時価総額1,800億円!「Sansan」好循環の起点はLTVにあり
実際にBtoB企業の中でマーケティング力が高いと言われている企業は、ことごとくLTVの高いサービスを提供している。
たとえば名刺管理サービスを提供するSansanだが、上場時の決算書を基に著者が算出したところ、彼らの月次解約率は0.66%、1顧客単価は156,000円(2019年5月期末時点)で、理論上のLTVは約2,364万円もある。
CACはEight事業とSansan事業の内訳が明かされていなかったので、広告宣伝費ベースで計算すると、220~450万円。

BtoBマーケターの感覚では、CACに250~400万円前後を使えると「なんでもできるな」と感じる。つまり、様々なマーケティングチャネルを使えるし、営業パーソンの採用に力を入れ、営業コストをかけて案件を獲得することもできる。
Sansanは、2,000万円を超える高いLTVを有しているからこそ、次のような成長のスパイラルを維持しているのだろう。
広告や営業にコストをかけて、様々な施策を打つことができる
→認知が広がり、ブランドも育成できる→顧客が増え、成長できる
逆に、Sansanのように高いLTVが実現できないと、広告や営業にコストをかけられず打てる施策が限られる。認知を広げられず、ブランドを育成できない→CPA/CACが下がらない→顧客が増えず成長が頭打ちになる、という負のスパイラルに陥ってしまう。
LTVが30万円程度で、CACに10万円しかかけられない商材と、SansanのようにCACに200万円以上かけることができる商材では、マーケティング戦略・施策の選択肢がまったく変わってくるということである。
顧客単価/継続期間に着目して、LTVを高める
「LTVを高める」と言っても、言うは易し行うは難しで、どうすれば良いかわからない……という声も聞こえてきそうだ。本質的には、顧客が価値を感じるものを提供し、その価値を高め続けることが重要だが、ちょっとした工夫でLTVを改善していくこともできる。
前述の通り、LTVは平均顧客単価×継続期間(期間や購買回数)で算出されるため、これを伸ばすには顧客単価を上げるか、継続期間を伸ばすかの2つの選択肢が存在することになる。これを踏まえた上で、まずはBtoBサービスの顧客単価を上げる5つの方法を順に確認していこう。
BtoBサービスの顧客単価を上げる5つの方法
1. 提供価値の向上に合わせて値上げする
機能を充実させ、ユーザーが得られる便益を増やしていくに従って、単価を上げるパターン。今年、Amazonプライムの年会費が3,900円から4,900円に値上げされた。上昇率にすると25.6%だが、サービスに満足している多くの方が、解約することなく使い続けたのではないだろうか。
2. 中堅・大手を対象にする
同じサービスを同じ原価で提供しても、単純に財務体力が違うため、SMBより中堅・大手企業の方が支払える金額は大きくなる。金額によっては、そもそも中堅・大手企業以上でないと買えないケースもあるだろう。
たとえばクラウド会計ソフトを提供しているfreeeは、2019年8月、IPO準備をサポートする「IPO事業部」を新設するなど、スモールビジネス以外にも対象を広げている。
3. 成果と比較して値付けする
料金設定をする際、
・原価に対して一定の利益を乗せて、料金を設定する
・競合との比較の中で、料金を設定する
場合があるが、原価や競合とは関係なく、顧客に提供できる価値・成果から逆算して設定する方法もある。
コスト削減のコンサルティングファーム、プロレド・パートナーズは、コンサルティングフィーをコスト削減の成果に応じて(3年分の成果の3分の1が対価)請求するビジネスモデルを採用し、2019年10月期の営業利益率は45.9%にも上っている。
4. アップセル、クロスセルする
既存のクライアントに対して、より高額なプラン・メニューを販売することをアップセル、他製品を販売することをクロスセルという。
アップセルの事例としては、導入時の初期設定代行や運用時のコンサルティングサービスの提供がわかりやすい。前出の「Sansan」も、導入および運用支援を行うサービスを月額20万円~150万円で提供している。
クロスセルの事例としてマーケターがイメージしやすいのは、SalesforceがSFAツールである「Sales Cloud」の顧客に対して、MAツール「Pardot」を販売している例だろう。既存顧客に自社の他製品を販売する場合、CACが低く抑えられるメリットもある。
5. 松竹梅の料金プランにする
心理学では「極端性の回避」という法則がある。これは「3段階の選択肢があった場合、多くの人は真ん中のものを選ぶ」というもので、別名「松竹梅の法則」とも呼ばれる。
松竹梅の3つのプランを作った場合、2対5対3の比率で売れると言われている。自社が売りたいプランの上位と下位のプランを作った場合、理論上は全体の7割が、自社が選んでもらいたいプラン以上の金額で売れることになる。