自社だけ、では業界は健全化されない
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回はファンコミュニケーションズの二宮さん、アドウェイズ/Bulbitの山田さん、Phybbitの大月さんに話を伺います。まず、SHARED BLACKLISTを始める前は、皆さんどのような課題を感じていたのでしょうか。
写真左:株式会社ファンコミュニケーションズ 取締役 執行役員
ADプラットフォーム事業部長
二宮 幸司氏
同社提供のアドテク関連サービスの管掌役員を務める。今回記事に登場する「SHARED BLACKLIST」では、同社のスマートフォン向けアドネットワーク「nend」が参画している。
写真中央:株式会社アドウェイズ 取締役 新規領域担当
Bulbit株式会社 代表取締役
山田 翔氏
アドウェイズでは新規事業や投資事業を管掌する取締役を務めながら、Bulbitではアプリデベロッパー向けの全自動マーケティングプラットフォーム「UNICORN」の責任者として活動。同プラットフォームが「SHARED BLACKLIST」に参画している。
写真右:株式会社Phybbit 代表取締役社長
大月 聡子氏
アドフラウド対策ツール「SpiderAF」を提供するPhybbitの代表として、ビジネスサイド全般を担当。同ツールは広告配信データの解析を行い、その結果得られる不審なメディアやIPリストを、ダッシュボードやAPIでクライアントに提供している。
二宮:弊社は2つの課題がありました。1つ目はリソースです。ファンコミュニケーションズは創業当初からアフィリエイトサービスの運営などを通じて、インターネット広告における不正対策のノウハウはかなり蓄積できていました。
ただ、近年アドフラウドの高度化と複雑化が進んでおり、社内でも不正対策部隊を抱えていますが、そこでも対応しきれない状況だったので、仕組みやシステムで解決しなければいけないと感じていました。
2つ目は不正判断基準の平準化です。当社では、長年かけて不正判断基準をブラッシュアップしてきましたが、社内だけに留めておくべきなのかという疑問がありました。当社で広告配信を止めても、他の広告プラットフォームに移ってしまうだけなので、業界全体の根本的な解決にはならないんです。このあたりの話は山田さんともよくお話ししていて、お互い同じような課題を持っていました。
山田:そうですね。Bulbitが提供するマーケティングプラットフォーム「UNICORN」では、独自のアルゴリズムを開発して対策して一定の成果も得られていたので、自社での課題はそこまでありませんでした。
ただ、世の中に存在するすべての広告事業者が健全化していくためには我々が蓄積してきたデータや対策方法をより広く進める必要があると考えてはいました。業界スタンダードを皆同じ基準まで引き上げなければ、不正がはびこる状況から抜け出せないので。
Phybbit×アドネットワーク事業者がタッグを組む理由
MZ:SHARED BLACKLISTはどのようなきっかけで立ち上がったのでしょうか。
大月:以前、当社でアドフラウド勉強会を開催した際、参加者の方から「どこかが声を上げて協力しあえる体制を構築しなければイタチごっこは終わらないのでは」と質問を頂いたことがありました。
元々アドフラウドに対して、業界全体で取り組まなければいけないとは考えていたので、その場に参加していたアドネットワーク事業者の方にすぐ声をかけてみたんです。すると多くの方から賛同していただけたので、早速プロジェクトとして立ち上げようとなりました。
二宮:当社はSpiderAFをリリース後からずっと利用させていただいていたこともあり、お誘いいただきました。先ほど挙げた2番目の課題の解決には、Phybbitさんのようなアドフラウド対策を支援する企業の協力が必要だと思っていましたし、業界の健全化を進める上で非常に良い取り組みだと思いました。
山田:当社はSpiderAFを導入していなかったのですが、SHARED BLACKLISTがリリースされたとき、私達も業界に貢献できるのではないかと考えて参画を決めました。二宮さんがお話ししていた業界内でのアドフラウドにおける判定基準の統一を行うには、このような取り組みが必要だと思っていました。
アドフラウド関連情報を全面共有
MZ:SHARED BLACKLISTでは、具体的にどのような情報が共有されるのでしょうか。
大月:基本的には不正なアクセス元のIPや不正な掲載面情報(ドメイン・ URL・App ID)に関するブラックリストです。具体的には、SpiderAFが独自に収集・解析したブラックリストと、SHARED BLACKLIST MEMBERSから報告のあったブラックリストをメンバー間で共有します。
それぞれ、「アダルトだから」「誤クリックを誘発するから」など、なぜブラックリストに入ったのかという判断基準になるカテゴリやレベル情報なども一緒に付与しています。
ただ、最終的にブラックリストに入れるかどうかは各社が判断できる仕様となっています。というのも、明らかにNGなものもありますが、カテゴリによってはOKとしているネットワークもあり、各社で調整できる余白が必要だと考えたからです。
まだ完璧に提供できているわけではないので、そこは各社の意見を聞きながらブラッシュアップしていきたいです。
MZ:二宮さんと山田さんは、SHARED BLACKLISTをどのように活用しようと考えていますか。
二宮:元々、自社開発したアドフラウドサイトの検出プログラムと、SpiderAFによるダブルチェックで不正対策を行っていました。それに加え、SHARED BLACKLISTで提供されるAPIを利用して、SHARED BLACKLIST登録サイトを最初の段階から極力はじき、広告配信しないようにしていく予定です。
山田:当社も同じように、自前で持っているブラックリストとSHARED BLACKLISTを組み合わせて活用することになると思います。
ブラックリストを事業者間で共有するメリットは?
