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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

DM施策の最大の成果は1stパーティデータ整備の加速!?LIFULLは「住所」活用でUX向上狙う

 不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営するLIFULLは日本郵便が進める「デジタル×アナログ」実証実験に参加。実験の結果明らかになった課題について同社の野口真史氏と日本郵便の鈴木睦夫氏に検証してもらった。野口氏は、今回の実験を経て、さらに住所データをマーケティングに活用できるよう整備を進めるとともに、住所データの取得についても積極的な施策を検討すると明らかにした。後半に掲載する、データドリブンなアナログ施策のためのPDCAチェックリストも必見だ。

ユーザーの心理状態をふまえたシナリオ設計が大切

鈴木:前回の報告記事では、今回の実証実験におけるシナリオ作りやコミュニケーション設定での課題が明確になりました。今回は、課題点をよりきめ細やかに検証して目指すべき施策のヒントを見いだしていきたいと思います。

左から、株式会社LIFULL Chief Data Officer LIFULL HOME’S事業本部 グループデータ戦略部 部長 野口真史氏、日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 担当部長 鈴木睦夫氏
左から、株式会社LIFULL Chief Data Officer LIFULL HOME’S事業本部 グループデータ戦略部 部長 野口真史氏、日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 担当部長 鈴木睦夫氏

野口:前回、コミュニケーションでは1.ターゲット、2.タイミング、3.クリエイティブ、4.オファーの4つの要素が重要というお話がありました。

 オファーについて、KPIとして「他の物件への問い合わせ」と「『LIFULL HOME’S 住まいの窓口』への来店」の2点を設定した結果、ユーザーに期待するアクションが分散し効果が限定的になってしまったという課題は大きかったと思います。

鈴木:タイミングについても、課題が見つかりました。昨年10月から今年1月初旬までの4ヵ月間に「LIFULL HOME’S」を訪問して、分譲マンションや一戸建てに関する資料請求をしたユーザーを対象としたために、既に物件を決めてしまったユーザーに対してもDMを送付していたと考えられます。そうしたユーザーは、もはや他の物件を検討したり『LIFULL HOME’S 住まいの窓口』に来店したりする状況ではなかったはずです。

 今回は約3,000件を対象に「DMとメール」「DMのみ」のアプローチを行ったわけですが、検証結果を踏まえると、デジタルかアナログか、デジタル×アナログかというチャネルの最適化以前に、ユーザーの心理状態にマッチしたコミュニケーションを設計することが必要だったといえそうです。

野口:確かにそうですね。LIFULL HOME'Sのマーケティングオートメーション(以下、MA)施策にとって、ユーザーの物件検討プロセスの進み具合に沿ったシナリオ作りと、そのための緻密なデータ整備が課題だと考えています。

ユーザーデータのメンテナンスが鍵をにぎる

野口:実証実験をするまでに、DMを発送するユーザーデータの整備が必要でした。整備に約2ヵ月もの時間が必要だったのですが、「守り」のデータマネジメントだけでなく「攻め」のデータ活用も実現するためには、普段からユーザーデータをメンテナンスしていくことが大切だと改めて実感しました。

鈴木:DMを活用したマーケティング施策では、ユーザーデータをつねにフレッシュな状態にしておくことは最優先の課題ですね。より緻密なデータ整備を行うことで、コミュニケーションのパーソナライズ化ができるようになります。

 たとえば今住んでいるエリアだけではなく、勤務先や家族の年齢や通学先が把握できていれば、ユーザーが潜在的に探している物件を提案することが可能になります。おすすめの物件を高精度に特定し、ユーザー1人ひとりにクリエイティブを刷り分けてDM発送することも可能です。

CRMとの連携によるLTV拡大

野口:実はこの4月から、私が在籍している部署とCRMを担当する部署とが連携しやすい社内体制になりました。CRMデータもフル活用して、LIFULL HOME’SでのCV数増加やLIFULL HOME’S 住まいの窓口への集客、分譲マンションや一戸建てなど特定の物件への誘導など、チャネルごとの戦略立案を進めていく予定です。

鈴木:他部門のデータへのアクセスが円滑になり、データドリブンなマーケティング施策ができる体制・インフラが整えば、「デジタル×アナログ」の施策において効果測定がしにくいという課題もクリアできます。

野口:LIFULLグループは、住宅・不動産に関する情報提供にとどまらない、ライフデータを活用した「毎日を豊かに変える、出逢いと発見の場」の提供をビジョンとして掲げています。たとえば、分譲マンションや一戸建てへの住み替えをきっかけに、その先にあるライフサポート提案へとつなげていける体制・インフラ整備を進めていくのも私たちのミッションです。

