日本において運用されてきた組織形態
本書では進化型組織の前段階として、衝動型、順応型、達成型、多元型といった組織形態が紹介されている。そのうち、日本企業に多く見られるのは、順応型と呼ばれる組織形態だろう。
順応型組織は、秩序、安定、予見性を重視し、制度や官僚制を通じた統制を作りだす。政府機関、公立学校、宗教団体、軍隊などがそれにあたる。変化をよしとせず、前例に則ったやり方を好む。「過去にうまくいったことは将来もうまくいく」という考え方だ。
こうした組織形態は、経済が上向きで年功序列・終身雇用が問題なく運用されていた時代には、機能したはずだ。メンバーは組織の上層部から発信される組織のルール、あるいは成果を出すための指針に従って行動していれば、評価されることができた。
しかしビジネスの環境や人々の価値観が多様化・複雑化した現代においては、それが人々の望む働き方や成果につながらなくなっていることも多いのではないだろうか。低推移する経済成長率や、仕事へのやりがいや満足度を測る様々な調査で日本が先進国の中で軒並み下位になっている状況は、こうした旧来の組織形態が制度疲労を起こしていることも無関係ではないだろう。
進化型組織の優れたケース、ビュートゾルフ
本書ではそんな旧来の組織形態の次の段階として、進化型組織という概念を紹介している。それは著者の頭の中の理想ではなく、実際にいくつもの企業を調査した結果、導き出されたものだ。
著者によれば進化型では組織を「生命体」や「生物」と同様に捉え、トップが戦略を立案し引っ張っていくのでも、分権や権限委譲によるボトムアップでもなく、階層を廃し、自らの存在目的にしたがって全員が自主的・自律的に動く。
本書ではティール組織の優れた例として、オランダのビュートゾルフを紹介している。ビュートゾルフは地域密着型在宅ケアサービス組織として高い成果を挙げるだけでなく、オランダの全産業の中で従業員満足度1位を獲得している。
かつて、オランダの在宅ケアサービス組織の多くは達成型組織だったそうだ。達成型組織はとにかく成果を重視する。効率と生産性が重視され、看護師の医療処置は「商品」と呼ばれた。患者たちをケアしたいという使命を持って職に就いた看護師らは、自分たちの仕事に誇りを持てなくなっていった。それにともなって、医療の質も低下していったという。そうした状況を変えるべく、ベテラン看護師のヨス・デ・ブロック氏が立ち上げたのがビュートゾルフだった。
ビュートゾルフでは、看護師は10名程度のチームに分かれ、各チームは担当地域の50名程の患者を受け持つ。看護師たちはケアサービスを提供するだけでなく、どの患者を何人受け持つかといった仕事の割り振り、研修計画などをすべて自分たちで決める。チーム内にリーダーはおらず、重要な判断は集団で決める。課題の発見、解決策の立案・実行を主体的に行う体制になっているのだ。
すると看護師たちは、誇りを持って自らの職務に取り組めるのだという。そんな看護師たちのサービスを受けた患者やその家族たちは、深い感謝の思いを持ち、ビュートゾルフの評判も向上する。このように進化型組織は、個人の主体性が尊重されつつチームで成果を出すことができるという組織形態なのだ。
通常なら、就職先や転職先を探す際に一番気になるのは、賃金やポジションといった個人の条件面になるだろう。しかし、ビュートゾルフの例のように、組織の形態でも働き方ややりがい、成果には大きな差が出るようだ。気になっている企業などがあるのであれば、そこがどういった組織形態で活動しているのかにも注目してみるとよいかもしれない。
情報工場は厳選した書籍のハイライトを3,000字のダイジェストで配信するサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を運営。国内書籍だけではなく、まだ日本で翻訳されていない海外で話題の書籍も日本語のダイジェストにして毎週、配信。上場企業の経営層・管理職を中心に8万人超のビジネスパーソンが利用中。