規模の経済を追うブランディング・サービスの限界
今後、D2Cに代表される細分化されたOne to Oneコミュニケーションによって「ブランディング=ファン構築」に挑むスモール・ニッチブランドが増える。これにより保守的で旧態の大手銀行や保険業界のようなクライアントを除けば、AccentureやDeloitteなどの「巨大コンサルティング企業の名義」を引き金とした発注要因の比率は、大数の法則に従い減っていくことになる。
D2C、特に「DNVB(Digitally Native Vertical Brand)の新興の成長ブランド」は、小規模・インハウス化によるオペレーションが大前提であり、巨大コンサルティング企業の体制のままではクライアント相性が合わない傾向がある。DNVBに象徴される「勢いのある事業主」は、独立した事業主エージェンシーやサイズの合う会社とパートナー関係(ファースト・パーティー)になる。これに比例して図表1のように、大手コンサルティング企業はホールディングス形態に徹し、傘下に収める買収先は小規模になり、代わって買収件数が増えているようだ。
過去のマス広告の時代においてデジタル「マーケティング」を称するエージェンシーは、ひとえに媒体枠の取引を「スケール化」させることで、売上拡大を図ってきた。今後のエージェンシーと称する業態は、さらなるデジタルらしい分野(マスとしてのスケールではない部分)の「一つひとつのローカル関係資産を、代理ではなくクライアントと共同の資産として積み上げていくこと」への「トランスフォーメーション」が続く。
日本のエージェンシーの転換点
欧米の旧態エージェンシー群も試行錯誤の最中だが、日本市場でもその変化は進行形である。
電通グループにおいては、ホールディング機能の会社の名前と、傘下の筆頭事業会社(広告会社)の名前が同じ「電通」であったことが、日本市場での広告事業と投資戦略との違いをあやふやにさせていた。電通は2020年を目処に純粋持株会社の機能と名称の発表を予定しており、これで新たな概念が日本の広告業界を加速させることになろう(持ち株会社機能への移行は、ソフトバンクでさえようやく今年に完了した)。
概念が先行している、博報堂DYホールディングスを例にすると、日本で次に起こる変化が想像しやすい。博報堂DYは、ホールディングスの立場を使いながら、今年2月にDACを取り込む作業を完了した。これにより、アドテク投資を含めたテクノロジーチームが傘下の広告事業会社である博報堂、大広、読売広告社の中に「1つの事業体」として組み込みやすくなる。
一方で、その他の日本のエージェンシーは、上記の環境変化においてどのように「単独で」「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」を遂げて、クライアント事業のファン化を促進していくのか。一つの可能性としては、大手では手がでない「さらなるニッチ事業・若い事業クライアント」への先行投資だろう。アカウントをいただく形式のエージェンシーではなく、「小さいスタートアップから、ともに事業を育てる」分野で手を合わせ、コミッションやフィーではない成果報酬に応じる事業主を見つけられるか。ニッチ事業における成果報酬の芽は、むしろ小規模エージェンシーこそが担える素養となる。