【解説】競争力の源泉としてのダイバーシティ
「ダイバーシティはきれいごとではない」
インタビュー中に澤田氏から出た言葉です。ファミリーマートのダイバーシティ推進はこの言葉に集約されているように思います。
働き方改革や女性活躍推進、障害者雇用、LGBTQ(性的少数者)の人権など、複合的な要素を含んでいるダイバーシティ推進。社会正義の観点のみではなく、企業トップがビジネスを成長させるうえで不可欠な「経営課題」だと認識し、推進を実行している企業は稀有です。素直な表現をするならば、ダイバーシティに本気の企業は少ない。
調査からも、7割以上の日本企業が「ダイバーシティ」の重要性を認識しているのにもかかわらず、実際には3割ほどの企業しか推進をしていないという現状を示しています(出典:「働く人のダイバーシティに関する意識調査」アデコ株式会社)。
しかしファミリーマートでは、社長自ら「ダイバーシティへの取り組みは待ったなし」という認識を示し、スピード感を持って改革を進めています。
ダイバーシティ推進の4つのステージ
では、ファミリーマートが目指すところはどこなのでしょうか。一般化しやすいように、ダイバーシティ推進における4つのステージをご紹介します。

(出典:谷口真美 著『ダイバーシティ・マネジメント多様性を活かす組織』白桃書房)
①抵抗ステージ:違いを拒否し、違いによる反発を回避する傾向を持ち、現状維持の考え方が支配している段階
②防衛ステージ:既存の組織文化は温存したまま、多様な人材の数のみを増やすことを重視し、それを企業活動の活性化に活かすという発想に至っていない段階
③適応ステージ:多様な市場や顧客にアクセスするために、多様性は合理的であるとしてプラス効果を認め、違いを組織の活性化に積極的に活かす方向に考え始める段階
④戦略ステージ:多様性に価値を見出し、組織を変革し常に成長を支えるパワーとして活かされている段階。
ファミリーマートではダイバーシティ推進を本格的に始めて2年でその目的を「質の向上・競争優位」と定義しています。ファーストステップとして最も遅れていたという「女性活躍推進」にテーマを絞りながらも、その過程で④戦略ステージを見据え、ダイバーシティは実利に結びつくテーマだと強いメッセージを社内に発信したことが、推進を牽引しているはずです。
また、同業他社との比較も積極的に行い、社内調査も含め建設的なデータを示したことで①抵抗ステージにおける女性活躍などに対するアレルギー反応などの壁にも対処した様子がうかがえました。
世の流れや社会正義といった曖昧な理由で、ダイバーシティ推進を行った場合には、対症療法的施策として成果が得られず①抵抗ステージで悪循環を生じた可能性もあります。
ファミリーマートが2019年2月に開催した「ダイバーシティ・アワード」では、女性社員の視点を活かした店舗づくりや、多国籍な店舗スタッフへ文化・言語を共有する外国人SVによる指導を独自で行ったチームが優勝しています。「チーム力を上げ、すべてのステークホルダーに利益をもたらす取り組みである」というファミリーマートのダイバーシティの本質が伝わってきました。ファイナリストとして登壇したすべてのチームは、多様な視点を組織の活性化に活かした事例を紹介しており、③適応ステージを進んでいたことがうかがえます。
ダイバーシティ推進を支える3つのポイント
ここでファミリーマートのダイバーシティ推進のキーポイントを、3つに絞り考察してみたいと思います。
① 企業トップのコミットメント
ダイバーシティ推進に成功する企業は共通して、企業のトップがこのテーマに強くコミットしている点が挙げられます。2016年9月に代表取締役社長に就任した澤田氏が、社員女性比率・管理職女性比率の低さから「このままでは生き残れない」という強い危機感を持ち、ダイバーシティ推進を本格化しています。週1回行われる澤田氏と推進部とのミーティングを継続していることからも、その強いコミットメントの様子がうかがえます。
ダイバーシティ推進は、組織変革や社員に意識改革を迫ることであり、変革の中では痛みを伴います。トップも含めた経営層全体が強い意志でコミットメントしない限り継続した推進は難しいテーマです。
②公式な責務を負ったチーム
推進の結果を監視し説明責任を負う、正式な責務を負った部署や委員会の設置はダイバーシティ推進において大きな効果をもたらします。ハーバード大学のフランク・ドビン氏が分析した雇用統計によると、こうした部署や委員会を導入した企業では、女性や多様な人種の雇用者数に明らかな増加が見えられ、その有効性を示しています。
ファミリーマートは、2017年3月にダイバーシティ推進室を発足。戦略の策定はもちろんのこと、ダイバーシティ・アワードなど社内イベントの企画から、全国の26ディストリクトへのワークショップなど、明確な目標設定のもと推進の核を担っています。
また、澤田氏を委員長に、経営陣で委員を構成するダイバーシティ推進委員会の設置。2018年には全国各本部に「ダイバーシティ推進地区委員会」を立ち上げており、社員全員にその責務を認識させる取り組みを拡大しています。

テーマについてディスカッションを行った。(写真提供:ファミリーマート)
③データによる可視化
ダイバーシティ推進を妨げる大きな要因のひとつにバイアス(先入観)があります。好き嫌いといった主観や属人的な要因(バイアス)ではなく、客観的なデータに目を向けることは公正かつ冷静な判断につながります。
ファミリーマートは全社員が回答する「ダイバーシティ浸透度調査」を定期的に実施し、売上や各本部のKPIなどのデータと掛け合わせて分析を行い、見えづらいダイバーシティの効果を可視化する取り組みを始めています。また、「すべての結果を赤裸々に公開する」という方針から、結果の良し悪しに関わらずデータを公開しています。
ダイバーシティは能力主義と対立する概念として考えられている傾向があり、それを払拭するためにも、データによる可視化はダイバーシティ推進をドライブさせるトリガーとなります。
未来のコンビニに期待
コンビニエンスストアは私たちの生活にとても身近な存在です。小売店として社会の変化や消費者のニーズに応え、次々と新たな商品を打ち出しながら、ATM、宅配便の荷物の受け取り、公共料金の支払いなど幅広いサービスを提供しています。小売業でありつつも社会的なインフラであり、社会の鏡のような存在です。そんな存在だからこそ私たちもコンビニが気になりますし、話題にものぼります。
ダイバーシティ推進は長い道のりです。今回、おふたりの力強い言葉に耳を傾けながら、私自身も自分の子どもたちがお小遣いを握りしめて向かう未来のファミリーマートを想像し、胸を膨らませることのできたインタビューでした。(白石愛美)