AIが実現するデータドリブンな予測モデル
セッションの後半では、「AIで特徴を可視化する」というテーマが語られた。
アクティブコアでは現在、MAやAIの活用をテーマに、同社が提供するサービスのユーザーと意見交換をする場を定期的に持っている。山田氏はその中で、「AIでこれから実施したいこと」についてのヒアリングを行った。その結果、大きく分けて「予測」「特徴量の可視化」「顧客抽出・オファー」という3つの意見が寄せられたという。
1つ目の項目「予測」とは、ニューラルネットワークのスコアによるものだ。
スコアによる予測をするためにはまず、サイト訪問やキャンペーン閲覧、メルマガ流入といった顧客の行動があった際、それぞれに「点数」と「重み」をつける。そして、それを掛け算して出た数字を合計。次に、出た値とあらかじめ決めておいた「しきい値(ある値以上で効果が現れ、それ以下では効果が現れないことを指す値)」を比較する。
しきい値が計算結果よりも高い場合は、「この顧客はコンバージョンする」という予測が立てられるというものだ。典型的なBtoBにおけるMAスコアリングの手法ではあるが、「点数」と「重み」のスコアをどういった理屈で決めたのかが不明瞭な点が課題として挙げられている。
現在のAIでは、こうした手法をさらに発展。「ディープニューラルネットワーク」や「ディープラーニング」による予測が可能となっている。最大の違いは、これまで人間がつけていた「重み」の数字をAIがつけ、更新まで行うことだという。
最初の「重み」はAIが自動でつけ、中間層を複数作成する。そして、そこに再び「重み」をつけた上で、実際にコンバージョンするかどうかを予測。ここに正解のデータを当てることで、誤差に応じて「重み」の数字を調整し、正解の値に近づけていく。
「分析や修正だけでなく、途中のスコアを自動的に更新できる点が現在のAIの特徴です。誤差の修正は一度にすべて行わず、小数点以下の僅かな差を何度も更新しながら調整していきます」(山田氏)
AIの予測精度を左右する「特徴量」とは?
2つ目の項目は「特徴量の可視化」だ。そもそも「特徴量」とは何か。これはたとえば、コンバージョンするかしないか、退会するかしないかなど、「結果に関係するデータ」のことを指す。山田氏によれば、この「特徴量」を適切に選択することで、AIの精度が決まるという。
山田氏は、「これまでのAIでは、『特徴量』を人間が指定する必要がありました。しかし現在のAIでは、データから自動的にポイントとなる『特徴量』を抽出することができます」と語った。
続いて山田氏は、AIを使った予測の事例を紹介した。
あるBtoB企業がAIを活用し、コンバージョンが予測される顧客を抽出。AIに与えたデータは、「コンテンツの閲覧履歴」「業種」「役職」「接触イベント」などだ。結果、最もコンバージョンに影響した「特徴量」は「コンテンツの閲覧履歴」だった。そして、予測の正解率は75%だったという。さらに、「閲覧回数」を「閲覧時間」に変えたところ、正解率は90%に上がった。
「回数よりも、どのくらいの時間コンテンツを閲覧しているかが、精度向上には重要だということが明らかになった実例です。この場合、『特徴量』は『コンテンツの閲覧時間』ということになります」(山田氏)
「AIのスコアには、プラスの特徴に加えて、マイナスの特徴があります。プラスの特徴にあたるのは、『セミナー』『事例ノウハウ』『製品ページ』『コラムA』などです。一方、マイナスの特徴としては、『サイトマップ』『コラムB』『コラムC』などが挙げられます。これは、『サイトマップ』を見たということは本来閲覧をしたかったコンテンツにたどり着けなかったと予測されるためです。コラムも、コンテンツによってプラス・マイナスが異なります。このように、サイト内の様々な要素に対してプラスやマイナスのスコアをつけます。そのスコアに応じて、AIが予測を立てるという仕組みです」(山田氏)
こうした予測モデルの構築によって、これまで30~40%だったメールの開封率が54%まで向上したケースもあるという。その他、1~1.2%だったCVRが6.6%まで向上したという報告も受けているそうだ。「AIの予測精度の高さを証明できる数字だと思います」と山田氏は述べた。
アプリ内の行動をもとに購入確率を予測
最後に山田氏は、アプリ行動を起点にAIで行える購入確率予測を紹介した。
アプリ操作後2週間以内に店舗で購入する確率が約4割だった顧客に対し、アプリの行動パターンに基づく購入確率がどう推移するかをAIが予測。たとえば、店舗情報を見た場合、購入確率の予測は40%ほどになる。さらに「商品検索」「商品詳細の閲覧」「欲しいものリストに登録」と、アプリ内での行動が重なれば、購入確率は75%以上にまで向上する。
最も購入確率が高くなると予測される行動パターンは、「過去に購入した商品と同じカテゴリーに分類される商品のリスト登録」。この場合、2週間以内に店舗で購入確率は90%だ。こうした具体的な予測値がAIによって導き出されることで、MAでアプローチするべき顧客は明確になる。
また、上述の「実施したい項目」の3つ目にあった「顧客抽出・オファー」のように、退会しそうな顧客の抽出も、「特徴量」を活用して行えるようになる。
山田氏は最後に、「これまでは、分散されていたデータをそれぞれ集計した分析が主でした。現在は、データを統合しつつ、AIを活かした『特徴量』の可視化が実現できます。ここに人間のセンスや判断を加えることで、より効果的なマーケティング施策の自動化が可能になります」とAI活用の可能性を述べ、講演を締めくくった。