日本のマーケティング責任者が直面する課題
――CMOが新たに担うべき役割についての議論では、海外の先進的なCMO像が色濃く反映されていると思います。そもそも日本と海外では、従来型のCMOであっても位置づけが異なるという指摘も多いです。
CMOの違いの前に、まずマーケティングの位置づけが異なります。
欧米には様々な人種や言語の人が暮らしており、メディアも細分化されています。一方で日本は同質性が高く、モノを作れば売れる高度経済成長期があったため、マーケティングがそれほど重要ではありませんでした。メディアの選択肢も少なく、マス広告を打てば売れた時代がありました。ある意味、効率的だったと言えます。日本の商品は高い技術力に裏打ちされていたことも関係しています。
その結果、強い製品を持っている会社ほどマーケティング部門が弱い傾向がありますし、数字を背負うのは営業部門であることも重なって、マーケティングセクションの発言力は弱くなります。
しかし、かって均質傾向にあった消費・購買ニーズは、細分化の一途をたどっています。もはや性年代などのデモグラフィック属性のアプローチだけでは成果は作れません。多様化した個人のニーズ、消費の価値観に沿って丁寧に対応しないと購買には至りません。よりカスタマイズ化・パーソナライズ化された商品が求められる傾向にあります。
こういった生活者側の変化への対応を可能にしているのがメディア・プラットフォーム側の進化です。テレビなどの4マス媒体に加えて、デジタルの各種メディアやソーシャルプラットフォームが台頭しています。そこでは膨大なコンテンツが限りなくリアルタイムに生み出されており、自分が知りたい情報をいつでも好きな時に場所を問わず検索し深掘りできる環境が生まれました。
こういった情報大爆発時代では、これまでのやり方は通用しなくなりました。マーケティングドリブン(マーケティング起点)の発想がこれまで以上に必要になると考えられます。
全体最適の視点で取り組む権限を得るため、経営指標にコミットせよ
――日本のマーケティング責任者を欧米型の先駆的なCMOにするために、CMOの職務をどのように定義し直せばいいのでしょうか。
CMOが全体最適の視点で取り組めるようにするため、CMOに権限を付与する必要があります。権限を持ったCMOが、人事トップ、営業トップ、経営企画、システムの各トップと連携して、全社あげてのマーケティングを展開することが求められています。これにより、質の高いCXの提供を推進できるでしょう。
CMOは権限を持つだけでなく、経営へのコミットメントを深める必要もあります。経営への関与が高まれば他のCレベルとのコラボレーションが生まれ、情報共有の枠を越えてマーケティング改革を進めることができます。CMOは、経営陣と共通のミッションの下に他の部門の執行役員をまとめあげるオーケストレーションのような役割を目指すべきだと考えます。
その前提として、マーケティング部門は経営指標にコミットすべきです。具体的には、マーケティング部門として追求している数値目標が売り上げ指標にどのようにつながっているかを明らかにする必要があります。同時に、獲得目標が「一人でも多く」といった測りようがない目標になっている場合や、前任者が設定した根拠に基づかない無謀な数値になっている場合は、現実的な目標を立て直すことも重要です。
マーケティング指標と経営指標を結びつける
――マーケティングの指標が売り上げにつながっていないと、マーケティング責任者の発言力や社内における存在感も小さくなりますね。
その通りです。しかし、マーケティングのKPIと売り上げのKGIが結びつきにくいのも事実です。そこで我々は、仮説でもいいので、まずは結びつける、関連性の方程式を作ってみることを提案しています。
たとえば、オウンドメディアのPVがこれぐらい増えたので、リアルの売り場においても売り上げにはこれぐらい影響しているというような仮説が確からしければ、PVと売り上げをつなぐ関数がブラックボックスだとしても「PVを上げることには価値がある」となります。逆に、マーケティングのKPIは上がっても売り上げへの影響はないとなると、KPIをどう変えるべきかの試行錯誤ができます。
このようにマーケティングKPIとビジネスのKGIを結びつける仮説を作り、方程式に落とし込めるかどうかは、施策を実施しPDCA運用を行う上で大きな違いを生むと思います。我々はコンサルタントとしてマーケティングKPIを見直したり、統計学を用いてKPIとKGIとつなぐ方程式を作るお手伝いもしています。