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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

DMのもつプッシュ力を“データドリブン”で最大化せよ/日本郵便が提唱する、心動かすコミュニケーション

 日本郵便が2016年から進めてきた、デジタル×アナログ振興プロジェクト。プッシュ力の強いチャネルであるDMは、“データドリブン”を武器とすることで、どんなコミュニケーションを実現してきたのだろうか。本記事では、同プロジェクトを発足当時から担当している中垣氏に、市場規模から見えてきたDMの伸びしろ、「DM1.0から4.0への変遷」と呼ばれる発展の過程、そして生活者の心を動かすDM制作のポイントについて、余すところなく語ってもらった。

チャネルはアナログでも、その設計はデータ重視に

日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 係長 中垣征也氏
日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 係長 中垣征也氏

――まずは中垣さんのご担当業務について教えてください。

中垣:2016年から発足した「デジタル×アナログ振興プロジェクト」に、開始当初から従事しています。デジタルとアナログを融合したリッチなコミュニケーションを生活者へ提供するため、PR活動や産学協働の実証実験を進めてきました。その様子はMarkeZineでも発信しており、今回、各記事をより見やすい形で整理したアーカイブサイトを開設しました。

――日本郵便さんのプロジェクトでは、生活者が求める「リッチなコミュニケーション」をどのようなものと想定していますか。

中垣:キーワードは2つ、「シームレス」と「パーソナライズ」だと認識しています。どちらもデジタルマーケティングではおなじみの言葉ですが、アナログの世界と掛け合わせたときにどんな意味をもつのか、少しお話したいと思います。

 まずは「シームレス」について。藤井保文さんと尾原和啓氏さんの共著『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』が話題になりましたが、生活者は今後ますます、アナログとデジタルの区別を意識しなくなっていきます。Webでも紙でも、好みのチャネルで、自分の好きなタイミングで質の高い情報を受け取りたいというニーズが大きくなるはずです。

 一方、私たち発信者側の業界構造や社内組織を見ると、今もデジタルとアナログの間の壁を完全に取り払うことはできていません。両者の橋渡しとなる存在が必要だと考えたのが、プロジェクト発足の経緯でもあります。

――なるほど。「パーソナライズ」についてはいかがでしょうか。

中垣:「パーソナライズ」は企業が生活者を具体的な「個」客として扱うために、デジタルの世界では当たり前にされていることですが、生活者がチャネルの違いを意識しなくなることを考えると、DMや紙媒体の広告にも1to1のコミュニケーションが一層求められるようになります。

 重要なのはDMというアナログなチャネルで情報を届ける場合も、裏ではデジタルでデータが一元化されていて、それを基にコミュニケーションを設計できることです。この仕組み構築を、デジタルマーケターの方とさらに加速していけるとおもしろい。これが、私たちの目指す融合、そしてリッチなコミュニケーションです。

質の高いDMの秘訣は、部署横断での“ノウハウ持ち寄り”

――中垣さんはデジタル・アナログ融合の重要性を様々な場面でPRされてきたと思いますが、実際にDM企画・制作の現場は、変わりつつあるのでしょうか。

中垣:DMなどのアナログ施策を担っていた部署とデジタルの部署が共同で取り組む動きが、少しずつ出てきています。しかしまだ十分とは言えません。

 DMの企画・制作には独特のノウハウがあるのですが、それが「秘伝のたれ」のように属人化し、共有が進んでいないことも少なくないようです。また、アナログ媒体を担当してきた部署は、コンテンツ制作力があり、”お蔵入り”になってしまった良い素材をもっていることもある。

 このようなアナログ側のノウハウやコンテンツと、デジタル側のデータ活用技術を合わせていくことで、より生活者に反応してもらえる、クオリティの高いDMができあがるのではないでしょうか。

――融合の可能性が、まだまだあるように感じますね。デジタルマーケターが果たすべき役割については、どのように考えていますか。

中垣:特にシナリオ作成に関してはデジタル側が引っ張っていくと、今の生活者に自然に寄り添う良いものができる気がしています。日々データを通じて、お客様の今を一番近くで見ているからです。

コンテンツの高度化にともない、「制作関連費」の推計を開始

――ここからは、DMそのものが現在置かれている状況を深掘りしたいと思います。まず、DMの市場規模は現在どのくらいなのでしょうか。

中垣:まず電通の「日本の広告費」から、2018年度の市場規模を見てみると、3,678億円。昨対比99.4%で、微減の状態です。しかし「日本の広告費」の概要によれば、この数字の内訳は、ダイレクト・メールに費やされた郵便料・配達料であり、その他の工程にかかる費用は反映されていないそうです。コンテンツの制作手法は高度化しており、もっと大きな市場で戦っていると認識しています。

 実際に、電通は2018年度から企画や制作にかかる「DM広告制作関連市場」の推定を開始しましたが、その額は1,214億円合計すると4,892億円で、新聞広告を超える規模です。ここにデータマーケティングにかかる費用も反映すると、さらに大きな数字になると思います。

――推計のための新たな指標が生まれたことが、制作手法の高度化を表していますね。今後はどのように推移していくのでしょうか。

中垣:全体の市場規模は下げ止まり、もしくは増えていくとみています。より具体的に言うと、DMのタイプによって、増えるものと減るものがあると考えています。生活者の求めに応じて発展してきた過程を、DM1.0から4.0への変遷と整理したいと思います。

――発展の過程について、詳しく教えてください。

中垣:まずDM1.0は、「DMの元祖」とも呼べる手法です。情報のリーチを主たる目的として、一度に大量に刷って、大量に届ける。生活者の手元にはたくさんのDMが届いていた時代なので、各企業は開封してもらうために工夫を凝らしていました。ここで生まれた「手触りで目立つ」「振ると音がする」といったギミックは、今でも通用します。しかしこうしたマス的な目的のDMは、これからは減っていくのではないかと考えています