MZ:今回の取り組みによって、どのようなメリットがあるのでしょうか。
二宮:まず、広告主にとってのメリットが大きいですね。アドフラウドを排除できれば、広告予算を無駄に消費する機会が減ります。広告効果も正しく計測できるので、予算配分の最適化が進むはずです。
アドネットワーク事業者は、より広告効果を伸ばすことができると思います。あと、SpiderAFユーザーとしては、SHARED BLACKLISTの規模が大きくなれば分析ログも増えるので、SpiderAF側の分析精度も向上していくだろうなと期待しています。
山田:各社のブロック判断基準を統一できるようになるので、広告主やパブリッシャーから見ても基準がわかりやすくなるはずです。そうなればステークホルダー全体の理解度が高まって、アドフラウドに関するコミュニケーションコストが下がるのではないかと思います。
大月:お二人の話に出たメリットが享受されれば、業界の健全化にもつながります。有益な情報はどんどん共有していくべきです。そのため今後、SHARED BLACKLIST参加企業のエンジニアに向けた勉強会なども開催し、アドフラウドを防ぐ技術の共有も進めたいと思っています。
正直、他のアドベリフィケーションツールやアドフラウド対策ツールを提供している企業同士でも協力していくべきだと考えているので、業界関係者はどんどん巻き込んでいきたいです。
広告のエコシステムを正常に
MZ:今後の展望を教えてください。
大月:先に話した通り、今後はより多くの企業に参画いただきたいので、どうすればその流れを加速できるか模索しているところです。
2018年は2017年に比べて、より高度なアドフラウドが増えてきています。そのため、単純なロジックでの対策には限度があると感じています。SHARED BLACKLIST自体もまだ完成しているとはいえないので、各方面に協力いただきながら成長させ、業界に貢献していきたいですね。
二宮:これまでの広告業界は数値至上主義になりすぎていたんだと思います。モラル含めて、今のやり方を見直す時期に来ているのかなと。ただ、どうしても事業者同士で推し進めるのもなかなか難しい。その中でPhybbitさんのような会社が入ってくれると非常にありがたいです。今後もSHARED BLACKLISTをより推進できるよう、当社もできるかぎり協力したいと考えています。
山田:SHARED BLACKLISTが、広告事業者だけではなく広告主や媒体社も参画できるような仕組みになるといいなと考えています。
今は広告配信業者が導入し、判断基準を統一させることを直近の目標にしていますが、広告主や代理店も巻き込んで、広告に携わる事業者全体で、正しい広告を配信できる環境作りに取り組んでいければもっと良くなるはずです。
大月:山田さんがおっしゃっているように、関係者全員が協力して広告業界のエコシステムを正常に戻し、皆が損をせず、正しいところに正しいお金が流れるような世界を作りたいです。
MZ:皆さんのお話から、アドネットワーク事業者とPhybbitのアドフラウド撲滅に対する本気度が伺えました。我々も引き続き、SHARED BLACKLISTをはじめ広告業界の健全化に向けて動く各社の動向に注目したいと思います。ありがとうございました。
アドフラウドの現状を明らかに
今回のSHARED BLACKLISTをはじめ、アドフラウド撲滅に向けた取り組みを行うPhybbitが、1月31日に調査レポートを発表しました。同レポートは、直近のアドフラウドに関する動向などが理解できる内容となっています。ぜひ最新の状況を理解して、自社が取るべき対策を考えてみてはいかがでしょうか。詳細はこちら