対面セールスの限界が来る前に、非対面の仕組みを構築すべき
SATORIは、国産のマーケティングオートメーションツール(以下、MAツール)「SATORI」を約500社へ導入した実績をもつ。同社のマーケティンググループ グループ長の豊川瑠子氏も、「SATORI」を活用したリード獲得、商談の創出を担当するマーケターの一人だ。
「マーケ経験ゼロの担当者が3年で年間2,000商談創出を実現した仕組み~少ないリソースでもMAツール活用で営業効率の仕組みを構築した事例~」と題された本セッションでは、同社における様々な実践例が明かされた。
セッションの冒頭で豊川氏は、MAツールを「非対面で見込み客を開拓する仕組み」と定義した。非対面セールスとは、その名の通り顧客に会わずして行うセールスのこと。デジタル化にともない、顧客は情報収集から比較検討、資料ダウンロードなど、商談前のアクションすべてをオンラインで完結させるようになった。この非対面下で行われる見込み客との関係構築を、MAツールで仕組み化し、商談化の効率を高めようというわけだ。
とはいえ、Webサイトへのアクセスのうち97%は自社に個人情報を明かしてくれていない匿名状態の見込み客である(同社調べ)。匿名状態の見込み客を開拓するのはハードルが高そうだが、豊川氏は、「MAの技術を活用すれば、効率的かつ効果的な非対面コミュニケーションを実現することが可能です」と強調し、その技術である“顧客データベース”と“コミュニケーション機能”について説明した。
データベースは、サービスサイトを軸とした関連ページへのアクセスや行動履歴から構築する。実名の顧客管理はもちろんのこと、匿名であっても「事例ページを7日間に3回閲覧した」かつ「料金表を5日間に2回閲覧した」といったWeb上の行動条件に応じてグルーピングすることができる。このデータベースを用いて、Webサイト上でのポップアップやプッシュ通知といった非対面コミュニケーションによるアプローチが可能となる。
さらに、資料ダウンロードなどを通じて個人情報を取得することができれば、メルマガや電話といったように打ち手は増える。「対面セールスの限界が来る前に、非対面セールスの仕組みを構築しましょう」と豊川氏は呼びかけた。
導入はあくまでスタート 成果につながるMAツール運用例とは
続いて豊川氏が言及したのは、新任のマーケティング担当者がぶつかる壁について。BtoB領域のマーケターには、営業との綿密な連携が求められ、業務も多岐に渡る。特に新任のマーケターは、ブログ更新やホワイトペーパーの作成、場合によってはアポイント獲得の電話や顧客フォローといった、目の前の業務に追われがちだ。
そのような状況下では、“マーケティングオートメーション”という言葉をそのまま捉えた、「MAツールを導入しさえすれば、業務が自動化されて楽になるのではないか」というイメージが先行しがちだという。
しかし、MAツールは導入するだけで成果が上がるものではなく、適切な運用によって初めて成果が出る。豊川氏はそのヒントとして、同社で実践している様々な取り組みを紹介した。
まず豊川氏は、商談までのフローを「リード獲得」「リード育成・抽出」「商談化・追客」の3つに分類。そして、スタート地点の「リード獲得」フェーズでは、見込み客の母集団を増やすことを挙げた。
「これまでのセールスは、契約に近い“今すぐ客”に注力していました。しかしMAツールでは、見込み客の大半を占める“そのうち客”、つまりすぐには買わないお客様を集客し、“今すぐ客”へナーチャリングすることができます。まずは、97%の匿名見込み客を、どのように実名に転換させるか考えましょう」(豊川氏)
オンライン施策として紹介されたのは、コンテンツマーケティングだ。同社では、ターゲットであるマーケターの課題を考え、SEO対策も兼ねたブログ「SATORIマーケティングブログ」を運営し、“そのうち客”が情報検索をするときの受け皿を作ったという。
その上で、匿名見込み客の実名転換施策として、ダウンロード時に個人情報の入力が必要な、マーケティングノウハウをまとめた資料を用意。MAツールを用いて、ブログ記事を高い頻度で閲覧するユーザーに対し、ポップアップまたはリターゲティングで資料のダウンロードを訴求した。
イベント開催&コンテンツ作成でコストを抑えるコツ
一方、同社ではオフライン施策として、複数の企業と一緒に展示会やセミナーを開催している。「単独開催よりも、事業の親和性が高い企業との共同開催であれば、“そのうち客”に接触しやすく、コストも抑えられる」と豊川氏。
また、展示会で配布するノベルティについて考え方のポイントは「展示会に来場する見込み客が、どのような情報を求めているかを考えたもの」であるとし、具体的には「トレンド」や「ノウハウ」をまとめたコンテンツだと紹介した。これらは必ずしも一から作成する必要はなく、ブログや外部掲載記事の二次利用でリソースを節約できる。
たとえば、ブログの人気記事を複数ピックアップしてまとめたり、メディアの取材記事の二次利用許可をとったりすることで、ホワイトペーパーを作成できる。これらはWebサイト上のダウンロードコンテンツとしても活用できるので、コンテンツ制作の効率化にもつながる。
加えて豊川氏は、リード獲得フェーズの参考として“そのうち客”の見つけ方も説明した。同社のターゲットは既にMAツールに興味をもつ顕在層だが、Web担当者やマーケターも“そのうち客”と広く定義している。その上で、“そのうち客”層の閲覧が多いWebメディアに記事広告を掲載。計測タグを設置し、記事を読んだ匿名見込み客のデータを蓄積して広告配信を行うことで、“そのうち客”に接触してきたそうだ。
