マスでなくニッチなマーケットで仕掛けるTata CLiQ
1868年に綿貿易会社として設立されてから今日まで、インドで数多くのビジネスを展開してきたタタ・グループ。同グループは、現在100社以上の企業で構成されており、自動車事業のタタ・モーターズ、製鉄事業のタタ製鉄のほかIT、電力、ホテルリゾート事業、食品など、そのビジネスの領域は多岐にわたる。
そんな同グループが、インターネットビジネスに参入し、ECサービス「Tata CLiQ(タタクリック)」のローンチを決めたのは2013年のこと。当時すでにAmazonとアリババがグローバルで勢力をふるっていたため、これらとの差別化は必至であった。
そこで同グループが取った戦略は、「マスマーケットでなくニッチなマーケットを攻める」というものだ。その意図を、Tata CLiQでChief Technology Officerを務めるSauvik氏は、次のように話す。
「Amazonは商品を仕入れて販売するという顧客中心の直販型、アリババは中小企業や個人などベンダーに向けたビジネスモデルを展開しており、両者のタイプは異なります。ですが、そのオペレーションモデルは同じで、自社の倉庫で在庫を大量に保管し、そこから商品をデリバリーしています。
ここにかかるコストは、年間で何十億ドルにも上ります。この点を加味して我々は、『顧客ケアを重視することで差別化を図る。そしてこれこそが我々ECのブランドになる』と考えました」(Sauvik氏)
Amazon、アリババとの差別化で打ち出した3つの戦略
そこで、Tata CLiQが打ち出した差別化のための戦略は3つだ。
1つ目は、ブランドファーストとそのファンを第一に考えるサービスの設計である。従来ECビジネスは、顧客と販売者を中心に運用されてきたが、Tata CLiQではブランドとそのファンを重視している。詳しくは後述するが、ブランド企業に向けたデジタルマーケティングの支援も厚い。
2つ目に、物流改革によるオムニチャネル化で差別化を図った。Tata CLiQではフルフィルメントをブランドのオフライン店舗で行い、商品は店舗から顧客へ発送される仕組みになっている。商品の価格も実店舗と連動しており、店舗でセールが行われていれば、Tata CLiQでも同じセール価格で販売される。オンラインで購入した商品を実店舗で返品することも可能で、ブランドにとっても顧客にとってもオフラインとオンラインがシームレスに統合されたマーケットが形成されている。
3つ目に、ター3ゲット層をマスではなくブランド志向の富裕層にした。ターゲットの年齢層は、35~60歳。扱っている商品は、グローバルで認知度の高いハイブランドやインドのラグジュアリーブランドに加え、アサヒスーパードライなどインドではなかなか手に入らない商品などが主だ。ジャガー、ランドローバーなどの高級車も扱っているというと驚くのではないだろうか。幅広くリーチするのではなく、ニッチな市場で手厚く顧客ケアをすることで競合との差別化を図っている。