スティーブ・ジョブズから影響を受けて育つ
江端:スティーブ・ジョブズの名前が挙がりましたが、Appleの有名なキャンペーン「Think different」は知っていますか?
アイドリス:もちろん知っています。
江端:アイドリスはそのキャンペーンの時、もう生まれていましたか?
アイドリス:僕はちょうど1997年の2月2日に生まれました(Think different は同年9月にスタートし、2002年まで継続)。理論的には僕はミレニアル世代に分類されますが、テクノロジーが当たり前の世界に育ったので、キャラクターはZ世代でもあります。
僕はインターネットの黎明期に生まれたので、ネット接続がない世界も知っています。Think differentは、自分こそが世界を変えられると信じるMisfits(=社会常識に捕らわれない、はみ出しもの)を描いた、世界最高のキャンペーンです。そんなキャンペーンと同じ年に生まれたことは、間違いなく、今の僕を形成した一つの要素だと感じています。

江端:なるほど。では、今アイドリスがテック界にいるのは、Inherited Mission (生まれながらの宿命)なのですね。
アイドリス:そうそう、Inherited Mission。その表現気に入りました(笑)。
江端:私はスタンフォードのMBAに1993~94年に行っていたのですが、その時、失業中のスティーブ・ジョブズが行った講演を聞いたことがあります。その時は、「ジーパン姿の髪の長いお兄ちゃんが未来のことを語っているなぁ」と感じた記憶があります。
アイドリス:僕はスティーブ・ジョブズが好きで、かなり研究しています。彼の発言は僕に多くの影響を与えましたが、特に印象に残っているのは、実はアップルにいる時代よりも、そのような一般にはあまり知られていない講演会や大学でのスピーチの内容です。彼はそこでよく、マーケティングの話をしていました。
僕はマーケティングの意味を一番理解しているのは、スティーブではないかと思っています。彼は「Fall in Loveさせれば、その人はついてくる」と言うことを体現できる人でした。
Appleの信望者は、同社のミッションとその理念に基づく主義(=Principles)に惚れているので、Appleが作るものであれば、たとえそれがマグカップであろうと買うでしょう。僕は早くからスティーブの考えに触れてきたので、技術的にも思想的にも、同世代よりも早く成長できたのではないかと思っています。
江端:アイドリスは、小さい時から熱心に図書館に通っていたそうですね。
アイドリス:はい。僕は昔から、そして今も“本の虫”なんです。どんな本でも読みましたが、特に技術の本が多かったですね。人工知能の本を読む前はメインフレーム、コモドールという80~90年代のPCやPascalという言語に関するものや、日本のデザイン、ドイツの工業デザイン、アインシュタインの相対性理論など幅広く読んでいました。