マーケ部門主導のセミナー企画で見込み客との接触機会を11倍に
続いて「リード育成・抽出」のフェーズでは、セミナー開催が重要な施策となる。
同社では顧客の興味関心度に合わせた情報を伝えるため、大きく分けて二種類のセミナーを企画している。一つ目が“そのうち客”を対象とした複数のマーケティング手法が聞ける共催セミナー、二つ目が“今すぐ客”を対象とした自社単独セミナーである。
「営業担当者一人でアプローチできるお客様数は限られます。接触すべき見込み客の優先順位を考えたときに、“そのうち客”に時間を割くのは非現実的です。そこで当社では、マーケティング部門がMAツールの必要性や活用事例を紹介する“そのうち客”を対象にしたセミナーを主導しました。これにより、営業担当者が単独で活動するよりも、年間で約11倍も見込み客と接触し、MAに対する興味喚起を行うことができました」(豊川氏)
BtoB企業のマーケティング施策として有効だといわれる展示会でも、接触した見込み客のフォローを行う際、MAツールが活躍する。MAツールを活用してイベント後に御礼フォローメールを即時配信することで、商談獲得に大きく貢献すると豊川氏は述べる。
仕組みはとてもシンプルで、イベントなどで得た新規見込み客情報をMAツールに登録すると、自動で詳細資料を添付したお礼メールが送信されるように設定する。この施策は特に、対面で接触した“今すぐ客”と接点があったときに効果的だ。
「大きな展示会であればあるほど、お客様は多くのメールを受信されます。MAツールを活用して即時フォローメールを配信すれば、他出展企業の御礼メールに埋まることなく、忘れられないうちにアプローチが可能です。また、電話でフォローを行う場合には、“メールで連絡している”ことを会話のきっかけにできるためコールもしやすくなります」(豊川氏)
同社の場合、展示会によって変動はあるものの、本人接続からの商談化率が最低でも5.6%ほど見込めるという。そのため、名刺情報が300件であれば15件前後は商談につながるといった“読み”を立てることもできるのだ。
確度の高い顧客はキラーコンテンツであぶり出す
さらに豊川氏は、MAツールの行動履歴データを基にした非対面セールスのポイントとして、キラーコンテンツの設計を挙げた。
キラーコンテンツとは購買意欲が高い見込み客が閲覧するページのことで、同社の場合は“他社との比較”がそれにあたる。これをキラーコンテンツと決定した理由は、「契約した顧客が、検討時に必要とした資料が比較表であった」という営業のフィードバックだという。
「当社では、キラーコンテンツ閲覧の有無で、アポイント獲得の確率がおよそ8倍も変わってきます。そのため、キラーコンテンツを閲覧した見込み客が発生したら、都度インサイドセールス担当へ自動で通知が届くようシナリオを設定しています」(豊川氏)
またMAツールの標準機能である、IPアドレスからアクセス元の企業を判別する履歴機能も役に立つ。これを基に新規開拓先のリストを作成することもできるという。
電話に出てくれない“今すぐ客”へのフォローもMAツールで実現
「商談化・追客」フェーズで行うべき施策は、コールで接続できなかった時のフォローメール送付だ。インサイドセールス担当者は、Webサイトから製品に関する資料請求やお問い合わせのアクションがあると、ホットな見込み客とみなして架電する。しかし、電話をしても通話できずに悩む担当者も多い。
同社では、3回コールしても見込み客と接続できない場合、自動でフォローのメールを送付するシナリオを設計している。この仕組みの実施結果を1ヵ月集計した結果、問い合わせ返信が17件、商談化9件、受注2件が生まれたという。
「電話がつながらなくても、ホットなリードにはスピーディなフォローが必要。これをやらないのは機会損失です」(豊川氏)
この施策の応用として、営業担当者にとって有益なシナリオ設計もできる。担当する案件が多いと、案件のフォローアップをつい忘れてしまうこともあり得る。このようなときでも、MAツールで「商談1ヵ月後のフォロータイミングに自身へ通知メールを送信する」というシナリオを設定しておけば、商談後の失注率改善にも役立てることができるという。
小さなステップで成功を重ねていくことが鍵
ここまで、自身の実体験から、少ないリソースでもMAツール活用で継続的に案件を創出するためのノウハウを共有してきた豊川氏。最後に、そのポイントを次のように話した。
「成功のために重要なことは三つあります。まず、マーケティングで達成したい目的が明確であること。次に、どの課題から着手すべきか優先順位を考えること。MAツールは先行投資であり、導入する際には社内の理解が得られにくい場合も多いため、なるべく短期間で小さな成功を重ねることがポイントです。そして、ツール費用だけでなく、コンテンツ制作費やセミナー開催費用など、施策実施のための予算確保・最適化を考えることも大切です」(豊川氏)
「SATORI」の特長は、個人情報が特定できている実名状態の見込み客に加え、匿名状態の見込み客に対しても、ツールでデータベースを持ち、コミュニケーションのための手段を兼ね備えている点だ。サポート体制も手厚く、ユーザー会や利活用資料といったコンテンツも充実しており、ただ導入しただけではなく“運用を成功させる”ための支援体制が整っている。
豊川氏は「本日のセッションが、皆様のマーケティング営業活動を成功させるためのヒントになれば嬉しいです」と述べ、セッションを締めくくった。