プロジェクトをレビューして汎用化しておく
西口:前編では、チームラボが「体験」の提供をどのように考えているかというお話から、各プロジェクトの運営の仕方、猪子さんや堺さんもフラットに現場に入って具体的に話をしていることなどをうかがいました。「滝」タグでソートしていちばん上にくる人がジャッジする、というのは新鮮でした(笑)。
堺:「滝」の専門家、「花」の専門家、センシングのこの部分の技術なら彼、プロジェクターのこれなら彼、といった形で各自が専門家なので、それぞれの判断が必要な場で誰にいちばん発言権があるべきか、おのずと皆がわかっているんですよね。で、よりクオリティを上げるにはどうすべきか、という軸で皆が動いているから、早い。
西口:自主プロジェクトのデジタルアートの制作とクライアントワークで常時相当数のプロジェクトが動いているそうですが、クライアントワークにしても、毎回ゼロから作っているとすごく負荷がかかりますよね?
堺:もちろん、そうですね。なのでパッケージ化やモジュール化はすごく重視しています。クリエイティブはゼロから作るものと思われがちで、確かにアナログな作品だとそうなることも多いですが、僕らの場合はデジタルなので、そこのロスは省きたい。
また、レビューして汎用性を抽出しておくことで、クリエイティブの知見も蓄積されます。短期間でエグゼキューションに漕ぎ着けられるのは、その部分も大きいですね。
「点と点をつなぐ」ことができる理由
西口:スティーブ・ジョブズの名言に「Connecting The Dots(点と点をつなげ)」という言葉がありますよね。プロジェクト運営のお話を聞いていて、それがパッと浮かびました。経営陣を含めて皆が点と点をどうつなげばいいかわかっているから、混乱せずにエグゼキューションまでたどり着ける。
堺:僕もそのジョブズの言葉、腑に落ちます。僕らの場合、エグゼキューションが最も重要で、アイデアベースで抽象的な話をしていても何の意味もない。それって他社さんだとブレストだったり戦略会議といわれたりするのかもしれませんが、実際、うちでそういう会議はあまりないんです。着想があったら、すぐに「どう実現できるか」「誰が/どの技術が必要か」といった具体的な話に入っていくので。
ものを作る過程でいうと、アイデアの段階は本当に0.01%くらいしか前に進んでいなくて、残りの99.9%は具体的にものを作っていく過程の無数のジャッジによって進んでいく。そこでコストも体験も変わっていって、その積み重ねこそがクオリティの差になってくると思います。
西口:その0.01%でしかない最初のアイデアが「お客様にとって新しい価値として成立するかどうか」という、残りの99.9%を見通す判断、つまりクリエイティブの判断は、誰が、どの様におこなうのですか?
堺:それも、そのときの初期のメンバーでパッと決まりますね。おもしろいかどうかの判断は、やはり暗黙知的なものが大きいかもしれないです。皆がものづくりに携わっていて、同じ方向を見ているから、「だって絶対こっちでしょ?」というのはすぐに見出せる。