取りこぼしの「穴」につながる2つの失策
では、ブランド認知もあり、課題も顕在化している顧客のフォローする方法から見ていこう。
通常BtoBマーケティングでは、自社ブランドを認知している層からアプローチをかける。ところがここで、顧客を取りこぼしているケースが多いという。その取りこぼしの理由として中村氏は、「顧客の『社内で資料を共有したい』に対応できていない」「既存の見込み顧客の自然検索をキャッチできていない」の2つを挙げた。
1.顧客の「社内で資料を共有したい」に対応できていない
1つ目は、情報収集の段階で「検討のために、資料を社内で共有したい」というニーズに応えていないこと。企業Webサイトの多くは、簡単な製品説明ページを設けただけで「詳しいお問い合わせはこちらへ」と、電話やメールでの問い合わせに誘導しているものが多い。
これが逆にWebサイトに訪問した顧客を萎縮させ、「十分な資料を入手できないまま、比較・検討フェーズから漏れてしまう」という事態を招いてしまう。
これを防ぐには、「まず顧客が欲する資料はきちんと提示し、問い合わせとは別にすることです」と中村氏は語る。実際、シャノンでも「資料請求」と「問い合わせ」と2つのボタンに分けたところ、問い合わせ件数に比べて資料請求件数は1.5倍になったという。このように、サイト訪問者のニーズに応えるだけで、デジタル施策でも十分な効果を上げることができるわけだ。
2.既存の見込み顧客の自然検索をキャッチできていない
もう1つの取りこぼしの“穴”は、「既存の見込み顧客の自然検索をキャッチしきれていないこと」にあるという。具体的には、過去展示会やセミナーに来た来訪者が、久しぶりに自然検索で自社サイトを訪問したというケースだ。
自発的な来訪者は顕在化したニーズを持ち、比較・検討のためにサイトを回っていることが多い。実際、Webアクセスから得たリードの7~12%は、自然検索で自発的に来たアクセスだという。特に一度自社ブランドを認知した後、時間が経ってから訪問しているのならば、比較・検討フェーズにある可能性が高い。
これを取りこぼさないようにするには、Webトラッキングツールの存在が不可欠だ。同ツールがあれば、誰がいつ、どのページを閲覧したかがわかる。ただ、アクセスした全員に“すかさず”フォローするのが正解というわけではない。
「たとえば展示会で『情報収集中』とアンケート回答した人が直後にサイトを訪れても、単に軽い情報収集で訪問した場合が多く、あまり強力にプッシュすると敬遠されるでしょう。むしろ、少し時間が経ってから自発的にアクセスしてきた場合、フェーズが進んで比較・検討になった可能性が高く、ここで適切にアプローチすると商談につながる可能性が高まります」
既にあるハウスリストを活用する
次に、2番目の「ファネルを大きくする=名刺再活用」についてはどうか。
中村氏によると、「自社ブランドを認知しており、まだ顕在化したニーズがない」層のリストをきちんとフォローしている企業は少ないという。
ちなみに「自社ブランドを認知していて、まだ顕在化したニーズがない」というのは、言い換えると「既に名刺交換をしているが、特にWeb訪問も問い合わせもない状態」となる。
一般に営業担当者は年間200枚くらい名刺を交換しており、5人もいれば年間1,000枚ものリストが蓄積される。こうしたリストの中で、すぐ商談につながるのは12.5%といわれており、まったく対象外なリストは17.5%、残りの70%が「長期フォローが必要なもの」となる。
これを営業担当者の数で考えると、一人年間140枚は長期フォロー対象者となり、5名だと700件のリストは、長い視点でじっくり行動をフォローすべき対象となるわけだ。
「このフォローすべきリストへの対応をきちんと行うと『ブランド認知しているリードが少ない』という課題を解決できます」と中村氏は説明する。そのためには、まず持っている名刺管理ツールやモバイルアプリを使って名刺情報をすべてデジタル化し、Webトラッキングツールを活用して行動をフォローすることが必要になる。そしてモバイルアプリで過去の接点を確認しつつ、適度にアプローチを続けることで、ニーズが顕在化した時に検討してもらいやすくなる。
実際、ある大手SI企業では「製品サイトへの訪問あり・なし」「担当営業の訪問あり・なし」でセグメントを分け、各セグメントでコミュニケーションを変えた。特に、「製品サイトへの訪問、営業担当の訪問あり」の層に対しては、メールや電話を併用して自社製品のメリットを伝えたところ、訪問数3.3倍、案件数3.6倍という大きな成果を得られたそうだ。