高い壁となる「社内理解」をどのようにクリアしているのか
祖谷:次のテーマに移りますが、顧客体験をビジネスの中心に据えるという考え方を社内組織に浸透させるために、どのようなことをしていますか?

統括部長 兼 ECマーケティングディレクター 成松岳志氏
成松:LOHACOでは、複数のステップに分けて取り組みました。1つ目のステップは、優良顧客を定義することです。優良顧客の定義は、人によって見解にバラつきがあるので、オフィシャルな定義を最初に作りました。
次のステップでは、その定義を社内に浸透させていきました。このステップを成功させるために重要なのは、様々な部署やレイヤーの人間がみんな同じ方向を見て、共通言語で語れるようにすることです。具体的には、優良顧客が今どのような行動をしているのか、きちんと施策に反応してくれているかを、すべてのツールで見れるようにしました。
祖谷:どのくらいの時間と労力をかけて、今の社内体制を作りましたか?
成松:着手してから、だいぶ浸透したかなというところまで、約10ヵ月かかったと思います。データは言語になるものです。社内のコミュニケーションにデータが必須になってくると、理解していなくて使えないほうが不便になってきます。そうなってきた時、一気に理解や考えの浸透が広まった気がします。最初にマネジメントのトップ層が使い始めると、社員もおのずと使わざるをえなくなるので、そのように火を付けましたね。
祖谷:テクノロジーの話は小難しいイメージがあり、社内で理解を得るのが難しいと思うのですが、花王ではどのように社内理解を得ていますか?
鈴木:実は私自身、デジタルマーケティングの分野に来てまだ1年半くらいしか経っていません。ですので、自分もテクノロジーへの理解は十分でないと思っていますし、テクノロジーを自分から遠ざけてしまう人の気持ちは、よくわかるんですよね。
社内では、そういう人達と直接対話することで、理解してもらうようにしています。わからない人に歩み寄り、気持ちを汲んで、そこから一緒に体験をしていく。これは、ブランドマーケティングと同じですよね。
祖谷:皆さんを巻き込みながら、進めているんですね。三井住友カードでは、どうですか?

佐々木:当然ですが、「考え方や方針を伝えて、KPIを共有していきましょう」というだけでは上手くいきません。マーケティング部門は、各ステークホルダーにテクノロジーを提供していく役割を背負っていると思っています。
従来型の背策を変更しようとすると、どうしてもパフォーマンスが落ちてしまいます。これをカバーしながら、顧客体験価値を上げていく。これは、単純に気合いや精神論だけで解決できるものではありません。みんなでブレイクスルーできるように、各事業部がテクノロジーを使える状態を作ることが大事です。そして、その状態を作る使命は、マーケティング部門にあると思います。