なぜ今、企業が持つ価値観を伝えていくべきなのか?
江端:それは近年より重要な要素になっていると考えてよろしいのでしょうか?

コトラー博士:はい、今まさに重要度が増してきているものです。理由のひとつに「ミレニアル世代(※諸説あるが、主に1980年代から1990年代に生まれた世代)」の存在があります。彼らは、先に挙げた民主主義や資本主義が上手くいかなくなった状況を体験しながら育ってきた世代です。そんな彼らは「ブランド・アクティビズム」にとても敏感に反応します。彼らは「世の中を良くする会社」の商品を買いたいと思っているし、そんな企業で働きたいと考えています。
そのため、企業は今後、顧客や従業員、あるいはビジネスパートナーなどを得るために、“自分たちがどのような価値を大切にするのか”をはっきりと伝えていかねばならなくなるでしょう。商品・サービスの価値を金銭的に伝えるだけではなく、自社が守る会社の指針や価値観を伝えていく、ということです。
江端:なるほど。その価値観に共鳴する人たちが商品やサービスを利用し、価値を広めてくれるということでしょうか。
コトラー博士:そのとおりです。また、その価値観は働き方の中心であり、企業の本質的な部分でなければなりません。
「魚を捕り過ぎている」とか「水資源の確保が大変だ」と言うのは簡単ですが、その会社が本当にその問題に真摯に向き合っているのか、裏で大量のゴミを廃棄したり、海洋にプラスチックゴミが増大する商品を製造・販売したりしていないか? という部分も評価されます。自社が“なぜ、何のために、どのようなことをしている存在なのか”、透明性を持って伝えなければならない時代になってきているのです。
江端:コトラー博士、本日はありがとうございました。
ブランドが伝えるべき価値観が変わってきている
時間の都合でインタビューはこちらで終了となったが、博士が考えていることのエッセンスを聞くことができたように思う。これからの時代、企業は商品・サービスそのものもさることながら、その背景にある価値観や思想、主義主張を、透明性を持って(顧客や取引相手、従業員やその家族など)様々なステークホルダーに伝えていかねばならないのだということを、改めて実感できた。
以下は、今回の取材内容を基に、今までのブランドと、これからのブランドとを比較したものだ。ブランドが伝えるべき価値観が大きく変わってきていることがわかる。

コトラー博士が「World Marketing Summit Tokyo 2019)」にて語った内容も、下記レポートにてまとめています。「Common Good」についてはこちらでより詳細に解説しているので、あわせてご覧ください。
【イベントレポート】
「88歳、米寿を迎えた近代マーケティングの父フィリップ・コトラーが伝えたいこと」
