リブラのエコシステム
リブラの発行組織(リブラ協会:在スイス)には現在29社が出資しており、「Mastercard」「Visa」「PayPal」「eBay」「Lyft」「Uber」「Spotify」「Vodafone」「Coinbase」「Kiva」等、名だたるテクノロジー、フィンテック系の会社が揃う。逆に旧大手銀行の名前はない。他にも「Andreessen Horowitz」を含む有名な大御所VCが5社も含まれている。ハイリスク・ハイリターンを期待しているはずのVCが、この「非営利組織」という名目の多国間組織に出資しているのだ。
「非営利組織」という日本語は、日本では「利益を上げない」という短絡的な誤解を生んでしまっているが、その財務的な意味は「株主配当を行わない(未来への価値に繰り越す)」という意味である。よって、VCを含む各社の投資は、直接的な「金儲けのリターン」を期待していない出資である。では真の狙いは何か。
リブラは「Facebook」や「信用ある発行組織」が価値を管理する、中央集権型の通貨だ。リブラはFacebookやメッセンジャーのアカウントに紐付く全世界約24億人のアカウント(水増しされた架空アカウントを含めて)を経由して利用するため、始動からこの規模の潜在利用者が世界中に存在することになる。
リブラには中央集権の管理による「実態価値」を保証する目的があり、その安定化のために「リザーブ」「バスケット」による管理を行う。一見美しい配慮に思えるが、コンセプトとして「第三者を必要としない」仮想通貨のロマンから遠のき、企業経営による中央管理になる。企業一社による「JP Morgan銀行のJPM Coin」や「三菱UFJ・Fグループ(MUFG)のMUFGコイン」を超えた代替通貨になりうる。

第二、第三のリブラは登場するか
現在米国の規制当局や国会が既に、開発に「待った」を発令している。このままでは既存の銀行送金が使われなくなるどころか、世界の銀行業界やドルの基軸性(決済性、備蓄性)を壊してしまうことは容易に想像できる。この動きが旧銀行や金融・財界にとって「寝耳に水」であったとはまず考えられない。
これまで通貨の運営は国権の根幹と信じられており、それを揺るがす民間企業グループによる通貨発行は強く禁止されるだろうことは誰しもが理解するところだ。今回の発表はある程度、金融界の中枢側もリブラの発行を容認し、あるいは奨励した背景があるからこそ、29社で足並みを揃えて発表に至ったはずだ。2020年頃にはこれを100社へと目指す構想である。
次に期待されるのは、「第二、第三のリブラ」の登場だ。たとえばAmazonがリブラのようなエコシステムを立ち上げることは、「物販・商魂」がミエミエだが大いにありうる。個人データの活用にはダークなイメージがつきまとうFacebookが、先行して立ち上がってくれた形だ。Appleは今年8月20日に米国市場でiPhoneのWalletと紐づく「Apple Card」を発行した。
現在のマーケティングの現場は、「視聴データ」「閲覧履歴」等の「軽いデータ」の効率化に向いているが、今後、巨大プラットフォーマーはその価値を「重いデータ」として生活者と共有するようシフトしていく。過去のデータをマネタイズ発想させる「マーケティング・データ」の枠組みを超えて、「生活をともにする」インフラとしての価値再編が始まった。