小売店に行く価値がなくなった今、必要なのは「体験」の提供
原嶋:近年のデジタルシフトの流れを受け、今「消費行動」にも大きな変化が起きていると感じています。当社はリアル店舗向けのサービス「Pathee」を運用していますが、奥谷さんは、今後の「リアル店舗の役割」についてどのように考えていますか?
奥谷:ECの登場により、「リアル店舗に行く意味」はだんだんとなくなってきましたね。店舗はあくまで、商品を実際に見たり、気になることを店員に聞くための場所であり、「購入はオンライン」という人も増えてきています。
こうした変化の中、今、小売業に求められているのは、「リアル店舗を体験の場にする」ことではないでしょうか。デジタルでお客様とつながりながら、リアル店舗で「新しい体験」を提供していくのです。
原嶋:リアル店舗における新しい体験とは、具体的にはどのようなものでしょうか?
奥谷:たとえばARやVRで家具を確認できる「体験型店舗」を作ってもいいですし、アパレルであれば服は注文があってから生産するバイオーダー制にして、店舗は受け取りや試着をする場所にするなど、アイデア次第で「新しい体験」は作ることができます。大事なのは「店舗=商品をレジに通過させる場所」という、企業視点の認識から脱却することです。
リアル店舗の役割はオフラインからオンラインへの誘導
原嶋:国内外に900店舗以上を展開する無印良品から、有機野菜などをネット販売するオイシックスへ転職した経歴を持つ奥谷さんから見て、ネット企業におけるリアル店舗の役割は何だと思いますか。
奥谷:良品計画時代は、リアル店舗を作るのが当たり前でしたが、オイシックスなどのネット企業からすると、リアル店舗は、地理条件や入居している施設の制約を受けるなど、効率が悪いビジネスモデルだと思います。16時から19時の間に野菜を売りたくても、入居施設がオープンしている間は店員を店舗に配置する必要があるなど、制約を受けます。
オイシックスはリアル店舗も運営していますし、今後もリアルのタッチポイントは店舗という形態にこだわることなく、数を増やすつもりです。これからのリアル店舗では、ただ商品を売るのではなく、オフライン(リアル店舗)から、オンライン(EC)へつなげる仕組みを作ることが重要だと考えています。
原嶋:オイシックスはネット販売のイメージが強いですが、リアル店舗ではどのような取り組みを?
奥谷:オイシックスでは主にミールキットのKitOisixや野菜を販売しているため、粗利はあまり高くありません。そのため、店舗はコンパクトにして、強いプロダクトだけを並べています。オイシックスの世界観はネット上に作り上げ、リアル店舗では、オイシックスのエッセンスを伝えることを意識しています。
理想は、リアル店舗からの誘導により、ある程度までネット会員を増やすことができたら、店舗を閉めてもいいと考えています。店舗で買おうが、ネットで買おうが、オイシックスの商品は同じです。むしろ、ネットのほうが品揃えはいいので、お客様にとってメリットが大きいかもしれません。