サードパーティーのAIツールにしかできないことがある
――近年では広告配信プラットフォームにもAIによる最適化機能が実装されていますが、そうしたプラットフォーム側のAIでなく、サードパーティーのAIツールを活用する意義はどういったところにあるのでしょうか。
髙橋:プラットフォーム側のAIは非常に優れたものです。しかし、その最適化機能がサポートしてくれるのは「そのプラットフォームにおいて、いかに費用対効果を上げられるか」というゴールであることが一般的です。一方で、サードパーティのツールで「広告主企業としていかに事業を拡大するか」というゴールを突き詰めると、新たな方針が見えてくることがあります。
つまり、広告主企業の事業成長というゴールに寄り添ってフラットな立場から最適化していけるのがサードパーティーのAIツールの強みだと思っています。
その良い例がAdScaleなのですが、GoogleだけではなくYahoo!も合わせて最適化できます。通常GoogleとYahoo!に割くリスティング広告予算比率が60:40などと大まかに決定されることが一般的な中で、AdScaleを活用してメディア横断的な運用最適化を行うことによって、63:37のように細かく広告予算比率をコントロールし費用対効果を最大化することができます。
このように広告運用において、プラットフォーム単位で最適化するのではなく、メディア横断的に最適な予算配分を導いてCVや獲得効率を改善できることも、サードパーティーのマーケティングAIツールの強みであると考えています。
クリエイティブワークはマーケティングAIにはできない
――広告代理店やマーケティング担当者の働き方をマーケティングAIはどう変えると思いますか。
髙橋:よく言われている「AIが人の仕事を奪う」ことに関して言えば、個人的にはピンときません。たとえば、インターネットが普及することで何かを調べるために必要な時間は短縮されかなり便利になりましたが、我々の仕事はなくなっていませんよね。
つまり、インターネットの発達と同様にAIによって我々の仕事が奪われることはなく、もたらされるのは業務効率やスピードの向上でしょう。たとえていうなら、デジタルマーケティング部に広告運用にすごく長けている方が中途採用で参画することでチームが強くなるという感じでしょうか。チームとして追うミッションへの到達時間が縮まるのは確かですが、部のミッションが抜本的に変わるとか、全てをAIが実現してくれるから仕事がなくなるというわけではないように思います。
――マーケティングAIの発達により、代理店の強みや求められることは変わるのでしょうか。
髙橋:リスティング広告に関してAIが行っていることは主に入札と予算の調整です。キーワード開発やクリエイティブ制作、定例会や電話でのコミュニケーションなど他の業務は人間がやります。むしろ、AIの活用によって工数が浮くため、人間にしかできない仕事の質が上がります。
人間がやらなければいけないこと、人間しかできないことに対して、より多くの時間を割き、専門性を磨ける環境がAIによってもたらされます。今後、AIの方が人間よりも得意な広告領域の幅はより広がるでしょう。そのため、エージェンシーサイドの課題は、クリエイティビティが求められる領域の専門性をさらに磨くことではないでしょうか。