現場ではすでに多様化が進んでいた
白石:ファミリーマートが2016年9月にサークルKサンクスとの経営統合を果たし、目を配らなければならないことが山積みかと思います。その中でダイバーシティ推進に着手されたのはどのような課題感からだったのか。まずそこからおうかがいしたいと思います。
澤田:私はこれまでいろいろな会社を経てきましたが、ダイバーシティが企業経営においていかに重要かは身に染みて感じていました。2016年9月にファミリーマートの社長に就任した当初、意思決定の場が男性社員ばかりなことにとても違和感を覚え、会社の未来にとって「このままでいいはずがない、あるべき姿を真剣に考えていく必要がある」と考えたのです。そうとなれば待ったなしです。半年後には「ダイバーシティ推進室」を立ち上げました。
一方で、社内にはさまざまな考えを持っている人たちがいます。これまで男性が中心になって会社を成長させてきたのは事実であり、その企業文化を変えていくのは簡単ではないことはわかっていました。そのため、まずは会社のリーダーである私が中心となって取り組まねばならない重要課題だと強く認識し、推進組織を私の直下に置きました。そして推進室長の中村をはじめとするチームと一緒に改革をドライブさせていきました(2018年度より、ダイバーシティ推進部に改組)。
また、ファミリーマートに入って絶対にやりたいと思っていたのは「目に見えてわかる変化をもたらす」ということ。それが服装の自由化と本社移転です。服装の自由化に関しては「自ら考え行動する」という企業文化の醸成を促す狙いもありました。朝起きて、何も考えずにぼーっとスーツを着るのではなく、その日の予定や会う人を考えて服装を選ぶ。ジーンズ等のカジュアルもOKですし、ここぞという時にはスーツでビシっと決める。服装のみならず、“相手の目線に立って物事を考える”ということは、ビジネスにおいてとても大切だと思っています。また本社を池袋から田町へ移転したことをきっかけに、フロアの集約や座席のフリーアドレス化を図り、業務効率化とコミュニケーションの活性化を実現しました。
中村:服装といった視覚的にわかりやすい多様化を進めたことで、自主性を持って考えることが促されました。私たちはダイバーシティ浸透度調査というものを社内で行っているのですが、その結果を見ると、実際に自由化の直後の「会社はポジティブに変わっていると思いますか?」という設問で評価が上がっています。
白石:「ダイバーシティの推進が競争力になる」と認識している日本企業はまだ少ないと思うのですが、ファミリーマートはダイバーシティを「競争力」と定義しているところにその本気度を感じていました。
澤田:ファミリーマートの本部は確かにダイバーシティが遅れていました。でも、ありがたいことに現場ではすでにダイバーシティが進んでいたのです。店舗においては女性も男性も、若い人も年配の人も、外国籍の人もみんなイキイキと働いている。いかにモチベーション高く働いていただくかがとても重要で、多様な方たちが働き甲斐を持って活躍できる体制づくりはチェーンの競争力に直結すると考えています。通常の施策は本部から現場へという流れが主ですが、ダイバーシティに関してはむしろ現場発で本部にも浸透してきているという見方もできますね。
中村:澤田とは定期的なミーティングを行い、強力にコミットしてもらっています。ダイバーシティ推進の初年度である2017年度には、女性たちのマインドを変えていこうということで女性社員に集まってもらった時も、直接メッセージを伝えるだけでなく、彼女たちから出てくる質問にもその場で答えていただきました。それがダイバーシティを推進するうえで非常に大きな力となりました。
白石:「ダイバーシティを推進する」という企業は多いのですが、誰かリーダーを立てて、その人に任せて終わりというところが多いように感じています。
澤田:企業によって違いはありますが、組織がどう進むかは99.9%リーダー次第だと思っています。「決めて、実行して、結果に責任を持つ」というのが社長の仕事。だから自戒を込めて「この会社は俺次第」と社員には言っています。偉そうにしているわけじゃなくて、組織のリーダーはそうあるべきで、人の何倍も働かなければいけない。それができなかったらポジションから外れる。ダイバーシティ推進も同じでシンプルです。数字って本当に大事で、みんなを幸せにするためには精神的価値と経済的価値の両方が必要。そこには目一杯こだわりたいし、そのためには鬼にもなります(笑)。