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ECを起点にエンゲージメントを高める/花王「GUHL」がInstagramで展開するスモールマス戦略

 4マス媒体を使ったマスマーケティングを主軸に、様々なヒットブランドを生み出してきた花王。同社は近年、より自分に合った商品を求める生活者の変化に対応すべく、スモールマス向けのブランド展開にも注力している。中でも「GUHL LABORATORY(グール ラボラトリー)」は、Instagramを中心に、デジタル上でのコミュニケーションを重視しながら育ててきたヘアケアブランドだ。その戦略と施策について、同社の生井氏とFacebook Japanの佐藤氏にうかがった。

数年前から、スモールマス向けブランドを強化

――まず、お二人のご担当業務についてお聞かせください。

生井:私は花王の先端技術戦略室という部署で、全社的なデジタルトランスフォーメーションを推進しています。事業・販売分野に所属し、主にEC事業開発の仕事に携わっております。2018年にリリースしたスモールマス向けヘアケアブランド「GUHL LABORATORY(グール ラボラトリー:以下、GUHL)」のECマーケティング戦略立案にも携わっています。

 ちなみにスモールマスについて、当社では「マスではないものの、一定規模の需要が見込める市場」と定義し、2018年頃から取り組みを強化してきました。

佐藤:私はFacebook Japanのクライアントパートナーマネージャーとして、InstagramやFacebookを通じた消費財や美容業界のお客様のマーケティングを支援しています。

――ありがとうございます。さっそく「GUHL」についておうかがいしたいのですが、既に知名度の高いヘアケアブランドを複数展開していらっしゃる花王さんが、なぜスモールマス向けのブランドを立ち上げるに至ったのでしょうか。

生井:おっしゃる通り、これまで当社は「Essential(エッセンシャル)」「メリット」「Segreta(セグレタ)」「ASIENCE(アジエンス)」という4ブランドを主軸とする戦略をとっていました。

 ところが2000年代からマス市場はどんどん縮小し、その代わり、1,000円以上の中~高価格帯のシャンプーがシェアを占めるようになってきたのです。さらに、2012年には空前のノンシリコンブームがやってきました。ちょうどその時、ヘアケア事業部で「メリット」を担当していた私は大きな衝撃を受けましたね。

花王株式会社 先端技術戦略室 課長 生井秀一氏
花王株式会社 先端技術戦略室 課長 生井秀一氏

佐藤:それまで「シャンプーは一家に1つ」が一般的でしたが、ノンシリコンやオイルシャンプーなどの登場を経て、家族一人ひとりが違ったブランドを使うのが当たり前になりました。各社、年代や髪の悩み、ライフスタイルや趣向性の違いに応じたシャンプーを売り出され、中でも女性向けの商品に関しては、より細分化が進みました。

生井:スモールマスが強くなっていく傾向は日用品全般で見られていますが、ヘアケア商品は特に顕著だと思います。

 こうした状況を踏まえ、当社もより細かなニーズに合わせたブランドを育てていく必要があると考えました。そこで2018年に、花王グループがヨーロッパで展開している中価格帯のヘアケアブランド「GUHL(グール)」から、日本向けの新たなシリーズを発売することにしたのです。現在は、一部のオンラインショップと店舗で展開しています。

カスタマージャーニーで明らかになった、Instagramの影響力

――「GUHL」をEコマースで立ち上げて以降、どのようにブランド認知・訴求を図っていったのでしょうか。

生井:初期はECモールの広告に力を入れていたものの、なかなかブランドの世界観を伝えることができず、購買にもつながっていないことが課題となっていました。なにか手を打たなければとターゲットのカスタマージャーニーを調査していたとき、認知から興味喚起の部分におけるInstagramの影響力が、とても大きいことがわかったのです

 そこで佐藤さんにお声がけさせていただき、どうしたらこのターゲットにInstagramを通じて「GUHL」の価値を伝えることができるのか、ご相談させていただきました。

Facebook Japan株式会社 クライアントパートナー マネージャー 佐藤太泰氏
Facebook Japan株式会社 クライアントパートナー マネージャー 佐藤太泰氏

