インハウス化に反対した理由とは
野崎:手を動かせるエージェンシー出身者として力を発揮できるであろう、インハウス化への移行に反対されたのですね。それはなぜでしょうか。
木村:インハウス化に対応できる万全の状況ではなかったからです。当時、エージェンシー出身のメンバーは私だけで、メンバーによっては広告運用以外の業務に関心がある者もいましたし、そもそも広告の実運用をするためにLIFULLに入社したわけではないので、インハウス化してもモチベーション管理やメンバーのキャリア形成が難しいと考えました。
そして、広告運用の自動化を前提としたインハウス化を進めるために、「エンジニアと広告を担当するメンバーを一緒の組織にする」「現在お願いしているエージェンシーに伝えた上で、自動化する仕組みの開発と並行して少しずつインハウス化を進める」などの方針をまとめました。その後エージェンシーとの業務分掌を明確化して少しずつインハウス化を進め、メンバーの育成にも努めていきました。

野崎:実行するべきではない理由をきちんと明確にして、実現するための方向性と、実現後に正しく機能するように目的や要件をまとめたのですね。自分の意見をしっかり言って信頼関係を作る。このあたりも木村さんらしいですね。そこから、現在の本業であるコーポレートブランディングに関わるようになったのはなぜでしょうか。
損益を踏まえた広告投資ができるように
木村:インハウス化がある程度軌道に乗ってきたとき、当時はリターゲティング広告への依存度が高かったのですが、すでに問い合わせをしている方にも広告を出し続けているなど、「それって意味があるのか?」「この広告は本当に価値を生み出しているのか?」と思うようになってしまいました。
野崎:それは自身が推進してきた施策自体を否定することにもなり得ますよね。
木村:インハウス化を始めたころは、それによってきちんとビジネスにつながる成果が出せていましたが、成果の出せる施策は移り変わっていきます。それを改善しないと、ユーザーからは嫌われ、会社からは予算を使う部署と思われてしまうので、そうならないためには、自分の強みを捨てることも重要だと考えました。
野崎:コストセンターと思われない立ち回りは、事業会社のマーケターにとって、とても大事です。この視点を持ってキャリア形成されているか否かで、キャリアの市場価値が大きく変わります。では、木村さんはどのようなアクションを仕掛けたのでしょうか。
木村:きちんと確証を持ちたかったので、チームで様々な検証と分析を進めました。そこから、ちょうど社内のキックオフイベントがあったので、弊社代表に「今の広告費の使い方に課題を感じています」と直談判したんです。すると、代表も同じようなご意見を持っていたこともあり、広告費の最適化を検証するプロジェクトを任せてもらえることになりました。
2017年6月から、ダイレクトレスポンス目的の広告宣伝費を約3割削減し、これまでの成果とどのような変化があったかを見て、損益の最適ポイントを探りました。
野崎:いきなり社長に直談判(笑)。確かに社内イベントだと決裁者にコミュニケーションが取りやすいので、参考になるアプローチですね。損益の見極め感覚は、どのようにして身に付けたのでしょうか。
木村:広告運用をする中で、CPAはずっと仕入れ値だと思っていました。売上に対して、仕入れ値に当たるCPAが適切かどうかを常にシミュレーションしていたので、損益に対する感覚も自然と身に付きました。
KPIを達成するためにその指標と向き合うのはもちろんですが、KPIが置かれている目的や数値の背景を理解することが、マーケティングに関わる上では非常に重要だと思います。
野崎:気になる結果ですが、予算を削減した影響はいかがでしたか。
木村:具体的な金額はさすがにここではお伝えできませんが、多額の広告費を削減してパフォーマンスを維持することができました。加えて、削った広告費でブランディングやSEOなど、当時のLIFULL HOME’Sに必要な施策の方針を提言し、2018年からはブランディング領域も一部兼務するようになりました。
