人は「感情」で意思決定をする
ここで、レイ氏はアメリカの詩人マヤ・アンジェロウの言葉を引用する。
People will forget what you said or did.
They will remember how you made them feel.人々はあなたがしたこと、言ったことは忘れてしまう。
けれどあなたがどういう感情を与えたかはずっと覚えているだろう。
「ここから何がわかるかと言うと、人の記憶に残るために重要なのは『感情』だということ。これは、科学的にも証明されている」とレイ氏。ある大学で行われた実験によると、人の感情をコントロールする脳の扁桃体部分が上手く機能していない人たちは、たとえそれがどんなに簡単な選択だとしても、「物事を決定する」ということができないのだという。つまり、物事を決めるとき、人間は「感情」に左右されていることがわかったのだ。
では、人の「感情」を動かすにはどうすれば良いのだろうか。レイ氏はクラシック音楽で使われている「アポジャトゥーラ」という手法を例に説明する。アポジャトゥーラとは、メロディと衝突する装飾的な音を指す。この手法が使われると、人は音楽を聴いているときに“違和感”を覚える。そしてその違和感が積み重なることで、心に刺さるような音楽ができあがると言われている。レイ氏曰く、意識的か否か、ヒットする音楽にはこのアポジャトゥーラが使われているケースが多いのだという。
たとえば以下の図は、米国の人気歌手レディ・ガガ、ジャスティン・ビーバー、テイラー・スウィフトのそれぞれのヒット曲をビジュアル化したもの。まったく違う3曲だが、並べてみると同じようなパターンになっていることがわかる。

アポジャトゥーラは音楽の手法だが、「こうしたアポジャトゥーラ的なことを、実際の体験でも作ることができる」とレイ氏。その例として、ディズニーランドを取り上げる。ディズニーランドの建物は、入り口付近ほど高く、奥にいくほど低くなるように設計されている。これにより、遠近法で園内を広くみせ、入ることのわくわく感を醸成しているのだ。逆に、遊び疲れて帰る際には、帰り道が短く見えるようになっており、さらに出口付近にバニラの香りを漂わせることで、疲れが取れるように仕掛けている。
「音楽でいうアポジャトゥーラのように、人間の脳に訴える、心に刺さるようなことを、目に見えないところでもやっているのが、このディズニーランドの手法です。デジタル時代には、ついついロジックを突き詰めてしまいがちですが、それだけでは飛躍するようなことはできません。デジタル時代において重要なのは、ロジックではなく、マジックなのです」(レイ氏)