DXが「デジタライゼーション」に陥る罠とは?
続いて桑野氏は、「攻めのIT投資」の例を紹介した。トヨタはシンガポールの配車サービスGrabに10億ドルを投資。同社は車両管理システムやリースプログラムといった個別の機能を包括したプラットフォーム「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」を活用し、新たな市場を創造すべく、様々な事業者と連携している。またロールス・ロイスは、航空機エンジンの費用を飛行時間単位で支払えるサブスクリプション・モデルへと移行した。
両社のような取り組みを成功させるには、マーケティングから物流まで、全社的な変化をサポートするDXが必要だ。しかしDXの推進には、多くの企業が陥りがちな罠がある。それはビジネスへのインパクトを生み出せず、既存事業の自動化、つまり“デジタライゼーション”に終始してしまうことだ。
「経理財務はERPの刷新、営業はSFAの導入、マーケティングはMAツールやDMPの導入と部分最適に陥ってしまうと、ビジネスへの本質的な貢献はできません。すると経営陣が求めている売上へのインパクトは出てこず、『せっかくデジタルに投資をしたのになぜ』と、首をかしげることになってしまいます」(桑野氏)
そうならないためには、各部門のトップが一堂に会し、一つの経営目標に各々がどう絡んでいくのかを考えることが欠かせない。具体的には、コアとなる自社の強みを知り、競争優位性をどうデザインするかを熟考する。次に顧客を知り、その上でデジタルを活かした新しいビジネスを考え、実行していく。桑野氏は「DXを通じて自社の強みを整理することは、事業シナジーを高める重要なきっかけになります」とアドバイスした。
ダイキンの化学事業部が取り組むDX
続いてダイキン工業 化学事業部の寺田純平氏が「ダイキン工業 化学事業部のDXとグローバル展開」と題したセッションを行った。
同社の化学事業部は早くから海外展開に着手し、グローバルにおける顧客とのつながりや関係強化を重視してきた。取り組みの背景には、同社が置かれているビジネス環境がある。
「まずサプライチェーンが非常に長いビジネス構造のため、ブランド価値を上げていくのが難しい側面があります。また、10年前は直接のお客様の要望をそのまま製品に落とし込めば売れていたのが、最近は『蓋を開けてみたら、思うように売れない』ということも増えています。グローバルで勝っていくためには、エンドユーザーのニーズの先取り、そして拠点間の連携が欠かせないのです」(寺田氏)

競争力強化の施策の一つが、デジタルを用いた顧客体験の向上だ。寺田氏のチームではまず、ブランディングと認知向上を主な目的にWebサイトを拡充した。
「これまでお客様との接触は、展示会やセミナー、直接訪問などFace to Faceが基本でした。しかしBtoBにおいても、お客様は『困ったらまずデジタルで検索』と行動が変わっています。そこで候補に挙がることができなければ、接触できないまま終わってしまうことになってしまいます」(寺田氏)
海外では自動車エンジニアの専門サイトや素材サイト、LinkedInなどの外部チャネルを使って、自社サイトに誘導し、新規顧客開拓を行っている。
この他にも、展示会で得られる情報の質と量を上げるための工夫を行っている。特に効果が高かったのは展示会後の「サンキューメール」だ。同社では、名刺情報をすぐにデータ化し、当日にサンキューメールを送信。資料は会場での配布を止め、サンキューメールからのダウンロードのみとした。
するとメール開封率は67%まで上昇し、その後の商談までの流れもスムーズに。成約まで2、3年を要する商材について、展示会終了後から短期間で25件の商談につながった。