 次にDM2.0というのは、属性データを使い始めたもの。顧客の職業や、性別、年齢などを掛け合わせて活用する例が出てきました。バリアブル印刷の技術が発展したこともあり、人の名前を刷り分け、強調するなどの工夫も可能になりました。

――データ活用によるパーソナライズ化が始まったのですね。

中垣:はい。さらに購買履歴データを掛け合わせたDMも出てくるようになり、DM3.0と呼んでいます。特に通販業界などで発展した手法ですが、顧客が何をどれだけ、どのような頻度で買っているかを洗い出しておき、多種の刷り分けをしたDMを届けるのです。

――少しずつ、1to1のコミュニケーションの方向に近づいていますね。具体例はありますか。

中垣:トッパンフォームズさんが制作された、ソフトバンクさんのDM「10年間の感謝を込めたあなただけのケータイアルバム」は、DM3.0の真骨頂だと思います。

 「10年間の感謝を込めたあなただけのケータイアルバム」(2018年度の全日本DM大賞グランプリ受賞作品)
「10年間の感謝を込めたあなただけのケータイアルバム」
(2018年度の全日本DM大賞グランプリ受賞作品)

 これは購買データを使って、個々のユーザーがこれまで使ってきたケータイ機種をアルバムのようにまとめたもの。ケータイにはその時々の思い出がたくさん詰まっているという人々の気持ちをくみ取り、アルバムで表現しています。新製品への買い替えを目的とした施策ですが、それ以上に顧客ロイヤリティの確保に大きく貢献したのではないでしょうか。

――興味深い取り組みですね。最後にDM4.0についても教えてください。

中垣:DM4.0は、さらにWeb上の行動データを活用し、デジタルとアナログの掛け合わせを体現したものです。「次世代型DM」と呼ばれることもありますね。

 実践例としては、ディノス・セシールさんの「カート落ちDM」が有名です。ECと紙を連携させ、商品をカートに入れてから離脱した顧客に、最短24時間以内にはがきを印刷・発送する仕組みを構築し、完全なパーソナライズ化を実現しました。

「最新テクノロジーで自動化へ!パーソナライズされた情報が欲しいタイミングで届くDM」(2019年度の全日本DM大賞グランプリ受賞作品、該当のはがきは「第1弾」」)
「最新テクノロジーで自動化へ!パーソナライズされた情報が欲しいタイミングで届くDM」
(2019年度の全日本DM大賞グランプリ受賞作品、該当のはがきは「第1弾」)

――この取り組みは、デジタルマーケターの間でも大きな話題になりました。

中垣:今後増えていくのはこのタイプのDMであると考えています

 「カート落ちDM」の注目すべきポイントは、DMがもつプッシュ力の強さに、バリアブル印刷やデータ活用の技術を組み合わせることで、最適なタイミングで顧客の心を動かすアプローチを実現した点です。一度カートに入れたものの、なんらかの理由でそのままにして離れてしまったモノについて、DMがぽんと背中を押すように教えてくれた。「はがき」という媒体や「通販」という業界に特化した取り組みではなく、マーケターの戦略次第で、様々なシーンで「心動かすメディア」としてのDMの特性を活かしたシナリオができるはずです。

デジタルのスピード感に合わせた郵便サービスを模索中

――中垣さんはこれまで、プロジェクトを通じて様々な企業の取り組みをご覧になってきたと思いますが、中でも印象的だったことはありますか。

中垣:DMの特性などの情報を発信すると、世の中のマーケターたちが、「こんなことができそう」「あんなこともしてみよう」と豊かな発想で実行に移してくれる。そのスピードや、生まれてくるアイデアのおもしろさには、いつも驚かされています。

 先ほどの「カート落ちDM」も、ディノス・セシールの石川森生さんが、こういうコミュニケーション施策を実現したいと構想を練っておられたところに、それを可能にする印刷技術の存在を知ったことがきっかけで実現できたものと聞いています。

 特にデータに強いマーケターは、生活者とちょうど良い距離感を保ちながら、心を動かすコミュニケーションを設計するのに長けています。だからこそ、DMに関する最新の情報やノウハウを、わかりやすくオープンに発信していくべきだと考えています。

――最後に、「デジタル×アナログ振興プロジェクト」の今後の展望を教えてください。

中垣:組み合わせることの重要性は、広く浸透してきたのではないでしょうか。しかし「具体的にどのように組み合わせていけばいいのか」については、業種や業態、顧客層に応じて千差万別なので、整理した形でお届けしきれていないと感じています。

 今回、アーカイブサイトを開設したのも、個々の取り組みをカテゴライズしてまとめることで、なんらかの方程式を発信できたらという思いが根底にあります。デジタルの世界における方程式なので、寿命はものすごく短いと思いますが……。

 もうひとつ、郵便サービスの充実という面では、郵便の世界がデジタルのスピード感に追いつくような仕組みを整えたいですね。DM4.0が広がりつつある背景には、Web上の行動を踏まえたコミュニケーションを、プッシュ力の強いDMというチャネルで実現したい、というニーズがあると思います。しかし現状、DMは「郵便として普通に出してもらう」アプローチしかなく、どうしてもタイムラグが発生してしまう。

 これはまだ個人的なアイデアレベルのお話しですが、たとえば、お届けする人のすぐそばにある郵便局でDMを印刷・発送できたら、よりスピーディーにDMチャネルを利用したコミュニケーション施策を実現しうる環境が整うと思います。すると、マーケターの皆さんがまたおもしろい発想で活用してくれて、生活者に一層リッチなコミュニケーションが届けられると期待しています。

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/10/23 14:45 https://markezine.jp/article/detail/32059