佐藤:「GUHL」のターゲットは美容や健康、ライフスタイルへの興味関心が強い、若年層の女性が中心です。彼女たちはInstagramのヘビーユーザーで、多くのアカウントをフォローして、アプリ内を頻繁に、縦横無尽に回遊しています。

 この層に対してブランドをどのように訴求していくか、ブランド担当、プロモーション担当の皆さんと戦略を練り、髪の悩みに応じて5種類のラインナップを用意していることを、シンプルかつストレートに打ち出していく方針を固めていきました。

モバイルを中心としたクリエイティブを共同で作成

――Instagramにおけるクリエイティブの作り方について、マスメディアとの違いを感じた点はありましたか。

生井:特に悩んだのは、ストーリーズでどのように訴求するかということです。これまで制作してきたのは長尺のテレビCMで、5秒間という短尺でのコミュニケーションは初めてでした。

佐藤:Instagramでは一つの動画に要素を盛り込み過ぎないことがとても大切です。「GUHL」はドイツ発のブランドで、歴史があって、ナチュラルオーガニックで……と、様々な特徴や訴求ポイントがあったため、絞り込むのが難しかったですね。

 実際にストーリーズ広告で使用した動画は、約1分15秒のプロモーション動画から、髪に対する悩みとそれに対応する5種類の商品バリエーションがはっきり伝わる部分を切り出して制作しました。

「GUHL」のプロモーション動画(1分15秒Ver.)
「GUHL」のプロモーション動画(Instagramにて使用)

生井:テレビCMではキーコピーやキービジュアルを決めて作り込みますが、Instagramという媒体の特性を把握した上で、複数のクリエイティブを細かく作り分けることにも、慣れていませんでした。

――様々な面で違いがあるのですね。

生井:はい。クリエイティブを一つだけに決めてしまう「最大公約数」的なアプローチでは、個々人によって趣味嗜好が異なるスモールマスには届きにくいと感じます。

 Instagramでのクリエイティブの作り方は、テレビCMとは根本的に違います。社内の意識を「まず作ってみる」「作りながら改良していく」という方向に改革していくことにチャレンジしてみました

お得感より響くのは、“ライフスタイルの提案”

――公式アカウントの運用に関してはいかがでしょうか。

生井:Instagramのアカウント自体は2018年頃から取得していたものの、運用には定期的な投稿が必要なので、ブランド担当だけでは難しさを感じておりました。

 最初の頃はお試しセットをアピールするなど、お得感を訴求していたのですが、ブランドの世界観を伝えるInstagramという場所では、あまり相性がよくない事に気づきました。ブランドのファンになって頂けるように、Instagramの役割を皆でで話し合い、投稿する方向性を修正していきました。

佐藤:現在は、ブランドのこだわりや製法を丁寧に伝える投稿を増やされていますよね。メーカーの名前を前面に押し出すことなく、世界観を大切にされていると感じます。

「GUHL」公式Instagram(@guhl_laboratory_official_jp)の投稿例
「GUHL」公式Instagram(@guhl_laboratory_official_jp)の投稿例

生井:ありがとうございます。Instagramのユニークな点は、ブランドが提案したいライフスタイルをよく伝えてくれるところだと思っています。

 「GUHL」はナチュラルであることを大切にしているブランドなので、木製の家具や食器を写り込ませたり、オーガニックな食事を投稿したり。一見、商品とは結びつかないように見えますが、世界観に共感してくれるユーザーとのつながりを作り、それを強めることにつながっています

――ライフスタイルの提案、という文脈を大切にしているのですね。ECモールへの動線は、どのように設計しているのでしょうか。

生井::2019年5月に当社初の楽天公式ショップとして「YOUR BEAUTY SOLUTION」をオープンさせ、その第一弾として「GUHL」を扱うことになりました。今はこの公式ショップに広告の動線をすべて集めています。

