“ツール論”から“チーム論”へ
――「おもてなし文化」との相性についてのご指摘は、興味深いですね。では、今後の市場動向についてはいかがでしょうか?
笹:そうですね、また次のフェーズに差し掛かってきています。端的にいうと、ツール論からチーム論になってきていると感じています。
具体的には、One to Oneコミュニケーションの実現だけなら、より性能の高いツールあるいは自社の目的に合ったツールを導入し、ある程度のレベルで目標を達成することが可能になりました。次はそれを前提に、企業として顧客とどのような関係を築きたいのかを明確にし、長期的なビジョンに基づいて施策を設計していく必要が出てきています。そのためには、ツール選びというより、社内そしてパートナー企業も含めたチーム編成が重要になってくると思います。
――パートナー企業という点では、いわゆる総合代理店に代わって、御社のようなテクノロジーベンダーがマーケティングエージェンシーの領域で活躍しつつあると思います。その役割を一層になっていく考えですか?
笹:もちろん我々も長期的なパートナーを目指してはいますが、マス広告がある限り総合代理店の役割も残るので、代替ではなく共存していくというのが私の見解です。マス広告にデジタルという新しいコミュニケーションのラインが加わり、コンサルティングファームやベンダーがそこにビジネスチャンスを見出している状況だと思います。
ただ、以前は「known」の顧客は誰もわからず、不特定多数の「マス」向けの発信を重ねるマーケティングだったので、そこには連続性がありませんでした。しかしデジタルの登場で、「known」の顧客と長く付き合う新しいマーケティングスタイルがスタンダードになりました。点ではなく、線でのアプローチが前提となっているんです。それを支援するのが既存の代理店だけではなく、コンサルファームや我々のようなツールベンダーになってきている、と捉えています。
最重要課題は「組織の在り方」
――ベンダーが注目している潮流は、後々多くのマーケターに影響してくると思います。御社が現在注目しているキーワードは何でしょうか?
笹:前述のように、我々はCRMをベースにカスタマーサクセスを目指していますが、そこでの一番のポイントは、クライアント企業の組織の在り方です。デジタルトランスフォーメーションともいえますね。
点ではなく線で関係を構築していくためには、当然、一人の顧客に関して店舗やEC、サポートセンターなどあらゆる接点で情報が連携し、対応が一貫している必要があります。その実現には、組織の転換と、それで補えない部分はシステム連携を徹底することが不可欠です。付随して、その連携をモニターする部署、もしくは責任者の必要性も出てきます。それが今、カスタマーサクセス部やCRM部が生まれている理由です。
――「デジタルトランスフォーメーション」という言葉は言われて久しいですが、成功している企業ばかりではないようです。
笹:そうですね。デジタルトランスフォーメーションは、よくデジタルオプティマイゼーション(最適化/効率化)と混同されています。なぜか、デジタル=効率化という発想になりがちですが、今以上の顧客満足や継続的な関係構築に大事なのは、効率化の観点ではなく、新しい付加価値を生み出すための変革です。CRMやカスタマーサクセスの重要性が企業に認識されるのと同時に、それを実現するために組織をトランスフォームする必要性も増してくると思います。
我々もプラットフォームを提供する中で、技術的優位性だけでは、クライアントに十分に活用いただくのは難しいと実感しているので、カスタマージャーニーワークショップを提供したりしています。企業内で顧客からすべてを考える文化を醸成することに、今とても力を入れています。
ロイヤルティの上に購買を設計する
――ありがとうございました。最後に、ツールの発展も含めて変化の激しい状況の中、マーケターがプラットフォームを十分に活用するためのアドバイスをいただけますか?
笹:今、業種や業態を問わず、多くのマーケターがパーソナライズとリアルタイム性に注目されています。たとえば誕生日メールはパーソナライズしているともいえますが、いまどき、顧客のほうもそのような定型的なデジタル接客には飽き飽きしています。今後は、本当に一人ひとりを理解した上で、体験やコンテンツ、タイミングをパーソナライズし、満足度を高めることが必要でしょう。
施策自体は、ツールでかなりのことが実現可能になっているので、マーケターはほとんど制約なく戦略を立案できます。一方で、私自身「本当にたくさんのツールがあるんだな」と思いながらカオスマップを眺めることもありますが、あの中から最適なツールを選ぶのは大変でしょう。ですので、どのような施策を実行したいのかを軸に、メインのツールを選び、欠けている部分は他のツールを組み合わせて補うという考え方をするといいと思います。
「モノを売る」マーケティングを考えるところから、顧客に自社が関与する時間軸の中でロイヤルティを育み、その中でどのような商品やサービスなら買ってくれるのかを考えることに、マーケティングの役割は変わってくると思います。