本書をきっかけに問い直すことで、大きな可能性が見つかる
――多くの読者が共感しているのは、福田さんご自身が多くの課題や困難を解決しようと試行錯誤を繰り返し、奮闘されてきたからではないでしょうか。
福田:そうですね。第1部では、あえてストーリー仕立てで自分の体験を紹介することにしたのですが、皆さんの感想を拝見すると、仕事のやり方だけではなく、キャリアも含めて「自分もいろんなことに取り組みながらも迷っている」という感想が非常に多かった。
私自身も未経験のところからスタートし、試行錯誤しました。洗練されたプロセスと見られがちな「THE MODEL」のようなプロセスも最初からそうだったわけではないということを理解してもらえればと思います。新しいものを作り上げる過程でキャリアも成長していく。もちろん、本書では言及しなかった大変だったこと、苦労したことは山のようにあります(笑)。
――そういう時期を福田さんはどのように乗り切ったのですか?
福田:新しい取り組みがすぐに理解されるとは限りません。自分がやっていることを信じながらも、結果が出なければ批判を甘んじて受けるしかない。とにかく結果で証明するしかないと思って仕事をしていましたね。
――本書を読んで自社でも実践しようと考えている方は多いと思います。何かアドバイスはありますか?
福田:本書の反響を通して、まだ営業が「足で稼ぐこと」が中心にあり、営業担当者が抱えているいくつもの役割をどのように効率的に機能させていくかという発想に至っていない現状があるように感じました。もし皆さんの企業がそうした状況であるなら、逆に大きな成長の可能性があると思います。
会社によっては1社に1人の営業担当がついて商談、販売、サポート、あるいはそもそもリード獲得まで何でもこなすことが前提となっている場合もあるでしょう。ですが、顧客が求めることは様々で、1人の営業担当がすべて完璧にこなすのは現実的ではありません。自社の組織から考えるのではなく、顧客からどういう役割を求められているのかを理解し、それを誰が担当するのがよいのかを顧客視点で考えてみてもらいたいですね。そうすれば自社に必要なプロセスが見えてくると思います。
本書では主に第2部「分業から共業へ」でそうした内容をまとめているので、組織のあり方から見直すきっかけにしていただければと思います。今までこうやってきた、という理由のない伝統に疑問を投げかけ、脱却していくことがポイントです。
――今の営業の仕組みでうまくいっているように思えても、もっといい方法があるかもしれない。そこに疑問を持てるようになる本だとも言えますね。
福田:私自身、「なぜ今こうなっているのか」という疑問を持つことを大切にしています。会社で行われている業務プロセスには「今までそうしてきたから」というだけで実行されていることが山ほどある。そこへ「なぜそうやっているのか」という質問を投げかけると改善点が見えてくることはよくあります。そもそも、世の中は変化をし続けて顧客自身が企業より早いスピードで変化していきます。本書でもマーケティングや営業のやり方が変わった理由として、顧客をとりまくテクノロジーの変化を挙げていますが、そのような視点を忘れずに改善に取り組んでほしいですね。
本書『THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』の内容を抜粋して紹介した「顧客の行動が変わり、ビジネスも変わった 『THE MODEL』で語られる新しいプロセスとは」もおすすめです。
頂点を降りて、次の波に乗れるかどうか
――福田さんは本書を書き下ろした今、次に向けてどのようにお考えですか?
福田:本書で紹介した形のプロセスは、いつどんな時代でも通用するものではなく、どんどん最適な形は変わっていくはずです。今の成功体験にとらわれていると途端に立ち行かなくなります。
世の中には常に新しい波が起き続けます。今が波の頂点のビジネスはこれから落ちていってしまうわけですが、同時に別の新しい波が下から立ち上がりつつある。ビジネスの世界は一本線の波形ではなく、いくつもの波形が重なって時代が進んでいきます。自分が頂点にいるとき、頂点を降りて下にある次の波に乗れるかどうか。それができる人や企業が新しい時代を作っていくのだと思います。
――絶頂期にあるのに自分から進んで降りるというのは勇気がいることですよね。ただ、日本ではそれができなかった企業が多かったのではという印象があります。企業の時価総額ランキングを見ると、バブルの頃は日本企業が多くを占めていたのに、今やアメリカと中国の企業で占められています。そうした危機感を持つ方も本書を手に取られているようです。
福田:先日、大阪で自社イベントを開催したとき、立命館大学の鳥山正博先生に講演していただいたのですが、例として「長篠の戦い」を紹介されていました。鉄砲が登場するまでの合戦では歩兵や騎馬兵、弓兵が戦力の中心でそれに合わせた陣形が採用されていた。ですが鉄砲が加わるとそれを使いこなせる人材を育てる必要があり、しかも合戦では鉄砲隊が前に出る陣形を新たに作らなければなりません。テクノロジーの活用は人の能力を拡張させるうえで重要ですが、テクノロジーを導入するとオペレーションも必然的に変わらざるをえない。
そう考えると、たとえばマーケティングオートメーションやカスタマーサクセスといった機能・部署を導入するなら、組織や人員配置まで変更しなければならないことがある。今後も新しいテクノロジーが登場してくる際には、こうした視点が重要になると思います。
――本書の「おわりに」にあった「ツールビルダーとしての人間」の話も興味深かったですが、テクノロジーやツールの導入を根本から考え直す時期に来ているのかもしれませんね。
福田:プロ野球選手がバットの1グラムの違いを気にかけたり、プロゴルファーがクラブの1ミリメートルの違いを調整したりするプロ意識を称賛する人は多い。私も同じです。そしてその姿勢はITツールでも同じではないでしょうか。道具は大切で、こだわるべきものだと私は考えています。
――ありがとうございます。これからも本書がどこまで広がっていくのか、楽しみにしたいと思います。
4月5日に出版記念イベントを開催します!
『THE MODEL』の出版記念イベント(参加費無料)を4月5日(金)18:30から、渋谷にあるTOKYO BOOK LABにて開催します。第1部は著者である福田康隆氏の基調講演、第2部は50社を超える日本のSaaS/Cloudベンチャーへの投資実績を持つ倉林 陽氏とのパネルディスカッションです。申し込み締切は3月31日(日)まで。皆さまのご参加、お待ちしています!
▼参加申し込みはこちらから!
https://markezine.jp/application/14/