各国の生活者の好みをデザイン案に反映する
複数国の海外市場に進出する場合、担当者がそれぞれの国における生活者の好みを感覚的に理解することは難しい。しかし本手法を用いれば、各国の生活者の好みを反映したデザインの組み合わせを見つけ出すことが可能であるため、海外市場への進出時にも活用しやすい。
事例としてベトナム・インドネシア・日本の3ヵ国の生活者にアンケートを行った架空の袋麺のパッケージデザイン探索事例を紹介する。袋麺の商品として日本風みそラーメンを上記3ヵ国で販売する場合に、各国の生活者の好みに合ったデザインの組み合わせを見つけることを課題としたシナリオを設定した。
デザイン素材の作成にあたっては、各国で販売されている袋麺の商品パッケージを参考にしてベトナム風/インドネシア風/日本国風の3つのデザインの方向性で作成した。また表記言語は各国の言語に合わせた。背景やメインとなる商品名の色違いパターンを多く作成したこともあり、可能な組み合わせは約120万通りとなった。
図表4がベトナム国内の生活者での実施結果である。

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左側の第1世代画像では3ヵ国の既存商品のデザインを参考にしているため幅広い色合いのデザイン案があるが、黒やオレンジや濃い赤の背景の評価が高い傾向がある。そして右の最終世代の画像に至るまでに黒やオレンジの背景に収束している。
また、メインの写真では丼ぶりの色は黒が優位で、背景色との組み合わせからも比較的高級な雰囲気が好まれているように見える。商品が日本のみそラーメンであり、「北海道」のイメージも含めてプレミアム感のあるブランドとして受け入れられる可能性を感じさせる。
図表5が各国の実施結果で最も評価が高いとされたデザイン案である。

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興味深いことに黒の背景と黒色の丼ぶり写真が共通している。少し高級感のあるテイストが北海道のみそラーメンのイメージと親和性がある点が共通しているのかもしれない。相違点としてはベトナム・インドネシアの背景にはオレンジ色が含まれているのに対し、日本の背景は黒一色となっている。
この点はパッケージデザインに対する色彩感覚の違いとも考えられ、袋麺商品にカラフルな色合いの多いベトナム・インドネシアと、より落ち着いたトーンの多い日本の現行商品の色合い傾向とも一致している。
「組み合わせ」探索の活用可能性
生活者の好みを反映したパッケージデザインの組み合わせを生成する2つの事例を紹介してきた。デザイン以外の領域、商品仕様や広告上の訴求内容についても多数のパターンから組み合わせを選択する場面は多く、商品開発やマーケティングの幅広い領域での活用可能性があるだろう。
前述したようにAI・最適化技術を自動化されたブラックボックスとして使うのではなく、生活者との対話のツールとして用いるところにこの手法のおもしろさがある。またデザイン素材作成をはじめデザイナーとの協力も不可欠であり、商品開発者やマーケティング担当者、デザイナーが「生活者の好む組み合わせ」という共通言語のもとで対話するためのツールとして用いるのも有用であろう。
生活者を軸にし、今までできなかった対話やコラボレーションを実現する事例が、本手法にとどまらずAIの様々な活用によって生まれていくことを期待している。