因果関係(インクリメンタリティ)からKPIを設計するリクルート
中村:まずはセッションのはじめに、テーマである「インクリメンタリティ計測」についてお話しましょう。これまでの広告計測は、広告の相関関係に基づくラストクリックモデルが使われてきましたが、「最後にクリックした広告だけが広告価値なのか?」と、長らく疑問視されています。対して「インクリメンタリティ計測」は、広告を起因としてもたらされたビジネス成果の純増分を計測する方法で、たとえばリフト調査で判断する計測方法です。
では、金井さん。リクルートは、様々な広告効果計測の研究を行われてきたそうで、アクション数をKPIとするラストクリックモデルにせず、アクションに因果する数値をKPIに設定したと伺いました。その理由を教えてください。
金井:リクルートの各事業のマーケティング責任者は、コスト負荷の高い広告宣伝費の効率化と、ビジネスを成長し続ける予算アロケーションを重視しています。しかし、ラストクリックのみに注力すると、刈り取りばかりで対象顧客量が小さくなり、新規の顧客獲得ができません。そこで、拡散と集約の双方を繰り返す為にも、リードとアクションの因果関係を重視したのです。リクルートではテレビCMなどのオフライン広告も活用したリードジェネレーションと、デジタルを中心としたリードナーチャリングの2つのマーケティングコミュニケーションを設計し、この中間の取り組みをつなげるKPI開発を行っています。
具体的には、アクション数とそれに因果するKPIを設計し、柔軟な予算アロケーションの実行とともに、総合的なアクション数の最大化とCPA効率化に向き合い、広告予算の最適化に取り組んでいます。過去からも、因果関係を見つけるためにいろいろと分析・研究はしてきました。サーベイも活用しますが、やはりログをベースにして、ファクトがどう動いているかにこだわってモデルを構築したり、KPI開発を行っています。
杉浦:オフラインとオンライン予算のアロケーション、そしてアッパーファネルのKPI設計は、奥深い課題です。しかし、金井さんがお話した通り、アクションの因果を証明したKPIが唯一、本質だと思います。
インクリメンタリティ計測の基本的な設計
中村:続いて杉浦さんに、インクリメンタリティの計測方法について伺います。電通デジタルでは、「True Lift ModelTM」を提唱されています。どのようなモデルですか?
杉浦:まず、インクリメンタリティ計測の基本的な設計をお話します。インクリメンタリティ計測では、ターゲットの母集団を、広告表示する実験群と広告非表示の対照群(コントロールグループ)に分け、コンバージョンを比較し、効果の増分の差であるリフトを算出します。このときのポイントは、信頼に足る結果を得るため、実験群と対照群、それぞれのグループに所属する人々の差を極小化することです。そのために実験群と対照群はユーザー属性や他メディア接触機会、シーズナリティなどが同じ条件の母集団から、ランダムで分ける必要があります。
私たちの「True Lift ModelTM」は、オンライン上のコンバージョンはもちろん、位置情報を用いた来店コンバージョンや購買もすべて、リフトで計測するモデルです。行動で証明することがビジネスの成果であると強く信じ、高い精度で取り組もうと試みています。
杉浦:ある自動車メーカーの事例をご紹介しましょう。ターゲットを、店舗来店者をリターゲティングしたローワーファネルと、これから車を購入しそうな新婚・結婚検討層というミドルファネルに分け、広告を配信しました。