広報とは「機会の最大化」と「リスクの最小化」
2019年4月17日、スタートアップの広報担当者向けイベント「スタートアップの広報戦略~プレスリリース配信の次、何したらイイですか?~」が開催された。
Sansanの日比谷 尚武氏がモデレーターを務め、ストライプインターナショナルの石渡 佑矢氏、メルカリの矢嶋 聡氏、スマートニュースの谷本 尚子氏が登壇。スタートアップの広報に加え、マーケティングの経験もある4名が、戦略的な広報活動について議論を交わした。
セッションではじめに取り上げられたのは、「スタートアップ・小規模企業における広報の役割」について。矢嶋氏は、広報のもつ力として、工夫次第でレバレッジを効かせられることを挙げた。
広告は基本的に投下したボリュームの分だけ効果が積み上がっていく。一方広報は外部メディアの活用やソーシャルの巻き込みによって、少ない投資で大きな効果を挙げることができる。広報は、リソースの少ないスタートアップを成長させる起爆材となり得るのだ。
その上で矢嶋氏は、広報の役割を「機会の最大化」と「リスクの最小化」の2つと定義した。
機会の最大化については、メルカリの社長である小泉氏の「スタートアップ広報に必要なのは、採用か事業成長の2つしかない」という言葉を紹介。あれもこれもと手を広げ過ぎるより、資源を集中させるべきだと語った。
リスクの最小化は、コンプライアンスや社員の不祥事といった事態を未然に防ぐとともに、起きてしまった事態の損失を最小限にとどめられるようにすることだ。身体の半分が自社の「外」に向いている広報が担うべき、大切な役割だという。
谷本氏も、特にスタートアップの広報がもつべき「半分外の視点」について、次のように語った。
「皆が同じ方を向いているというのがスタートアップの良さですが、ときには皆で良くない方向へ進んでしまうこともあります。広報は社内のブレーキ役になるとともに、コンダクターのような役割も担う必要があります」(谷本氏)
谷本氏が意識しているのは、プロジェクトを進める上で欠かせない基本的な視点や考え方を、メンバーに正しく伝えることだ。具体的には、最初にメンバー間で「このプロジェクトはそもそも何のためにやるのか。誰のためにやり、対象の顧客は楽しいのか。何が目標なのか」という共通認識を作っておくことが大切になる。
その際に広報は、俯瞰した視点や外からの視点を意識し、メンバー間でのやり取りを調整していく必要がある。さらに、プロジェクトに関する視点や考え方を、メンバーだけでなく社内全体、そして社外に伝えていくことが求められるのだ。
他部門との関係構築は「広報に期待すること」のヒアリングから
次に議論されたのは、社内の他部門と連携を進めていく方法だ。スタートアップにおいてしばしば起こる問題として、広報の目的や意義を理解する文化が社内にないため他部門との関係が適切に築けず、せっかく広報機能を立ち上げても成果につながらないことがある。
石渡氏にも、「他の部門から情報が来ない」という悩みが寄せられることが多いそうだ。しかし基本的には「情報は来ないもの」と考え、仮説をもって広報側からヒアリングや情報収集を行うことが必要だという。
「新しいブランドが立ち上がるときに、ブランドマネージャーに話を聞くだけでは不十分。様々な立場の人から100の情報を仕入れた上で、そのエッセンスを10くらいに凝縮して、リリースにするというイメージです」(石渡氏)
加えて石渡氏は、基本的な知識は自分で習得しなければいけないと前置きした上で、「自分が疑問に思うことは、記者や編集者も必ず疑問に思うところ。わからないところはどんどん聞くと良い」とアドバイスした。
また、広報の立ち上げ期に担当者として着任した場合は、社内の他部門との関係性をゼロから作っていかなければならない。矢嶋氏は、メルカリ入社時と、メルペイの立ち上げ時に、まず主要な部門へヒアリングを行ったそうだ。
「彼らが困っていることは何か、広報に期待することは何かを聞いて、それを解決してあげる。そうすれば『広報に相談すれば解決してくれる』という信頼関係が生まれ、相談されたり、情報が入ってきたりすることが増え、戦略を立てられるのです」(矢嶋氏)
広報は単独で成立し得ない部門だからこそ、社内でのプレゼンスを上げていくことが欠かせない。さらに、経営課題を理解しないまま動いてしまうと、メディアへの露出を積み上げても企業利益につながらず、評価されないという事態が起きてしまう可能性もある。そのため社内全体での情報収集はもちろん、経営陣が考えていることを理解する重要性も強調された。