変わる航空業界のビジネスモデル
ANA X(エーエヌエー・エックス)は、全日本空輸(以下、ANA)グループ全体の顧客マーケティングを担う会社として、2016年10月に設立された。搭乗データに加えて、「ANAマイレージクラブ」や「ANAカード」などで得た「顧客データ」を活用した提携ビジネスの開発・運営、またこれらビッグデータを活用したデータベースマーケティングを事業として展開している。
MarkeZine Day 2019 Springに登壇したANA X 代表取締役社長の稲田剛氏は、セッション冒頭、「近年、航空業界は『航空券を売る』という事業形態から、『様々なAncillary(付帯事業)とともに、航空券を販売していく』というビジネスモデルに変化してきています」と話す。
旅行業界に特化した専門調査会社IdeaWorksCompanyによると、2016年における世界の航空会社における事業収入のうち、付帯業務の売上は9.1%を占める。2010年当時は4.8%であるため、6年間で1.9倍も伸びたことになる。
たとえば米国大手の航空会社の場合、付帯業務の中で最も大きな売上を占めているのは、航空会社ブランドのクレジットカードを起点としたFFP(Frequent Flyer Program)といわれるものだ。いわゆるマイレージサービスのことで、これが売上の55%となっている。Wi-Fiサービスや飲食などのサービスが15%、そしてホテルやレンタカー、旅行保険など旅行関連事業が5%、その他25%という内訳だ。
従来、航空会社ではマイレージサービスを「航空券を売るための販促ツール」と捉えていた。「つまりはコストセンターという認識です」と稲田氏は振り返る。
「ところが近年、このマイレージプログラムがプロフィットセンター化してきています。実際、独ルフトハンザ社では、マイレージサービス事業を2014年に社内分社化してMiles & More社を立ち上げていますし、カンタス航空は2008年にカンパニー制を敷いてマイレージサービスを運営しています。私どももこうした変化を踏まえ、独ルフトハンザ社を参考に2016年10月にANA Xを設立し、同12月に事業を開始しました」(稲田氏)
ANAが築いてきた60年にわたる無形資産を活用する
会社設立に当たり、稲田氏が意識したのは、これまでANAが培ってきた「無形資産」を活用することだった。無形資産とはすなわち「ANAマイレージクラブ」のことで、ここに新しいビジネスのチャンスが潜んでいると考えた。
その根拠となるのが、3,270万人からなるANAマイレージクラブの会員数であり、ANAグループで運営している510億円のコマース事業であり、トラベルやライフスタイル、金融サービスなど3,700社におよぶパートナー企業の存在だ。マイルが貯まるスーパーやドラッグストア、コンビニなどの加盟店は、現在2万店以上に上る。またマイル提携をしている航空会社は、スターアライアンスに参加している企業以外で、アリタリア航空やフィリピン航空など40社だ。60年以上にわたって築いてきたプログラムだからこそ、こうした無形資産があり、これを生かしていくことでビジネスを伸ばしていくわけだ。