列です。

 しかし、企業理念を起点にしたアプローチは経営者にしかできません。担当者レベルの方で問題意識があっても実行は難しい。私が本書で光を当てて説明しているのは、それとは異なる競争戦略的なアプローチです。短期間で市場競争力を高めるために、顧客インサイトを探り、競争力のあるブランドの知覚価値を定義し、マーケティング4P施策に落とし込むという発想です。漢方薬的な理念アプローチに対し、こちらは「外科治療」的なものです。

 あえて対比すれば、ビジネスの競争力を高めるために、手段としてブランドを用いるという序列です。もちろん実際には、その間で両方のアプローチを統合している会社もあって、本書ではLVMHなどの実例を解説しています。

 後者の競争戦略の話は、企業は外部に開示することはないですし、支援した会社も秘密保持契約の対象として開示することはできません。その結果、世の中に流通するブランディング話は、CI・デザインの話に偏っているという問題意識が背景にはあります。もちろんどちらがいいというわけではなく、「漢方薬」も長期的には必要です。

 実際に、私の会社のインサイトフォースでも、2割程度はCI・デザインに触れる案件があります。ただ、逆に言えば8割の案件は、理念やデザインには触れずに市場競争力を高めているブランディング支援ということです。このような実態はもっと知られたほうがいいと思います。

――そもそもなぜブランディングが必要とされているのでしょうか。

山口:何か飲み物を買いたくてコンビニに入ったところを想像してみてください。棚の前についたときには、頭の中にいくつか商品の候補が浮かんでいますよね。最初から頭の中に選択肢として存在しなければ、選ばれる可能性はかなり低いということです。

 同じ商品・サービスであっても、「まったく知らないブランド」、「名前だけ知っているブランド」、「どのような体験ができるかまでイメージできるブランド」では、そのコンバージョン(顧客への転換率)は大きく変わります。

 また、ブランドで利益率も高まります。コカ・コーラとプライベートブランドのコーラ、どちらが高く売れるかといえば前者です。ブランド力が高まれば、価格を下げなくても選ばれるようになります。

 リピート率も同様に高まります。レストランでステーキを食べたとき、何の説明もない「ステーキ」より、「A5ランクの和牛で、フランスの三ツ星レストランで修行したシェフが調理したステーキ」のほうが記憶に残りやすいですよね。まったく同じお肉を使っていて、同じ味だとしてもです。

 人間は、理由を説明できると他人にも紹介しやすいし、記憶にも定着します。いい商品なのに口コミが起きないブランドは、いいと感じる理由を説明できないことが多い。顧客自身がブランドの魅力を説明できることは、ブランドが市場で拡がるために不可欠です。そのために、顧客が他人に話したくなるような卓越した体験を設計し、説明できるように魅力を言語化して伝えることが大切です。そうしてリピート率が高まれば、LTVも高まります。

商品の魅力だけではなく、ブランドが支援する価値観を発信する

――では、デジタル時代においてブランディングは何が変わり、どんなことに気をつけるべきでしょうか。

山口:デジタル化で最も分かりやすいことは、プロダクトの変化もありますが、コミュニケーションの変化がより顕著です。顧客にリーチするためのコストが劇的に安くなり、接触頻度を上げようと思えばいくらでも上げられるようになりました。実際にやるかは別として、名刺交換した方に1日3通のメールをほとんど無料で送ることもできます。

 ですが、それだとうっとうしいですよね(笑)。接触頻度が高くなってもうっとうしがられず、顧客と良好な信頼関係を作るには、それにふさわしいコンテンツが必要になります。そこで大切なのは、ターゲットユーザーが関心や共感を寄せる価値観を発信することです。

 一例を挙げれば、サイボウズさんは仕事を楽にするさまざまなツールを販売されていますが、世間に向けて、よりよい働き方や生き方を価値観として強く、頻度高く発信されています。

――たしかに、社内文化や社員の働き方が働き方改革の文脈でいい事例として取り上げられることが多いですし、青野慶久さんが提起した夫婦別姓訴訟もあります。

山口:サイボウズさんはかなり振りきっているほうと感じますが、メディアや顧客はサービスの細かな機能アップデート情報に常に強い関心があるわけではないという前提で、大きく舵を切ったのだと推察されます。

 もちろん価値観の発信で共感を呼ぶだけでは売上は立ちません。サイボウズさんであれば、実際のプロダクトの販売促進を目的にしたセミナーも実施し、そこではしっかり売り込んでいると思います。

 同様に、BtoCのマスプロダクトでも、例えばエコカーのプリウスなら、毎日燃費のよさを訴求されたら辟易としますが、「(プリウスでなくても)燃費がよくなる走り方」や「エコなライフスタイルを実現する生活のノウハウ」であれば、ある程度頻度の高いコミュニケーションでも成立します。

 私自身もTwitterで頻繁に情報発信をしていますが、インサイトフォースのサービスに関することは1パーセントくらいです。それよりは、ブランディングやマーケティングについて知りたい方に向けて有用な情報をツイートするように心がけています。毎日セミナーのお知らせを出していたらフォロワーはすぐ離れていくでしょうね(笑)。

 こうした感覚は自分で経験しないと分かりません。そのため、大きい会社になるほど上層部が個人としてデジタルに疎くなり、すり合わせが難しくなる傾向にあります。デジタル時代のブランディングは、顧客と直接つながることで再リーチのコストが劇的に下がって、「さぁ、商品・サービス・コミュニケーションで、どのような価値観を発信すべきか?」と自問自答することから始まります。