 狙いはデータを集め、お客様の動向を把握することです。最近確認した広告レポートでは、リーチに関してはECモール内に掲出した広告のほうが大きかったのですが、コンバージョン率はInstagramやFacebook広告のほうが高い結果でした。このことから、リーチを取りつつ、コンバージョンにつなげるためには、ECモール経由の広告とInstagram・Facebookの広告、それぞれを使い分けるべきだということが見えてきました。

ブランドの世界観とコミュニティを同時に育む

――ヘアケアブランドやコスメブランドのInstagram活用は、ますます加速していきそうですね。

佐藤:はい。この領域は、海外でも既に大きな盛り上がりを見せています。モバイルやSNSの拡大にともない、数年ほど前から細分化された個人の趣味嗜好に合わせた革新的なブランドが同時多発的に登場しています

 その代表格がニューヨークやロサンゼルスを中心に大人気の「Glossier(グロッシアー)」というコスメブランドで、新しい美への価値観を提示しながら、フォロワーの声をダイレクトに反映し、ファン化させたことで一躍大人気になりました。Instagramを中心としたSNSのプロモーションをうまく活用し、商品の魅力や世界観だけでなく、ブランドとしての意見を効果的に発信しています。

――なるほど。詳しく教えていただけますか。

佐藤:Instagramを通じて、Instagramを通じて、ブランドの世界観とコミュニティを同時並行で作っているのが興味深い点です。たとえば、商品をタグ付けしてくれた利用者に対して、ブランド側から直接DMを送り、「一緒に広告を作りませんか」と声をかける。そんな取り組みを通して、実際に双方向コミュニケーションをとりながら、ユーザーと距離の近い親しみやすいブランドを確立しているのです。

生井:日本でこうした動きが見られる日も、そう遠くはないと思います。これから先は、デジタルを通じてユーザーと絆を育みながら、同時にマスマーケティングも行っていく時代。当社もブランド作りの新しい在り方を模索しています。

ブランド戦略の根幹を支えるプラットフォームとして

――では最後に、今後の展望を教えていただけますか。

生井:「GUHL」はまだ生まれたばかりのブランドです。Instagramをはじめとするデジタル上の接点を活かして、ユーザーとの結びつきを強め、最終的には一定のボリュームのお客様に使っていただくことを目指しています。

佐藤:当社が提案している「コラボレーション広告」というメニューも、相性が良いのではないでしょうか。ECモールのカタログ情報を使って、ブランド自身がダイナミック広告として出稿できるというものです。

 これにより、ECモールはトラフィックが増えるメリットを享受できますし、ブランドは商品のEC売上に直接貢献するような広告が打てるようになります。たとえば「GUHL」の写真や文言を利用した広告を展開し、クリックすると楽天ショップなどのECモールに遷移することができる仕様です。

生井:ぜひチャレンジしてみたいですね。今までは店頭が生活者との接点でしたが、デジタルを入り口にする人はますます増えている。私たちメーカーはこの状況を受け止め、アプローチを変えていかなければならない転換点に来ています。つまりデジタルを起点に、いかにお客様とエンゲージメントを築いていけるかが勝負だと思います

佐藤:Instagramは利用者と近い距離でコミュニケーションをとることができるプラットフォームですので、そうした面でもお役に立てるはずです。最近はプロモーションだけでなく、ブランド形成そのものにご活用いただく機会も増えてきました

 たとえばストーリーズのステッカーを使って簡易的なアンケートを行うこともできますし、試験的なプロダクトを作って、どちらの商品の方が気に入ったかを聞き取り、改良を重ねるテストマーケティングも可能です。

生井:使い方には、まだまだ工夫の余地がありそうですね。ブランド形成の新たな勝ちパターンを見つけるべく、今後も挑戦を続けたいと思います。

統一感のあるInstagramコンテンツでエンゲージメントを高めるには? プランニング&制作のポイントはこちらから!

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この記事の著者

石川 香苗子(イシカワ カナコ)

ライター。リクルートHRマーケティングで営業を経験したのちライターへ。IT、マーケティング、テレビなどが得意領域。詳細はこちらから(これまでの仕事をまとめてあります)。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/19 10:00 https://markezine.jp/article/detail/32366