仮説思考でデータを活用
西井:先ほど、コーディネートはユーザーのカルテを参考にしているとうかがいましたが、他には、どのような場面でデータを活用しているのでしょうか。
天沼:商品管理から顧客管理まで、すべてデータに基づいて行っています。
たとえば、現在所有している洋服は10数万着ありますが、1着ずつ個品管理しています。一般的なアパレル販売の場合、1つのIDで同一商品の管理ができるのですが、私たちの場合は、服ごとの状態やレンタル履歴を把握するため、すべてにIDの発行が必要になるのです。これは、在庫効率の観点でもかなり重要です。
また、レンタルする服はすべてサイズを測り直し、「airCloset」独自のサイズとして管理しています。アパレルって、同じMサイズでもブランドごとに大きさが微妙に違っているのが当たり前になっていますが、これはお客様にとってネガティブな経験になると考えているからです。
西井:想像以上のデータ量ですね。さらに、コーディネートデータやお客様からのフィードバックデータもある。
天沼:それら数百万レコードのデータは、様々な切り口で活用しています。新規のお客様とスタイリストのマッチングには、過去の実績データが参考になりますし、洋服の仕入れにも活用していますね。お客様のサイズやファッションの分布を予測して、「今年の夏はVネックの白いカットソーを全体の何%用意しておくべきか」と、システムで算出するのです。
解約率や継続率を改善する取り組みも、データに基づいています。フィードバックの文字数やタイミング、アイテム紹介ページのアクセス数など、お客様の興味や行動を知るデータ収集の仕組みは、今後も細かく設計したいと考えています。
とはいえ、私たちが扱うのは「服」ですから、システマティックにできない領域はありますし、クリーニングや服の状態チェックなど、メンテナンスも必要です。データが何かを教えてくれるわけではありません。データを見る目的と意味を明確にした上で、そこから想像してアクションを起こす。仮説思考でデータを用いることを意識しています。
「良い体験をどれだけ多く提供できるか」が価値につながる
西井:サブスクリプションモデルについて、「定額制なので、休眠顧客も収益になる」という声がしばしば聞かれますよね。しかし私は、サービス利用率はできるだけ高めたほうが良いと考えていいます。
天沼:そうですね。エアークローゼットが提供する価値は、服そのものではなく、ファッションと出会う「体験」です。その体験を多くしてもらうほど、顧客満足度が高まり、サービスの価値が上がると考えています。休眠顧客への意識は、旧来の定期購買と大きく違う点です。
ですから、利用頻度が低いお客様にはもっと使っていただけるように働きかけています。私たちが届けたい体験とお客様が手に入れたい価値、そして利益。これらが一致すればするほど、サービスとして高い価値を持つようになると考えています。
西井:顧客体験が利益に影響するのが、サブスクリプションモデルですよね。サービスがまったく利用されていないというのは、体験としてまったく良くないですし、使われずに解約されるようでは、サービスを見直したほうがいい。
逆に、日ごろから良い体験を届けているとお客様との関係性が保たれ、たとえ一時的に利用しない時期があっても、戻ってきてくれます。そのためにも、サービスの利用率は高めていくべきです 。