強みのカウンセリングができる場を増やしたい
MarkeZine編集部(以下、MZ):LINE カスタマーコネクト導入前の課題はどんなものだったのでしょうか。
山北:当社では、アクティブな売り上げの半分近くがオンラインからのものになります。そうした中、課題として3つのことが浮かび上がっていました。
まず、オンラインが主流のお客様とオフラインのお客様の好むチャネルの違いです。以前の通販業界では電話での問い合わせがほとんどでしたが、オンラインでは30代〜40代前半が主なお客様になります。この世代は電話をあまりしないため、当社が強みとしてきたコンタクトセンターでのカウンセリングの機会自体が少なくなっていたのです。
次に、電話ではコンタクトセンターに気軽に問い合わせがしづらいということです。メールも顧客接点としてはありますが、堅苦しいやり取りになってしまいます。Webチャットもメールに似て問い合わせの文面が硬くなる傾向がありましたし、履歴が残らずお客様が後から読み返せないというデメリットもありました。
最後は、言葉や文字では伝えづらい内容をどう理解してもらえるかということです。たとえば、当社の主力製品の「薬用クリアエステヴェール」というリキッドファンデーションは全部で5色を展開していますが、「オークル」と「ナチュラル」の違いを言葉で説明するのは難しく、利用方法についても画像や動画を見てもらうことができないかと日々感じていました。
当社のコンタクトセンターのオペレーターは、お客様の悩みを聞き、その悩みに合わせたカウンセリング販売を得意としています。この強みを活かしながら、電話以外でもお客様との距離を縮めるコミュニケーションができないかと思いました。
将来像を描けるという価値を経営層に訴求
MZ:お客様と気軽なコミュニケーションができ、商品についての理解を促す環境を作りたかったわけですね。LINE カスタマーコネクトを選ぶ決め手となった特長はなんだったのでしょうか。
山北:LINEが持つ圧倒的なユーザー数の多さと、友人や家族などの距離が近い人達同士のコミュニケーションツールとして普及していることです。当社のやりたいことに近いコミュニケーションができると思いました。今後のコンタクトセンターでやりたいチャネル横断型のコミュニケーションの実現可能性に加え、導入しやすいコストも魅力でした。LINEはお客様が日常的に使っているツールです。他の選択肢は考えられなかったので、他のサービスやソリューションを検討する余地はありませんでした。
MZ:サポート体制全体に関わるプロジェクトとなったわけですが、はじめる前の経営層の説得は大変だったのではありませんか。
山北:私が経営層に向けての説明で強調したのは、LINEが電話での接点が少なかったお客様とのつながりを作る、プラットフォームになる可能性です。LINEはお客様に身近な存在ですし、コミュニケーション機会の拡大と広告配信を考え、その価値を説明しました。
また、今後LINE Payを導入すれば、決済も含めてワンストップで広告から購入までを完結できるようになるでしょう。そんな未来を描けることも説明しました。コスト面でもLINE カスタマーコネクトの導入にはメリットがありました。お客様からの電話問い合わせは固定電話よりも携帯電話からが増えてきています。これが通信費の負担増加につながっていました。導入コストは通信コスト削減でカバーできます。さらに、オンライン広告への投資を強化する際、LINEにした場合の費用対効果が大きくなることも決め手の一つとなりました。
7社を巻き込みながらもわずか3ヵ月で導入
MZ:導入のハードルになったことはありましたか。
山北:チャットでカスタマーサポートを行うための「Manual Reply」とユーザーの料金負担無しで通話対応ができる「LINE to Call」を導入しています。両方を導入している企業が他になかったため、システム設計には苦労しました。以前の自社システムでは、メールはメール、電話は電話と問い合わせをバラバラに管理しており、カスタマージャニー全体における顧客接点間のつながりが見えませんでした。電話もチャットも単一のマーケティングツールに集約するために、パートナー企業7社を巻き込みながら進めていくことは想定以上に大変な作業となりました。
サードパーティツールとしては、Webチャットとは別のチャットツールを再選定しましたし、LINEから情報を自社システムに連携させるためのアダプターとLINE電話を自社受電システムにつなぎこむためのゲートウェイの開発も必要でした。アダプターとゲートウェイについては、開発パートナーの紹介をLINEさんにお願いしました。