――本書で顧客体験(UX)の設計にページが割かれているのもそういう理由からでしょうか。

山口:ブランド評価の源泉がモノの良し悪しだけでなくなったからですね。昔から顧客体験は大事でしたが、いま改めて顧客体験が騒がれているのは、これまでコストや技術面の制約で実現できなかった構想が、デジタル化によって低コストで実現できるようになったからです。

 また、個人への接点として、スマホが普及したことも大きい。つまり、構想したことが実現できる環境になって、いまや構想力の差が競争力の差になったのだと言えます。

ユーザーが知覚している価値の内容を知る

――先ほど「頭の中で記号と価値を結びつける活動すべてがブランディング」とおっしゃっていましたが、そうした活動の目標設定や評価はどのようにしたらいいのでしょうか。

山口まずは認知されることが目標となります。認知されていなかったらどうにもなりませんから。ただ、仮に国内向けの企業の場合でも、日本の全員に認知される必要はありません。事業計画の数値から逆算し、売上に必要な人数に認知され、価値を理解されれば十分です。そのため、マス広告が必要かどうかは事業の規模や特性によります。ブランディングに、マス広告は必須ではありません。

 また、ブランド評価の良し悪しと、コンバージョンやLTVとの関係性の見える化は、ブランディングへの投資を評価するうえで欠かせません。ブランドへの評価が高くなればコンバージョンが上がるのかどうか。LTVにも影響を与えるのか。これらの関係性が見えれば、持続可能な投資として社内で位置づけられます。

 さらに、リピートする人はどんな価値を信じているのか。数字だけでなく、ユーザーが知覚している価値の内容も知っておかなければなりません。私はいま40歳ですが、同世代から上の世代にはスティーブ・ジョブズとAppleに対して信仰に近い気持ちを持っている人もたくさんいます。ところが20代になると、日本で安く手に入るのがiPhoneで、使い慣れたから使い続けているだけ、という人も少なくありません。

 同じようにiPhoneを使っていても、ユーザーによってブランドへの期待や知覚価値がまったく違う。この知覚価値の差は、必ずどこかで購買行動の差になります。当然ですが、心理的な共感がないユーザーであれば、価格や機能が理由でいつかは離脱する可能性が高まります。

 顧客のブランドそのものへの評価を把握するだけでは、大きな意味は見出だせません。大切なのは、ブランド評価の上下がビジネスにどう影響するかの度合いを把握することです。

中小企業こそブランディングが必要な時代

――それでは改めて、本書の狙いについて教えてください。

山口一番大きな狙いは、ブランディングが「即効性がない」「大企業のもの」「高級ブランドがやること」と思われないようにすることです。マス広告が必要なわけではありませんし、コンサルタントも必須ではありません。実は、ブランディングは追加で莫大な費用が必要なことではないんですね。

 現在提供している商品・サービスを、ユーザーがより価値を感じられるように本質的な価値を問い直し、マーケティング施策に反映させて一貫性を生み出す。これは社内調整の部分がほとんどです。

 ブランディングの必要性という視点では、大企業よりむしろ中小企業・ベンチャーのほうが切迫感が高い事業環境にあります。中小企業が商品・サービスの内容では差別化できないと考えて価格勝負に乗り出したら悲惨な結果になるのが目に見えています。基本的には、価格勝負になるとスケールメリットを出して調達や生産のコストを下げられる大企業のほうが有利です。

 中小企業こそブランドを作り、小規模でも利益を得られるように勝負していくべきです。ただ、私たちのようなコンサルティング会社もビジネスなので、基本的に取引単価の高い大企業に目が向きやすい力学があります。これは書籍を出しても変えることはできないのですが、少なくとも書籍を読んでいただくことで、何かのお役に立てれば嬉しいと考えています。

――読み終わった読者には、最初に何をしてもらいたいですか?

山口:商品やサービスの識別記号の運用と、知覚価値の設定です。識別記号の運用とは、例えばブランドロゴがどんな場所でも統一されていることがまず挙げられます。また、色の組み合わせ、カラースキームも重要で、色とブランドが結びついていると非常に認知されやすくなります。

 知覚価値については、どんな価値の印象を残すつもりでマーケティング4P施策を展開しているのかを考えることが大事です。関わる社員それぞれに「ユーザーに知覚されたい価値」を書き出してもらって照らし合わせると、たいていはばらばらです。ターゲット像すら一致していないこともあります。それをすり合わせるだけでも、顧客体験の一貫性を高めるブランディングのスタートになります。

 ちなみに、よくあるのが「漢方薬」派と「外科治療」派の齟齬です。同じブランディングのつもりでも、理念派と競争戦略派は、まったく違う話をしていて噛み合いません。まずはそこからすり合わせましょう。

 ブランド戦略を考えて実行するうえで陥りがちな罠はいろいろあるんですが、それは本書の購入特典「ブランディングの教科書には書いていない10の落とし穴」でチェックすることができます。ぜひ本書と合わせて活用してみてほしいですね。

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デジタル時代の基礎知識『ブランディング』

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デジタル時代の基礎知識『ブランディング』
「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール

著者:山口義宏
発売日:2018年3月15日(木)
価格:1,598円(税込)

本書のポイント

●「ブランドとは何か?」からやさしく解説
●どんな会社のマーケティング担当者でも役立つ内容
●ブランド戦略におけるPDCAの実務もバッチリ
●デジタル活用を踏まえた最新のブランド戦略がわかる
●新時代のキーワードである「顧客体験」をカバー

 

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