コンテンツ運用の事例:キッチンの場合
これまで見てきた複数のメディアを利用し、どんなコミュニケーションを行っているのか。山橋氏はキッチンのコンテンツ提供事例を紹介した。キッチンは以前から資料請求の多いトピックなのだという。しかし、大和ハウスではキッチンに関するカタログを約10年前に制作して以来、更新できずにいた。カタログは、住宅展示場で営業がツールとしても使う大事なもので、そのままにはできない。そこで、はじめにキッチンカタログの改訂を行い、「キッチンスタイルブック」として刷新した。
新しいカタログでは、キッチン周辺の収納、家事動線のアドバイス、ライフスタイル別にまとめた間取りの提案などのコンテンツを充実させた。内容は「注文住宅商品サイト」でも公開し、Webに出稿した場合のランディングページとしても活用しているという。
それと同時に「TRY家コラム」でも、キッチンに関するコンテンツを拡充した。ただし、カタログの内容と重複させないようにしたという。大和ハウスはハウスメーカー。シンクのような設備よりも、キッチン空間の観点からコンテンツを訴求していると話す山橋氏。デザインや動線、住宅設備メーカーとコラボ企画のショールームレポートなど内容は多岐にわたる。
「自社でメディアの制作と運用を行う利点は、長期的に事業に役立つ資産になることです」と山橋氏。資料請求の獲得というコンバージョンについては日々試行錯誤しているが、興味関心をもってもらえるよう、コンテンツは長く掲載を続ける予定だという。
失敗から学んだ生活者視点の運用
このようなやり方に落ち着いたのは、山橋氏自身が総合宣伝部に配属されたばかりの頃の苦い経験があったためだ。ソーシャルメディアの担当になったのはいいが、「数字ばかりを追いかけて、お客様を見ていなかった」と当時を振り返った。当時は、PDCAを回すことの意味を、コンテンツをできるだけたくさん作り、A/Bテストを繰り返せば質をよくすることだと解釈していたのだという。示唆を得るために、多くの分析レポートも作ったが、いいコンテンツを作る方法に苦しんだ。
そんなある時、先輩に分析や考察のコツを相談した山橋氏。「誰に届けたいか」と問いかけられ、「Facebookを見てくれる人」と答えたものの、さらに「その人はどんな人か」と畳みかけられた時に答えられなかったのだという。そこで、どんな人が大和ハウスのファンなのかを調べた山橋氏。コメントやいいね!をしてくれる人のプロフィールを確認するところから始め、社員以外に一定の常連が来ることに気づいた。
思い切って一人のファンに会いに行った山橋氏。帰ってくると、これまでと違いスラスラと文章が湧き出るようになったと話す。コツをつかんだ山橋氏は、ファンが記事を読むとどんな気持ちになるかを常に考え、制作と運用ができるようになった。PDCAを回すと一口に言うが、大量生産、大量配信で、勝ち残ったものが結果的に質のいいものとは限らないということだ。
デジタルでは生活者像が見えにくい。だからこそ生活者から「知ってもらう」「選んでもらう」存在になるには、デジタルの施策では特に「誰に」を追求しないといけないと山橋氏は強調していた。