AI・最適化技術と人間の評価でデザイン案を「進化」させる
近年、AI・最適化技術の進化にともなって、市場調査においてもその活用が期待されている。本記事で紹介する手法は、生活者の好む組み合わせを探索するため、最適化技術の1つである遺伝的アルゴリズムと、近年発展した深層学習(ディープラーニング)を用いて作成した仕組みである。
遺伝的アルゴリズムは生物の進化に着想を得たアルゴリズムで、比較的昔から活用されており、新幹線N700系の先頭形状のデザインに利用されていることでも知られている。今回開発した方法でもその「進化」の仕組みに則り、デザイン案の生成とWeb調査を繰り返し行うことで組み合わせを探索していく。
具体的な方法は図表1に示す通りである。

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(1)まず、デザイナーが組み合わせのもととなるデザイン素材を作成する。レイアウトや各パーツの種類を数種類ずつ用意すれば、数千〜数百万通りの組み合わせが掛け算的に生成可能になる。(2)続いて初期生成として素材をランダムに組み合わせた数十種類の画像を作成する。(3)次にWebアンケートでそれらの画像を評価して各画像の評価結果を得る。またその評価結果を深層学習の学習データとして用いることで画像の評価予測を可能にする。(4)アンケート評価結果と評価予測を用いて次の世代の画像を生成する。生成した画像に対して再び(3)の工程を繰り返し、合計5回程度の生成とアンケート評価を経て「進化」をした画像を得ることができる。
このような人間の評価を遺伝的アルゴリズムに用いる方法は「対話型遺伝的アルゴリズム」と呼ばれる。一般的なAIのイメージは、事前に十分なデータを用意して学習させた上で、瞬時に実行するものであろう。「対話型遺伝的アルゴリズム」は、こうした一般的なAIのイメージとは異なり、いわば機械と人間の対話作業のようなプロセスを経て実行されていくのが特徴である。
デザインの「組み合わせ」に表れる生活者の好み
架空のコーヒー飲料パッケージを用いて実施した調査事例をもとに、生活者の好みがどのようにデザインに表れてくるかを見ていこう。この事例では架空のペットボトルコーヒーの3つのデザイン方向性(クラフト風/ポップ感がある/日本語表記)をもとにデザイン素材を作成した。背景、商品名表示、キャップ色、といったパッケージデザインの要素の組み合わせは合計で約1万通りとなる。
図表2が実施した「進化」の結果である。

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まず左側の第1世代画像ではランダムな組み合わせで生成されているために幅広いデザインのバリエーションがあることがわかる。その中では大まかに「ポップ感がある」要素よりも「日本語表記」や「クラフト風」の要素が多いものが高評価となる傾向が読み取れる。右側の最終第5世代では、組み合わせはほぼ「日本語表記」で占められるようになる。ここで注目したいのは上位評価の案の特徴として白の背景と北海道の地図のマークという2つの要素が共通して選ばれていることである。これは両方の要素がセットで選択された時に(1)ミルクをイメージした白の背景と産地である北海道の意味的な合致性(2)白地に赤(えんじ色)の視覚的なコントラストの2点のインパクトが大きいためと考えられる。このような組み合わせならではの効果を含めて探索を行うことができる点は、従来の調査手法で実現できなかった特徴である。
生活者の好みの理解という視点では、回答者をターゲット層などのグループに分けて「進化」プロセスを実施するとその嗜好が理解しやすい。先ほどの図表2は男性30代の市販コーヒー飲料購入者をアンケート回答者としていたものだが、比較対象として女性50代を回答者として実施した結果の上位3案と並べたのが図表3である。

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男性30代では前述の通りミルクのイメージを中心とした案が上位になっていたのに対し、女性50代ではコーヒーとミルクが混ざり合うような背景が上位に多い。このような違いは両グループの「カフェラテ」というカテゴリーに持つイメージや期待する内容の違いを反映したものと言えるだろう。