企業の内部と外部における多様性
人手不足が深刻化する日本では、多様な人材を確保し、イノベーティブな組織をどのように生み出していくかが企業にとっての課題となっています。一方で、男女の役割分担、LGBTQに対する認識や対応、少子高齢化社会における世代間の軋轢など、多様なライフスタイル、ライフステージを持つ人々が、社会の中でどのように生活していくのかも論点となっています。
今回は、それらを考える際に重要な概念「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(包括)」にフォーカス。組織改革に取り組んできた丸井グループとヤフーの人事の責任者の対談を通じて、近年注目を集めているこの2つの概念について、あらためて考えてみたいと思います。また、最後のページに解説とまとめを掲載しました。ぜひ、そちらもご一読ください。
「中途のヤフー」と「新卒の丸井グループ」
白石:今回はダイバーシティとインクルージョンへの取り組みについてうかがいたいと思います。このテーマでは、経営層、人事、広報の果たす役割が大きいと言われていますので、人事の責任者であるおふたりに、いろいろおたずねしていきたいと思います。
湯川:ヤフーは元々インターネットのポータルサイトとして1996年に事業を開始し、今年で22年となりました。その間に事業領域を少しずつ変えています。最近ではECやモバイルペイメントに、かなり力点を置いてビジネスを展開しています。
私自身は、ヤフーに2003年に入社しました。前職も現在も人事を担当しており、主には労務系が中心で、色々な人事制度の企画をしています。本日は当社にお越しいただきましたが、オフィスは社員のモチベーションや生産性に大きく影響するものだと思っています。そうした環境も含めて取り組みを行っています。
石井:丸井グループは1931年に創業し、今年で87年となります。月賦の家具屋としてスタートし、月賦百貨店、クレジットへと事業を転換していきました。バブル崩壊と同時に事業全体が右肩下がりになっていく中で、小売については不動産型の商業施設に転換しました。
もう1つの柱である「クレジットで物を売る」ビジネスでは、ハウスカードを中心としたクレジットからグローバルカードに切り替えて、独自のビジネスモデルを持ったカードを展開しています。現在はエポスカードを中心にフィンテックに事業領域を拡大しています。
白石:ITと小売、まったく異なる業種ですが、両社は採用方針も大きく異なっていますよね。
湯川:ヤフーは最初の頃、ほぼ100%中途採用でした。ただ、会社が大きくなるにしたがって育成環境を整えることができましたので10年ほど前から新卒採用を増やしています。現在では、新卒と中途採用はおよそ半々。その中で、「ヤフーしか知らない社員」が増えてきていると感じています。転職してほしいという意味ではありませんが(笑)、同じ部署にいると考え方が凝り固まってくる。
社内では「社員の情熱と才能を解き放つ」ということをよく言っていますが、私の解釈では、いわゆるダイバーシティを表している言葉だと思っています。
そのために「ジョブチェンジ」という仕組みがあります。職種を超えて異動することもできますし、全社どこでも自由に異動することもできる。この制度を通じて、かなりの人数が異動しています。「あなたの才能は何ですか?」「どこで才能を発揮したいですか?」と社員に問いかけ、そのための環境を会社が用意する。人事用語で「アサイン」と言いますが、我々は「チョイス」と言っています。社員には自分で選択した上で、きちんと責任を果たして成長してほしいと考えているためです。
石井:丸井グループは逆に新卒採用を中心にやってきて、離職率が低い会社です。一時期、販売職の採用を拡大する際に中途採用を一部行いましたが、結果的に入ってくる人はみな小売の経験者なので、あまり大きな価値観の違いはありませんでした。その後は中途採用をやめて、ずっと新卒採用のみでやってきました。
その一方で職種変更を積極的に推進してきました。社員が「ここに行きたい」と自己申告し、会社側が調整してマッチングする。今のマッチング比率は約6~7割です。現在、フィンテック事業がグッと伸びている原動力は、元々クレジット業務をやっていた人たちの力もありますが、小売りからカード部門に異動した多くの人の力との融合でもあります。
またその傍ら、中途採用については現在、自社に合ったやり方を模索しています。小売業特有の文化が浸透している中に新しく入ってきた人たちが、どうすれば同じ理念を持ち、同じ方向を向いて仕事をしていけるかを考えているところです。