カスタマーエクスペリエンスを経営成果につなげる
そんな同社のビッグデータ戦略とはどのようなものか。稲田氏は「ANAグループが持つデータはもとより、サードパーティーデータを組み合わせ、同社の提携パートナーとリレーションを築きつつ、ビッグデータを活用する基盤を作りたいと考えています」と述べる。
「そのためには、顧客とコミュニケーションするタッチポイントが重要になります。そこでオウンドメディアのほか、空港や機内、金融サービスなども含めてあらゆる場でタッチポイントを作っていく構えです。そういう経済圏を作り上げることで、プラットフォーマーとしての存在感を確立し、マッチングなど新たなビジネスの芽を伸ばしていきます」(稲田氏)

こうした新しいビジネスにおいて重要な役目を担うのが、カスタマーエクスペリエンスだ。通常新規顧客を獲得するには、営業や価格戦略、広告を通じて訴求していくが、ここに「カスタマーエクスペリエンス」という軸を用いて、航空機への搭乗やサービスの利用を促す。良い体験を提供することで、新規顧客を獲得していく。「これは営業とマーケティングの融合です」と稲田氏はいう。
もちろん、新規顧客を獲得するには相応のコストがかかるが、良質な体験を繰り返し提供することで、獲得した新規顧客が徐々にリピーターになり、マイレージクラブの会員になるといった良い変化が生まれる。そのため新規顧客を獲得したら、しっかりとエンゲージしてロイヤリティを高めるために、さらにカスタマーエクスペリエンスの充実を図る必要がある。
「カスタマーエクスペリエンスは、顧客満足度を上げるだけのものではありません。企業の経営者であるなら、その成果が経営に良い影響を与えるよう、満足度向上だけでなく、LTV向上のために戦略を考えることが必要です」(稲田氏)
2019年に組織が改変、デジタル部門が参入
そんなANA Xだが、2019年の4月からは組織自体が大きく変わる。具体的には、これまで全日空で宣伝やWeb戦略を担ってきた「マーケティングコミュニケーション部」のデジタル部門が加わり、よりデジタル面が強化される形となる。
ビジネス環境の変化に対応するため、新しいやり方やビジネスモデルを模索している企業も増えているが、大企業であればあるほど新しいことに着手するには時間がかかる。ANA Xの場合、トップの理解やタイミングなどが合い、この2年間強で新しい取り組みを続けてきた。
最後に稲田氏は「新しい事業やビジネスモデルがなかなか理解されず、正直あきらめかけたこともありましたが、粘り強く続けていたおかげで、分社化や今回の組織改編などとして実りました。顧客との関係を新たに築き、ビジネスを変革したい方は、良い仲間を巻き込み、挑戦し続けることが未来への一歩につながると思います」と語った。