LINEさんからのサポートに加えて、複数のパートナーと連携してプロジェクトを進める必要があったので、進捗管理はLINEのグループで行いました。計画から実装までのスケジュールは、当初半年と見込んでいましたが、実際には2月から着手し、3ヵ月程度でローンチできました。
お客様との距離を縮めるコミュニケーションが可能に
MZ:LINE カスタマーコネクト導入後の成果について教えていただけますか。
山北:まだ導入して間もなく、定量的な効果を検証できる段階ではありません。ですが、チャットから問い合わせを頂いたお客様の商品購入の確度については、以前よりも向上したという印象を持っています。
定性的な効果については、「最初は迷っていたが、気軽に相談ができたので購入の気持ちが決まった」など、お喜びの声を多数いただいています。意外だったのが、男性のお客様から奥様へのプレゼントの相談のように、電話では難しかった問い合わせをいただいたことです。
課題だった30〜40代の女性とのコミュニケーションにも変化が生まれています。LINEのチャットならば、電話はかけられない通勤時間でもアクセス可能です。お客様からスタンプや顔文字での返信をいただくことも多く、オペレーターには積極的にスタンプ、画像、動画を送ってほしいと伝えています。対応をマニュアル化して縛りを設けるという考え方もあると思いますが、今はできることの幅を狭めないようにしています。
オペレーターとお客様が、友達同士でLINEをするときのような感覚で対話できており、距離感が縮まったことを実感しています。さらにカウンセリングの確率もWebでのチャットと比べると高くなったと考えています。
効率よりもファンを増やすことを重視して
MZ:JIMOSの美容とECという2つの軸から見た、LINE カスタマーコネクト活用のポイントはどんなことだと思いますか。
山北:クロスセルやアップセルのコンバージョンの検証はこれからですが、美容視点では画像や動画をカウンセリングに役立てられることでしょうか。先ほど挙げた色の違いの表現だけでなく、クリームの質感などを視覚的に伝える画像、動画を増やし、使い方のコツを手短に伝えられるようにしていきたいと考えています。動画のオフィシャルコンテンツは商品説明なども含め1分~3分程度のものが多く、使い方の説明は後半になります。カウンセリングや使い方で必要な部分のみ、数秒から長くても1分程度の使えるコンテンツがあれば、電話での説明から、動画の案内に切り替えることができます。
最初は「Manual Reply」ではなく、AIに自動応答をさせる「Auto Reply」の導入も検討しました。でも、化粧品のカウンセリングではシステマティックな対応は不向きなのです。お客様は、肌の状態や好き嫌いなど、情緒的な価値に魅力を感じてブランドを選びます。「Auto Reply」の方が効率的なのはわかっていますが、新しいつながりやブランドを好きになる効果までは期待できません。なので、効率よりもファンを増やすことを重視しました。「Manual Reply」にして、一番やりたかったLINEでの接客ができるようになったことに満足しています。
お客様とのやり取りをストレスなくできるように
MZ:今後のLINE カスタマーコネクト活用で、「もっとこうしたい」と思うことや具体的な計画はありますか。
山北:LINEを広告配信のツールで終わらせないことが重要と考えています。当社のビジネスモデルは、お客様に定期的に商品を購入していただく「定期購入型」となっています。お客様に必要な情報が必要なタイミングで届くようなプラットフォームにしていく必要があります。たとえば「定期便の届く日を変えたい」とお客様が考えた時、自分で変更してもらうことや、途中でうまくいかない手続きをセンターがサポートすることなど、使いやすい環境を提供していきたいですね。自社アプリよりもダウンロードのハードルが低くなるので、LINE限定のセールの実施など、当社とLINEで友だちになってくれている人だけに特典を提供することもやってみたいですね。その意味では、ブランドとして公式にLINEをやっていることを認知されていないことはこれからの課題です。オフラインのお客様に会報誌や商品に同梱するときのお知らせなどでLINEの存在を周知し、ユーザーになってもらうよう働きかけていく必要があります。
「LINE to Call」よりも「Manual Reply」が先に利用開始となりましたが、「LINE to Call」が使えるようになれば、LINEを使った電話でのコミュニケーションや有人チャットと広告配信の組み合わせが可能になります。でき次第やりたいのは、チャットから電話への切り替えをスムーズに行うようにすることです。カウンセリングでは、チャットの担当者と別の人が電話で引き継ぐとお客様にとっては違和感が出てきてしまいます。そこはお客様にとってストレスなく、シームレスにできるようにしていきたいと思います。