GoogleVenturesの提唱するデザインスプリントが転機に
壁にぶつかった阿部氏が難しい局面を打開するきっかけとなったのが、UIデザインを専門とするデザイン会社Goodpatchとの出会いだ。
Goodpatchが提案したのはGoogleVenturesが提唱するデザインスプリントと呼ばれるプログラムだ。デザインスプリントでは「準備」を除く「理解」「発散」「決定」「プロトタイプ」「検証」を5日間で集中的に実施する。阿部氏は、「デザインスプリントでは、各自が関わる重要なところだけ参加することもできます。なので、通常業務を通じてデザインを意識してもらうことにつながります」と評価する。
阿部氏は、実際のデザインスプリントの手順を次のように説明した。
ステップ0:準備
目的、スコープ、スケジュール、成果物、役割分担などを紙に書いて明確にする。
ステップ1:理解
できるだけ多くのデータを集めて分析し、結果を基に課題を洗い出す。ユーザー像を言葉で表現するペルソナもこのステップで設定する。やり方は、思いつく限りのユーザー像を付箋に書き、それを模造紙に貼ってグルーピングするというものだ。
ステップ2:発散
課題を解決するためのアイデア出しを行う。このタイミングで商品の担当者をアサインし、後で振り返ることができるように、グラフィックレコーディングという手法で記録を作成した。考えをイラストに起こすと、視覚的に情報を入れることができ、より理解を深めることができるというメリットがある。このステップのアイデア出しでも付箋を使う。
本来は、「ウォールーム」と呼ばれる部屋を1週間借りきって、作業を行うことが望ましい。集中してお客様のことを考え続けることは想像以上に過酷な経験で、体力や精神力を消耗するため、ウォールームのことは漫画『ドラゴンボール』に出てくる「精神と時の部屋」とも呼ばれるのだという。
ただ、なかなか一つの会議室を独占して使うことができなかったので、グループ会社の会議室を借りたり、普段のオフィススペースの一角にホワイトボードなどのセットを設置して作業を行った。周囲から見られるプレッシャーはあるものの、一風変わったプロジェクトが進行していることが周囲にも伝わり、いい意味で「やってる感」を演出することにも役立ったという。
ステップ3:決定
発散で出たアイデアの中から採用するものを選ぶ。ビジネスの観点、情報設計の観点、デザインの観点から整理し、ページレイアウトの設計図に相当するワイヤーフレームを作成する。
ステップ4:プロトタイプ
ワイヤーフレームから、ユーザーが実際に利用できるプロトタイプを作成する。「NISA」と「積み立てNISA」では、気付きを得られるように隣り合わせのホワイトボードにフレームワークを同時に書く試みも行った。
なおプロトタイプは、プログラミングの経験がなくても使えるツール「Prott」を使って作成した。
ステップ5:検証
プロトタイプの使われ方を観察し、仮説の検証を行う。本来の検証では、本物のユーザーに依頼して意見を聞くことが理想的だが、1週間という限られた時間の中では難しい。そこで、人事部の女性にテスターになってもらったと阿部氏は明かす。
社員にテスターを依頼する場合、商品に関係していない人を選ぶのがポイントだという。その他、取引しているベンダーに依頼するのも一案だと阿部氏は語る。このステップでは仮説の間違いに気付くことが重要だ。そうして再度デザインの修正を行ってリリースへと進んでいく。