データサイエンスは施策に裏付けを与えてくれる
――今日はアドフレックス・コミュニケーションズの柳下亮平さんにデジタルマーケティングにおけるデータサイエンスの活用法についてインタビューしていきたいと思います。柳下さんは現在ディレクターとしてデータサイエンスを活かしたクライアント支援に携わっていらっしゃいますが、もとは金融業界のご出身ですよね。
柳下:はい、新卒で入社した証券会社ではマーケットの数字指標と向き合うなかで、数字のなかから洞察を得てどのような投資をすればどのようなリターンが得られるかを予測していくセンスを養えました。この感覚は、データサイエンティストとしてお客様のデジタルマーケティングを支援する今の業務にも活きていますね。
――その後、SpeeeさんでSEOコンサルティング業務を経験され、スパイスボックスさんに入社されてから本格的にデータサイエンスに携わり、NRIネットコムを経てアドフレックス・コミュニケーションズにジョインされたとうかがっています。データサイエンスに関心を持ったきっかけはなんだったのでしょう?
柳下:きっかけは、スパイスボックス在籍当時にクライアントさま向けの広告レポーティングを担当するなかで、根拠のある分析や推測に基づく提案ができるようになりたいと強く感じたことにあります。
広告配信プラットフォームの管理画面で得られるデータをExcelに取り込み、表やグラフに落とし込んで資料を作成していたのですが、なぜこのような配信結果になり次はどのような施策を打つのかをクライアントさまに説明するなかで、自分の解釈は恣意的かもしれない、もっと明確な根拠がほしいと感じることがあったのです。
根拠のある分析や推測を行うにはどうすればいいのかを模索するなかで統計学にのめりこみ、データサイエンスに基づくクライアント支援ができるようになりました。最近は提案に対してエビデンスを重視されるクライアントさまが多く、統計学に裏付けられた提案を高く評価いただいております。
データサイエンスはデジタルマーケティングをどう変えるか
――ここで改めて、データサイエンスとは何か、定義を教えていただきたいです。
柳下:データサイエンスには定義が様々あり機械学習なども含むこともありますが、基本的には統計解析を意味することが多いかと思います。私としてはデータサイエンス(統計解析)は「情報を価値に変えるフレームワーク」で、予測や現象の解釈を行えるものだと考えています。一方で、機械学習は予測や分類に長けていて精度を高速で上げていけることが特徴です。
それぞれ長所が異なりますが、データサイエンスは現象を解釈してその背後にあるストーリーを読み解きやすいこと、ビジネスの実情にあわせてモデルを調整しやすいことも強みだといえるでしょう。
たとえばリスティング広告やディスプレイ広告を出稿する際、過去のクリック率やコンバージョン数をグラフや表にまとめ、どの数値が結果に影響していそうなのかを考えますよね。加えて、広告の遷移先についても1セッションあたりのPV数を伸ばしたほうが良いのか、1ページあたりの滞在時間を延ばしたほうが良いのかなどのページやコンテンツの質的な部分についても担当者が分析し、今後の打ち手に反映するのが一般的だと思います。
こうした解釈や予測の立て方は担当者の知識や経験に依存して属人化しやすいですし、予測の内容が正しいかどうかが判断しづらい傾向にあります。一方、データサイエンスでは各要因がCV数の増減にどのように影響しているかを数式で表現できるので、科学的な背景に基づく提案が可能になります。
具体的にはリスティング広告の予算金額をどれだけ増やしていくとCV数がどの程度増えるかを数式で表現して、「企業が設定しているCPA目標を上回らずにCV数を最大にできる広告予算額」を導くことが可能です。
――そのような予測値を算出する際、実際にはどのようなステップを踏むのでしょうか?
柳下:クリック数、インプレッション数など、広告配信プラットフォームの管理画面で取得できるデータを、Rを代表とする統計解析の専門ソフトに取り込みます。そして、データの種類に応じて適切な多変量解析の手法を用いることで、当てはまりの良い数式モデルを作りCV数を予測できるようにします。
ただ、専門ソフトで出せるアウトプットは専門知識がないと読み取れない場合が多いので、クライアントさまへ納品する際はまずはExcelでアウトプットできる範囲で解析結果をご提供することも多いですね。そして、統計解析で導いた数式を専門知識がなくても理解できるような形式にして、ひと目でわかるグラフも添えます。
マーケターご自身にとって理解しやすくするだけでなく、数式がどのようにできていて何を意味しているのかを上長にご説明しやすいように、シンプルでわかりやすい表現を心がけています。
最適な広告予算額は数式で導ける
――データサイエンスが加わることでマーケティング施策はどのようにブラッシュアップされるのでしょうか。
柳下:収益に直結する部分でいうと、たとえば予測モデルから線形計画法に基づいて「CV数を最大化させるために適切な広告予算の配分」を算出できます。
一般に広告予算額は増やすにつれて増分から得られる広告効果が徐々に下がっていくものです。そこで、広告配信媒体ごとに広告予算額とCV数の関係性をシミュレーションし、これ以上予算額を増やしてもCPAが上がるばかりで広告効果がほとんど増えなくなる、広告効果を維持できる上限となる広告予算額およびCV数を出すことも可能です。キャンペーン単位での広告予算額とCV数のシミュレーションも同様に行えます。
リスティング広告の改善はもうやりきっていて伸びしろはない、と考えているクライアントの方は多いのですが、分析してみると広告予算額がCPAが悪化するポイントに達しておらず、予算額を増やすことでCVを効率的に伸ばせることが判明することもあります。
テレビCMやイベントなど、オフラインの媒体も交えて最適な広告予算のアロケーションを導き出すことも可能です。テレビCMやイベントの場合直接的な効果指標を得られないので、状態空間モデルなどデジタル広告だけの場合より高度な分析手法を採り入れることが多いです。
――ということは広告予算の策定プロセスにデータサイエンスを取り入れるとROASを最大化しやすいということですね。
柳下:そのとおりです。多くの場合、企業として捻出できる広告予算が決まっており、それを割り振る形で各キャンペーンや媒体の広告予算に設定する場合が多いと思います。ただ、そのように恣意的に決められた予算が必ずしも費用対効果の観点から最適な金額だとは限りません。
データサイエンスによる予測を入れれば、広告予算が不足していて機会損失しているとか、逆に広告予算が過剰であるといった状態を回避して費用対効果を高めることができます。ですので、予算策定からお任せいただけるクライアントさまには率直に最適なアロケーションをご提案しますし、特定の媒体やキャンペーンの広告予算を下げて他の部分へ割り振るご提案をさせていただくこともあります。
各媒体が提供する広告プラットフォームにも入札を自動で最適化する機能はあります。一方で、あくまで設定した予算内で効率性を高めるためのものであると考えられるため、各媒体にどのくらい予算を投じるかは広告主が決める必要があり、成果を挙げる上で非常に重要な意思決定の部分だと考えています。その面において、私たちがデータサイエンスで効果的に支援できると考えております。
アドフレックス・コミュニケーションズではAIを活用したマーケティング支援を得意としており、たとえばリスティング広告の場合「AdScale」というツールを用いてAIの力で獲得効率を突き詰めてさらに広告予算を有効活用することができます。その場合も、広告予算額をどのように割り振るかはデータサイエンスが効いてきます。
データサイエンティストが最適な予算アロケーション作りを支援し、運用ではAIツールを用いて徹底した効率化を図るというのは、最も効果的な広告運用体制の一つなのではないでしょうか。