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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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次世代マーケティング教室

マーケティング・アカウンタビリティの概念

多数のステークホルダーにマーケティングの価値を伝える

 企業には社会的責任(social responsibility)があり、株主だけが企業のステークホルダーではない。株主以外にも、従業員や顧客などステークホルダーは多数存在しており、株主価値の最大化ばかりを追求すると、社会的責任が軽視されたり、ステークホルダーによって利益に差が出てしまう。

・従業員

 従業員は企業に長期的にコミットメントする。今日の情報化時代の価値創造においては、バランスシート上の項目よりも従業員の特殊なスキルのほうが重要な無形資産となる。一般的に従業員の目的は雇用の保障、報酬、仕事の満足度の組み合わせである。これら三つの中でも雇用の保障は、株主価値の最大化に基づく戦略と激しく対立する可能性がある。急速に変化する市場においては、価値ベースのマネジメントを行うと、不幸にも事業が打ち切られたり処分されたりすることも多くなってしまう。

・マネージャー

 20世紀に所有と経営が分離すると、トップ・マネージャーは株主の利益と一致しない利益を追い求めやすくなった。マネージャーは成長や短期的な利益を、株主価値以上に給料や名声といった個人的報酬と密接に結びつくものとして捉えることが多い。一般的にマネージャーが機会を追求する際には、株主以上にリスクをきらう傾向がある。企業がリスクの高いプロジェクトに投資する場合、株主はポートフォリオを多様化すればリスクを分散させることができる。しかしマネージャーは、自らの仕事が危険にさらされるので、失敗すると株主以上の痛手をこうむることになる。

・顧客

 顧客価値がなければ、株主価値も存在しえない。企業の長期的なキャッシュフローの源泉は顧客満足にある。

 しかし、顧客満足がそのまま株主価値につながるわけではない。競合他社よりも低い価格、優れた品質・特徴によって顧客を喜ばせようとしても、提供コスト(資本コストを含む)が顧客によって支払われる価値を上回っているかぎり持続優位性は獲得できない。やみくもに顧客満足の最大化を図っても、株主価値志向と対立してしまうことは目に見えている。

・供給業者

 バーチャルに統合された今日の企業は、ネットワーク内にいる供給業者との協調とコミットメントのもとに成り立っており、競争は個々の企業間競争からネットワーク間競争へと移りつつある。ネットワーク内の供給業者は、長期的な保障、予測可能性、満足のいくマージンを欲しているが、今日の移ろいやすい市場で価値をマネジメントする企業には、このようなリレーションシップを保証できない。技術変化、消費者ニーズの進化、新たな供給源などによって、安定性に対する伝統的な供給業者の切なる願いと価値を求める株主の野望のあいだには対立が生まれる。

・コミュニティ

 企業が拠点とする地域や国のコミュニティも、企業の活動に関心を持っている。企業の社会的責任は、企業が社会に対して「していること」「できること」の一つから生じる。前者は汚染や環境破壊のように企業活動の副産物として生じる負の影響であり、コミュニティはこれがなくなることを望んでいる。後者は雇用の維持、マイノリティ支援、学校教育の改善といった、コミュニティが企業に行って欲しいと考える行為を指している。社会的影響は企業が引き起こすものなので、企業に責任がある。しかし、社会問題は社会の機能障害によって生じるので、企業がこの責任を引き受けようとすれば、株主価値の最大化という目標と対立するおそれがある。

 企業が従業員に正当な報酬を与え、安全で魅力的な労働条件を提供しなければ株主利益は生まれないし、市場調査、新製品開発、品質、カスタマーサービスへの投資は必然的だ。それらの必然性を、マーケティングの文脈だけでなく、様々なステークホルダーに理解できる指標でアカウンタビリティを果たしていくべきだろう。

※参考文献『価値ベースのマーケティング戦略論』(ピーター・ドイル著、恩藏直人監訳、東洋経済新報社、2004年2月)

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この記事の著者

春山 稔(ハルヤマ ミノル)

1985年神戸大学卒(教育学士)。外資系広告会社に約30年ほど勤務した後、独立。2008年関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科修了(MBA:マーケティング専攻)。2017年、関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科先端マネジメント(PhD.)2年所属。日本マーケティング学会所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/11/26 14:00 https://markezine.jp/article/detail/29712

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