ユーザーの便益を明らかにしながら住所データを蓄積・活用

野口: 今回の実証実験を通して「LIFULL DMP」ともいうべきプラットフォーム整備の方向性が明快になったのも成果の1つです。

鈴木:前回、大手ショッピングサイトが提供するDMサービスを活用して高いコンバージョン率を実現したとうかがいました。その際の送付対象の住所はLIFULL様から見れば「3rdパーティデータ」だったわけですが、今後はLIFULL様自身がユーザーからお預かりしている住所データを「1stパーティデータ」として活用することで、より柔軟なターゲティングと精度の高い情報提供が実現するのではないでしょうか。

野口:ご指摘の通りで、住所データを1stパーティデータとして活用する気運が高まったことが実証実験における最大の成果かもしれません。これまでお客様とのコミュニケーションはメールなどのデジタル施策が中心で、個人情報保護の方針もあって住所データの収集や活用に対して消極的だったんです。

 もちろん個人情報の取り扱いには細心の配慮をはらうべきですが、ユーザーに対してより有益な情報を提供しUXを改善するという目的を丁寧にご説明した上で、住所データの蓄積にも取り組んでいきたいと思います。

 現状では、物件検討プロセスがかなり進んだ「資料請求」の段階で、ユーザーに住所をご記入いただいていますが、どのように情報がパーソナライズされてどのように便利なのかを明らかにした上で、より早い段階で住所情報をご記入いただくこともできる仕組みにしたいと考えています。

 情報提供を巡る信頼関係構築を大切にしながらデータ蓄積と活用を深めることで、ユーザー理解も進みますしLIFULL HOME'S独自のMA活用も進歩するはずです。

鈴木:パーソナルデータの収集方法も今はかなり進んでいて、WebサイトへのアクセスからSNSの活用、店頭やモデルルームに端末を設置するなど様々な手法が活用可能です。

アナログ施策のためのPDCAチェックポイント

鈴木:今後「LIFULL DMP」を整備され、これまで以上にアナログ施策活用を進められる際にご提案したいのは、デジタル×アナログ施策のためのPDCAプロセスの充実です。

 具体的には、検証プロセスを「UXシナリオ設計」「ビークルテスト」「ブラッシュアップ」という3つのプロセスへと分割し、それぞれのプロセスで表に掲げたような論点を押さえながらPDCAをきめ細かく実施していくのが理想的です。

 たとえば「UXシナリオ設計」のなかには「課題抽出と戦略仮説」や「現行勝利シナリオベース」「データ整備」「KPI(評価指標)設計」などといったプロセスがあります。

 また「ビークルテスト」では「アナログ施策においてもデジタル施策と同様のキャンペーン設計」「ユーザーの特定可能なトラッキング設計」「リフトアップ指標評価」などが含まれます。

 さらに「ブラッシュアップ」では、「テスト目的の明確化」や「要素の切り分け」、「再度のKPI設計」「ビークルだけでなくシナリオもPDCA」といった課題をクリアしていく必要があります。

野口:このリストは便利ですね。今回の実験においても「シナリオのPDCA」を回すとすると、今回のDMは「Webで独自に検討していたユーザーが、紙の形で家族と読むこと」を意識した内容でもよかったかもしれません。

鈴木:「住み替え」というニーズを考えてみれば、決定権をもっているのは誰かという分析も大切ですね。最終的に決めるのは一般的には世帯主の夫のケースが多いかもしれないけれど、実質的には妻の役割や影響力はもっと大きいかもしれない。

 たとえば住み替えについて配偶者の意向をうかがうようなシチュエーションを想定するなら、開封してリビングやキッチンで夫婦・子どもたちとで広げてみんなで見るような内容のクリエイティブにするのも効果的かもしれませんね。

データドリブン・マーケティングの未来は「オムニメディア」に

鈴木:最近のトピックとしては、1stパーティデータや3rdパーティデータだけでなく、実は「2ndパーティデータ」として住所データをやり取りすることも可能だという認識が広まってきています。

 海外の化粧品ブランドではWeb上で取得したデータの緻密な解析によって、ユーザー1人ひとりの肌、髪、瞳の色によってパーソナライズした紙のカタログを世帯ごとに届ける取り組みも始まっています。LIFULL様の1stパーティデータがどんなパーソナライズ化したコミュニケーションへと結実するのか、期待しています。

 カタログの事例のように、データをもとに獲得・顧客化・リテンションの各プロセスにおいてデジタルとアナログのチャネルを自在に活用することを、僕はオムニメディアと呼んでいます。オムニメディアについてはMarkeZine Dayで詳しく話したので、読者の方にはぜひそちらもご覧いただきたいです。

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この記事の著者

浦野 孝嗣(ウラノ コウジ)

 2002年からフリーランス。得意分野は経済全般のほかIT、金融、企業の経営戦略、CSRなど。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/18 16:14 https://markezine.jp/article/detail/28249